マーク・ソーマ 「経済面での格差が小さい国ほど、戦争で勝てる確率が高い?」(2006年9月27日)

格差が小さくて民主主義を採用している国を相手に戦争を始めるのは愚策かもしれない。
画像の出典:https://www.ac-illust.com/main/detail.php?id=23616692

「私は伝達役に徹するだけだ」と語るのはクリス・ディロー(Chris Dillow)。

—————————————【引用ここから】—————————————

Equality and war” by Chris Dillow:

アメリカ国内における経済格差が足枷(あしかせ)になって、イラクの抵抗勢力を抑えきれないかもしれない。そんなメッセージを伝えている論文はこちら。著者であるジェームス・ガルブレイス(James Galbraith)&コーウィン・プリースト(Corwin Priest)&ジョージ・パーセル(George Purcell)の三人によると、国内の経済格差の程度と、その国が戦争で勝てる確率との間には密接なつながりがあるという。

1962年~1999年に起きた戦争で言うと、それぞれの戦争に関わった複数の国の中から二国を任意に取り出して比較すると、国内の格差がより小さい国の勝率は74%(計42のケースのうち31のケースで勝利)。1816年~1962年に起きた戦争のうちで二国間での戦争だけに目を向けると、国内の格差がより小さい国の勝率は80%(80戦のうち64戦で勝利)。1715年~1815年に起きた二国間戦争だと、国内の格差がより小さい国の勝率は92%(26戦のうち24戦で勝利)。合算すると、国内の格差がより小さい国の勝率は80%(計148のケースのうち119のケースで勝利)ということになる。

例えば、格差がより小さいイスラエルは隣国を一貫して打ち倒しているし、共産主義国家のベトナムはアメリカをやっつけているし、南北戦争で勝ったのは格差がより小さかった北部だ。ガルブレイス&プリースト&パーセルの三人によると、ずっと昔に遡(さかのぼ)っても同様のパターンを確認できるという。

アレクサンドロス大王の軍と同じく、ジョチ・ウルス(黄金のオルド)の軍にしても、チンギス=ハンの軍にしても、アッティラ王の軍にしても、同胞の間で社会経済的な地位の格差が比較的なかったおかげで、華々しい戦果を挙げられた面がある。どの遊牧民であれ、戦いでメチャクチャにした相手よりも格差が小さい集団だったのだ。

国内の格差が小さいと戦争に勝てる確率が高まるのはなぜなのか? 三つの理由が挙げられている。

第一に、格差が小さい国ほど、国民の連帯感が強い。それゆえ、士気が高い。第二に、格差が大きくなるほど、国内の治安を維持するのが軍隊の優先事項となり、外敵への備えが疎(おろそ)かになりがちになる。第三に、格差があまりに大きいようだと、地位が低い層の忠誠心を得るのが難しい。

イラクでの戦争についてどんなことが言えるかというと、

アメリカの軍隊は、(格差の拡大という)この事実に明らかに苦しめられている。給与の面で兵士になるよりも恵まれている職業がいくらでもあるという単純な理由からしてもそうだ(理由はそれだけじゃない)。・・・(略)・・・2006年にイラクで台頭してきた抵抗勢力は、格差が小さい小国家みたいなのだ。

細かいところについては、自分の目でじっくりと確認してもらいたいと思う。私は、ただの伝達役に過ぎないのだ。

—————————————【引用ここまで】—————————————

(国内の格差が小さいと戦争に勝てる確率が高まるのはなぜなのかについて)四つ目の理由を私なりに付け加えると、格差が大きくて権力が集中している国では、権力の持ち主が見当外れな決定を下そうとした時に、それを防ぐ仕組みが欠けているかもしれない。そのせいで戦争で勝てる確率が低くなるのかもしれない。ただし、この説を裏付ける具体的なデータがあるわけではない。

ところで、(ディローが紹介している論文の著者の一人である)ジェームス・ガルブレイスがジェームス・マクドナルド(James MacDonald)の刊行されて間もない『A Free Nation Deep in Debt』を書評している(その抜粋を少し前にこちらのエントリーで紹介したばかりだ)。マクドナルドによると、民主主義国は戦争をする上で強みを持っているという。ガルブレイスの書評の一部を再度引用しておこう。

単純ではあるが説得的な議論が展開されている。国家は戦争をするために存在し、戦争に勝つ国家が生き残る。国(政府)の信用というのは、強力な武器だ。信用が高いおかげでお金を貸してもらえる国が戦争に勝つのだから。国同士の生き残り競争を勝ち抜くことにかけては、中世の未熟な民主政体でさえも絶対君主制より有利な立場にある。絶対君主の信用たるや、散々だからだ。

格差が小さくて民主主義を採用している国を相手に戦争を始めるのは愚策ってことだ。興味深い議論・・・ではあるが、個人的に納得いかないところも残っている。

(追記)フェリックス・サーモン(Felix Salmon)が教えてくれたのだが、ジェームス・マクドナルドの本は「刊行されて間もない」わけじゃなくて、刊行されてからかれこれ4年近く経っているらしい。サーモンは、マクドナルドの本について次のような感想を漏らしている。

すぐにでも口を挟んで、お薦めしなきゃと思ったんだ。マクドナルドの本は、・・・時代を超越していて実に素晴らしくてメチャクチャ説得力のある一冊だ。


〔原文:“Inequality and Success in War”(Economist’s View, September 27, 2006)〕

Total
0
Shares

コメントを残す

Related Posts