ケイト・マッケンジー&ティム・サヘイ「ポリクライシスとは何か」(2022年10月20日)

ポリクライシスは、安全保障、気候、経済、政治的ジレンマの織りなすもつれにもつれた紐の結び目を解くことを目的とした言葉なのだ。
A protest against economic conditions in Colombo, the capital of Sri Lanka, March 15, 2022. A debt crisis is disrupting life across the country, where food and fuel are suddenly either unavailable or exorbitantly priced, and protests are rising against a president with a reputation for brutality. (Atul Loke/The New York Times)

An Introduction
An Introduction to The Polycrisis
Posted by Phenomenal World :Kate Mackenzie , Tim Sahay
October October 20, 2022
This article was originally posted on Phenomenal World, a publication of political economy and social analysis.
本記事は、政治経済と社会分析の専門誌『Phenomenal World』誌に掲載されたものである。

一体どのような「クライシス」なのか?

去年の今頃だと、富裕国は比較的平穏に過ごせていたと考えるのも無理はない。1年にわたるワクチン接種によりパンデミックはそれほど深刻ではなくなり、インフレはまだ金利上昇を引き起こしてはおらず、労働市場は堅調だった。気候変動についても、エネルギー転換が進み、何年にも及ぶ国連の気候変動外交の苦闘の末に、富裕国から最貧国に対して、気候変動に起因した災害による損失や損害を補償する動きさえ見られていたのだ。

しかし現実には、すべてが順調というわけではなかった。パンデミックの初期に予期されたように、何十カ国もの低所得国や小規模な中小国は、外国所得の急激な減少と医療費の高騰による政府債務危機に向かってひた走り続けていたのである。債権者(裕福なパリクラブ諸国、多国籍銀行、債券保有者、中国)は軒並み、この〔水面下で進んでいた〕債務危機を回避することができなかった。さらに、最貧国ではワクチンが行き渡っておらず、エネルギーコストも高騰している。

そして、ロシアのウクライナ侵攻と、歴史的な欧米諸国協働での経済制裁は、世界の富裕国にさえ避けることのできない形で全てを悪化させた。

2021年の冬の時点で、欧州のエネルギーコストは既に高騰していた。これには、中国の石炭火力発電が抑制され、輸入ガスへの需要が高まったことが一因となっていた。2022年現在、この事態はさまざまな国に波及している。ヨーロッパと東アジアの富裕国は、限られたガス供給をめぐって入札合戦を繰り広げている。他方、国によっては完全に市場から排除されている。パキスタンでは数週間にわたる計画停電が実施され、バングラディシュは今月初めに送電網の崩壊を防ぐ十分な処置を実施できず、ガス供給が間に合わなくなり、1億人以上が停電に悩まされた。

IMFは先週、2023年の世界的な経済成長の鈍化により、世界の金融安定性が「深刻なまでに悪化する」と予測した。実社会においては、富裕層経済が金融危機に陥り、その結果、商品をドル建てで買う余裕のない国々は食糧やエネルギーの輸入の調達が困難となり、実際の苦境をより深刻にするだろう。

この背景には、温暖化によりますます頻発する深刻な気象災害と、温室効果ガス排出の削減という早急かつ持続的な課題の存在がある。自然はパンデミックなどお構いなしなのだ。

気候危機は、南半球と北半球の関係を徹底的に見直さないことには解決しない。米国が世界金融構造において優位に立ち、他の富裕諸国も大きな影響力を持つ一方で、途上国にも主導権がないわけではない。中所得国は、G7初期の対ロシア制裁措置から除外されるか、あるいはそもそも制裁に積極的でないかのどちらかだった。今では、中所得国は戦略的非同盟、つまりブロック化による不干渉政策によって、転移鉱物やその削片といった資源や産業を確保しようとしている。

北半球の国々は中所得の大国が行使している経済的・地政学的な影響力に対して何の備えもないように思われる。また、小国や貧しい国々への対応もできていない。IMFの新しい長期機関の「強靭性と持続可能性を育むための新しいトラスト(Resilience and Sustainability Trust:RST)」はいまだ非力であり、対象としているパンデミックや気候変動と闘っている脆弱な国々のニーズには応えられていない。しかし、こうした小国や貧しい国々もまた自分達の声を届ける策を模索している。9月にはバルバドスの首相であり、世界銀行およびIMFの開発委員会の委員長を務めるミア・モトリーは、「ブリッジタウン・アジェンダ」を公表し、債務改革、SDRの再流通、そして多国間貸付を呼びかけた。(モトリー氏は、ハリケーンによる損失を考慮した小国の米ドル建て債券による再編に際し、いかにしてIMFの伝統的な緊縮財政に頼らずしてIMFからの支援を得ることができたのか、というのが長きに渡るニューヨークタイムズによるプロファイルの主題となっている。)

このアジェンダは「前例のない複合的危機」に直面した際の「緊急かつ断固とした行動」を求め、おそらく来月エジプトで開催されるCOP27で大いに関心を集めることになる。しかしこのアジェンダは、以前に取り決められた南半球への1,000億ドルもの気候変動資金の問題や、〔アジェンダ実現に伴う〕損失と損害についての厄介な課題にも向き合うことになるだろう。G20で主導権を握っているのは、近年降りかかった「ショック」を、そのリカバリー能力で乗り越えて見せた発展途上国インドとインドネシアである。しかし、ロシアとの地政学的緊張から公式声明を出すことが憚られるため、フォーラムでのわずかな進展の見通しも難しいだろう。

「ポリクライシス」という言葉がますます広まりつつあるが、これは、システマティックな危機の渦中で重大な決断を迫られる権力者たちにとっての免罪符とはならない。この問題は決してそれ自体で解決するものではないのだ。

ポリクライシスは、安全保障、気候、経済、政治的ジレンマの織りなすもつれにもつれた紐の結び目を解くことを目的とした言葉なのだ。

追記:「ポリクライシス」とは

昨年にかけて、歴史家のアダム・トゥーズが「ポリクライシス」という言葉を一般化させた。この言葉は元はフランスの複雑性理論家であるエドガール・モランが提唱したものだが、2016年にジャン・クロード・ユンカーによりユーロ圏、ブレクジット、気候危機、難民危機についての説明で使用され、6月にはトゥーズがパンデミック、政府債務、インフレ、GOPリスク、飢餓など、彼の描く複合的な緊張状態を抱えた世界を言い表す言葉として意味を発展させ、「危機は個別の集積にとどまらず、総体となってより危険となる」ことを主張した。

また、経済アナリストのネイサン・タンクス氏は、彼のニュースレター『危機に関する注釈』の「今後数十年に遭遇する危機はこれだけにとどまらない」号で、このプロジェクトで扱うべき相互関連性を明確に示してくれた。

私たちの目標は、こうした繋がりを探求し、同じような活動をしている人たちを見つけ、その主張の声を増幅させていくことなのです。

Total
1
Shares

コメントを残す

Related Posts