マーク・ソーマ 「『運』 vs.『スキル』 ~人生での『成功』の背後にある要因とは?~」(2012年8月4日)

●Mark Thoma, “Luck vs. Skill”(Economist’s View, August 4, 2012)


ロバート・フランク(Robert Frank)によると、市場での「成功」(success)を左右する上で「運」が果たす役割は、思われている以上に重要かもしれないとのことだ。

Luck vs. Skill: Seeking the Secret of Your Success” by Robert H. Frank, Commentary, New York Times:

「成功」と「運」との関係をめぐる議論ほど、リベラル派と保守派との間で意見が真っ向から食い違う話題はないかもしれない。市場での成功は、その人の「才能」や「努力」の必然的な結果だといってほぼ間違いない。そのように考えて、多くの保守派は成功者を讃える。それに対して、リベラル派は待ったをかける。どれだけ才能があって努力したとしても(一生懸命働いたとしても)、その人本人には何の責任もないのに、落ちぶれた暮らしを余儀なくされる場合だってあるじゃないか、というのである。

・・・(中略)・・・

(保守派とリべラル派の)どちらの見方も・・・(略)・・・公共政策のあり方について重要な含みを持っている。だからこそ、現実の世界で「運」がどれだけ重要な役割を果たしているかを突き止めるのが大事になってくるのだ。しかしながら、生憎(あいにく)なことに、この件についてはっきりとした答えを見出すのは相当難しい。とは言え、最近行われたいくつかの実験によると、市場での結果を左右する上で「偶然」(偶発的な出来事)が果たす役割は、これまでに思われていた以上にずっと大きいかもしれないことが示唆されている。

いずれも社会学が専門であるダンカン・ワッツ(Duncan J. Watts)&マシュー・サルガニック(Matthew Sagalnik)&ピーター・ドッズ(Peter Dodds)の三人が試みた実験――その内容については、ワッツが2011年に上梓した優れた一冊である『Everything Is Obvious* (*Once You Know the Answer)』(邦訳『偶然の科学』)の中でも詳述されている――では、オンラインマーケットに白羽の矢が立てられている。しかしながら、彼らが実験で得た結果は、ウェブ上のマーケットを超えてずっと幅広い範囲に及ぶ含意を備えている。彼らがオンラインマーケットを利用した実験(ミュージックラボ実験)で得た結果によると、市場(ビジネス)で成功を収められるかどうかは、製品(作品)の「質」に左右されるものの、「質」の高さと「成功」の度合いとのつながりはかなり流動的で不確実な面があるという。質的に最も優れている製品が市場で勝利する(一番の売り上げを記録する・一番の人気を集める)とは限らないし、質的に最も劣っている製品が市場で勝利することもあったりするというのだ。そして、並みの(ほどほどの)質の製品――すなわち、マーケットで売られている大多数の製品――に関しては、市場で成功を収められるかどうかが「偶然」に大きく左右されるというのだ。

・・・(中略)・・・

改めて言うまでもないだろうが、賢くて勤勉なのは結構な(好ましい)ことであり、そのような資質を持ってこの世に生まれてくる――あるいは、身の回りの環境に恵まれたおかげで、賢くて勤勉な人間に育つ――というのは、それ自体大変幸運なことだ。ソマリアではなく、アメリカで生まれ育つ機会に恵まれるのと引けを取らないくらいに。しかしながら、賢くて勤勉であったとしても、市場で成功を収められるとは限らない。先に紹介した三人の社会学者の研究は、賢くて勤勉な多くの人が市場で大して成功できずにいる理由を解き明かす手がかりを与えてくれている。「情報の流れ」に紛れ込むランダム性(偶発性)こそが、市場での成功を左右する偶発的な出来事の中で時として最も重要な役割を果たすのだ。

言うまでもないが、才能があって勤勉な人たちがビジネスや職場で成功を収めたのであれば、これまで通り讃えるべきである。しかしながら、先に紹介した三人の社会学者の研究は、重要な教訓を伝えている。「成功者たちよ、汝らを助けてくれた幸運の存在にもっと謙虚に向き合い給え」というのがそれだ。

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