ネイチャー・コミュニケーションズ誌に掲載されたばかりの論文によると、身近に家族がいるなどして「強い紐帯(ネットワーク)」に支えられていると、強い紐帯に支えられていない場合よりも、脳卒中の症状が現れてすぐにも治療が必要になった時に病院に遅れずに搬送される可能性が低いらしい。
その論文の執筆陣の一人であるアマール・ダンド(Amar Dhand)は、ハーバード大学医学大学院に籍を置く神経科医で、オックスフォード大学で社会学の博士号を取得している。社会的な繫(つな)がりと健康との関係について研究しているという。ダンドらは、ボストンおよびセントルイスの脳卒中患者175名を調査対象に選び、紐帯の強さと病院に搬送されるまでに要した時間との間にどんな関係があるかを探った。脳卒中の症状が現れてから病院に搬送されるまでに6時間を超える時間を要した67名の患者は、搬送されるまでに6時間かからなかった108名の患者よりも、距離が近くて結束が強い紐帯に支えられていたという。
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ダンドは語る。「脳卒中の治療が抱える最大の問題がそれなんです。患者本人によってだけでなく、家族だとかの身近にいる人間によっても引き起こされる搬送の遅れこそが最大の問題なんです。脳卒中の患者を病院に遅れず搬送するのを妨げている最大の要因は、人と人のつながりなんです」。強い紐帯に支えられている患者が辿る典型的なパターンがあるという。まず第一に、患者本人が家族を心配させまいとして体の異常を伝えるのを遅らせてしまう。「そして第二に、家族一同で症状について事細かに話し合い、意見が食い違うことさえあります。そして、あれこれ語り合った末に、しばらく様子を見ようという結論に落ち着くのです」。
「エコーチェンバー現象みたいなものですね」とダンドは語る。つまりは、一縷(いちる)の望みにかけて、家族みんなで事がそこまで重大ではないかのように互いに説得し合うわけだ。その患者が過去に罹(かか)ったことがある大したことない病気の件を持ち出して、またあの病気になっただけなんじゃないかと言い合ったりして。
それとは対照的に、強い紐帯に支えられていない状態で脳卒中の症状が現れると、逡巡(しゅんじゅん)による遅れはそこまで生まれない。ショッピングセンター、商店、レストランといった公共の場で脳卒中の症状が現れると、そこで働いている従業員たちが念のためにということで救急車を呼んでくれるかもしれない。場合によっては、見知らぬ相手を看病する責任を負いたくないがために、通りすがりの人がすぐに救急車を呼んでくれるかもしれない。
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〔原文:“Families and social networks don’t always help stroke victims”(Marginal Revolution, April 20, 2019)〕