本稿では、ナイジェリアでキリスト教徒とムスリム(イスラム教徒)との間で続いている宗教間対立の根底にあるのが何なのかを探るために、理論的に精密に設計されたフィールド実験をナイジェリアのジョス市で試みた。具体的には、キリスト教徒とムスリムにペアになって協調ゲーム [1] … Continue readingをプレイしてもらったが、協調しなかったケースの76%が(相手がこちらに危害を加えてくるのではないかという)「恐怖」ゆえであり、残りの24%が(相手を痛めつけてやれという)「憎悪」ゆえであることが判明した。さらには、外集団(よそ者)に属する相手への恐怖ゆえに協調しなかった被験者たちは、自分が属する集団(内集団、身内)に対して外集団のうちのどのくらいの割合が憎悪を抱いているかについて過大に見積もりがちだった。すなわち、思い過ごしで相手に恐怖を抱いていたわけである。次いで、フィールド実験で得られた結果を踏まえて構造モデルを推計し、異なる集団に属する者同士の間での協調を促す上で効果的なのはどんなタイプの政策介入かを探った。構造モデルを使って仮想(反実仮想)シミュレーションを試みたところ、相手に対する思い過ごしによる恐怖を何らかの手段で――例えば、自分が属する集団に対して外集団のうちのどのくらいの割合が憎悪を抱いているかについて正確な情報を伝達するなどして――和(やわ)らげられたとしたら、異なる集団に属する者同士の間での協調が大いに促されるだろうことが見出された。その一方で、相手への憎悪を何らかの手段で和らげられたとしても、異なる集団に属する者同士の間での協調は大して促されないだろうことが見出された。その理由は、外集団に属する相手に憎悪を抱いている人物というのは、外集団に属する相手に恐怖も同時に抱いていがちだから――憎悪が和らげられたとしても、恐怖ゆえに相手に協調する気になれないから――である。最後に、異なる集団間での協調を促進することを意図して制作されたラジオドラマの効果を調べるために、RCT(ランダム化比較試験)を試みた(ランダムに選んだ被験者にラジオドラマを聴かせた上で、協調ゲームをプレイしてもらった)。その結果はどうだったかというと、構造モデルから導かれた予測と整合的な結果が得られた。ラジオドラマを聴いたおかげで(外集団に属する相手への)憎悪は和らいだが(外集団に属する相手への)恐怖は和らがず、(ラジオドラマを聴いても恐怖が和らがなかったために)異なる集団に属する者同士の間での協調は促されなかったのである。
カリフォルニア大学バークレー校で経済学の博士号を取得して就職活動中のミゲル・オルティス(Miguel Ortiz)の論文(pdf)より。
〔原文:“Is fear a bigger problem than hate?”(Marginal Revolution, November 6, 2023)〕
References
↑1 | 訳注;相手が協調するようならこちらも協調する方が(協調しない場合よりも)得られる利得が大きくなるが、相手が協調しないようならこちらも協調しない方が(協調する場合よりも)得られる利得が大きくなるようなゲーム。 |
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