ラルス・クリステンセン 「中央銀行による『まとも』な研究の稀有な例がここに ~サッカーのワールドカップで代表チームが対戦中だと、株式の取引はどうなる?~」(2012年6月8日)

サッカーのワールドカップで代表チームが対戦中の国の証券取引所では、投資家の注意が株式の取引から代表チームの試合へと逸れるせいで、株式の取引が減る傾向にあるようだ。

最近の私はというと、世の中央銀行のやることなすことを腐(くさ)してばかりいる。ところで、忘れてはならないことがある(アメリカに住んでいるそこのあなたも忘れないように)。ヨーロッパのフットボール(サッカー)の代表チームの中で最強を決める欧州選手権(UEFA ユーロ 2012)の開幕が間近に迫っているのだ(開幕戦は、開催国のポーランド vs. 債務不履行続きのギリシャ)。中央銀行とサッカー? どんなつながりがあるんだ?・・・とお思いかもしれないが、ちゃんとつながっている。そのつながりとは何か? オランダ銀行(オランダの中央銀行)から出ているこちらのワーキングペーパーがその答えだ。論文のアブストラクト(要旨)を以下に引用しておこう。

2010年に南アフリカで開催されたFIFAワールドカップは、投資家の注意(注目)の移り変わりを分析するための格好の自然実験の機会を提供している。というのも、証券取引所が開いていて株式が売買できる時間帯に数多くの試合が行われたからである。本稿では、15カ国の証券取引所における1分ごとの取引データに分析を加えているが、3つの事実が見出されている。まずはじめに、代表チームが対戦中だと、その国の証券取引所では株式の取引回数が通常時よりも45%減り、出来高が通常時よりも55%減る傾向にあった(第一の事実)。次に、株式の取引は、試合中の出来事に影響されることも見出された(第二の事実)。例えば、ゴールが決まると、株式の取引がさらに5%近く減るのである。とは言え、そうなるのは、投資家の注意が(株式の取引から代表チームの試合へと)逸れたせいとは必ずしも言えないかもしれない。昼食の時間帯にも同じくらい取引が減るからである。ところが、それぞれの国の株価指数の利回りとMSCIワールド指数(主要国の株式を対象とした株価指数で、世界全体の株式市場の動向を伝える指数の一つ)の利回りの共分散を調べると、代表チームが対戦中だとその値が通常時と比べて20%以上も小さくなる[1] 訳注;共分散の値が小さくなる=二つの株価指数(の利回り)の連動性が弱まる、という意味。ことが見出された一方で、昼食の時間帯にはそのような傾向は見出されなかった(第三の事実)。すなわち、ワールドカップで代表チームが対戦中の国の株式市場では、証券取引所のピット(立会場)で起こる出来事ではなく、サッカーのピッチ(グラウンド)上で起こる出来事が追いかけられる展開となり、そのせいで株価の形成プロセスに特異性が持ち込まれることになったと考えられるのである。

ところで、(アイルランドの)ダブリン空港では、サッカーファンがこんな旗――「メルケルは、我が国(アイルランド)の経済がうまくいっていると思っているらしい」との文言入りの旗――を掲げてカルヴァン主義者(の一人たるアンゲラ・メルケル)をお出迎えしているようだ。

(追記)2010年のワールドカップの結果についてはこちらの共著レポート [2] 訳注;リンク切れで予測していたが、・・・外れちゃったみたいだね。

(追々記)本音を明かすと、今回(2012年度)の欧州選手権では、母国のデンマークチームに加えて、ポーランドチームを応援している。ポーランドと言えば、過去10年の間にだいぶ長い時間を過ごした国の一つだし、本当に素晴らしい国だ。ポーランドチームの快進撃を願ってやまない。


[原文:“Finally some proper research from a central bank”(The Market Monetarist, June 8, 2012)]

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1 訳注;共分散の値が小さくなる=二つの株価指数(の利回り)の連動性が弱まる、という意味。
2 訳注;リンク切れ
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