ノア・スミス「アメリカ人は大量強制送還をほんとに嫌ってる」(2025年7月18日)

世論調査を信じるなら,アメリカ人がトランプを選んだ理由は2つある:インフレをしずめることと,南部の国境を越えて入ってくる準合法・違法な移民の波を止めること,この2つだ.世間では,移民はトランプのいちばん強い争点だとみられていた.ありとあらゆる世論調査で,アメリカ人が国境に関するトランプの強硬政策を支持していることが示されていたし,なかには,大量強制送還の支持が広まりはじめているのを示すものすらあった.移民に関する世間の人たちの考えは,バイデン政権の頃よりもずっと否定的になった.

でも,去年の8月にぼくはこう警告していた――「もしもトランプが大量強制送還で度を超したことをやったら,反発を招くだろう」

強制送還すべき人たちを見つけ出すには,アメリカ全土でご町内に深く立ち入って調べ回る必要がある.(…)違法にアメリカ国内に滞在している人たちやトランプ陣営が標的にしてる人たちは,大半がもう長年にわたってここに暮らしていて,アメリカ各地の都市や住宅地にごく自然に目立たず根付いている.(…)JDヴァンスが約束したとおりに百万人もの人たちを強制送還しようというなら,アメリカ移民・税関執行局 (ICE) は2019年のミシシッピ州での摘発と同程度の作戦を 3,000回も実施しないといけない――あるいは,もっと小規模な摘発を数千回にもわたって繰り広げるしかない.政府職員がご町内を急襲して大勢の人を一斉検挙して,市民権証明書の提示を要求する光景は,ごくありふれたものになるだろう.これをみて,トランプの第一期政権で散発的に行われた ICE による摘発よりもはるかに大きな恐怖と不安を住民のあいだに生み出すことになるだろう.

この予言は,いまや実現しつつある.私服の覆面 ICE 職員がアメリカ各地のご町内を荒らし回り,不法滞在の疑いで恣意的に人々を逮捕している.そして,やっぱり案の定,これを見て世論は激しい反発を見せている.CNN では,こう報道されている:

この点に関する最新世論調査がギャラップから出ている.これを見ると,トランプ第2期になってから行われたどの世論調査よりも悪化している(…).6月に1ヶ月近くかけて行われたこの調査では,トランプによる移民問題の取り扱いに反対するという回答が支持するという回答に大差を付けている:支持 35% に対して反対 62% という調査結果だ.さらに,強く支持するという回答 (21%) に対して,強く反対するという回答 (45%) が2倍以上となっている.また,無党派層では,10人に7人近くが反対と回答している.(…)移民問題に関するトランプ不支持は,これまでで最悪になっている.ところが,この傾向は明らかに下降が続いている――とくに,ギャラップのような高品質の世論調査では顕著だ.(…)たとえば,先月後半に実施されたNPR-PBSニュース・マリスト大学世論調査では,移民問題に関して無党派層で 59% が反対と回答している.また,クイニピアック大学世論調査では,無党派層の 66% が反対と回答している.

その最新ギャラップ調査から,いくつかグラフを引用してみよう.トランプが政権を取ってから,あらゆる政治集団で移民賛成が急増しているけれど,とりわけ目を見張るべきなのは,共和党支持層での転換だろう:

「移民,つまり余所の国からやってきてアメリカに暮らしている人について考えてください――あなたの考えでは,移民は現状維持すべきでしょうか,増やすべきでしょうか,減らすべきでしょうか?」――グラフの実線は「増やすべき」,点線は「現状維持すべき」,破線は「減らすべき」の回答率を示す(Source: Gallup)

大量強制送還を支持する割合は減ってきているのに対して,不法移民に市民権を与える道筋をつくるのを支持する割合はすでに高く,さらに増加中だ:

「以下の案について「強く賛成」「賛成」「反対」「強く反対」のいずれかを答えてください」「(Source: Gallup)

訳者の補足:上の図にある「案」と賛成率の変化は次のとおりです

  1. 「子供の頃に不法にアメリカに連れてこられた人々に,一定期間で特定の要件を満たしたならアメリカの市民になる機会を与える」――2024年 81% → 2025年 85%
  2. 不法にアメリカで生活している移民に,一定期間で特定の要件を満たせばアメリカの市民になる機会を与える」――2024年 70% → 2025年 78%
  3. 「「国境警備員を大幅に増員する」――2024年 76% → 2025年 59%
  4. アメリカ国内で不法に生活していてギャング構成員と疑われる人々に,強制送還の措置に法廷で異議を申し立てることを認めない」――2024年 項目ナシ → 2025年 50%
  5. 「アメリカとメキシコの国境の壁を大幅に増築する」――2024年 53% → 2025年 45%
  6. 「不法にアメリカ国内に滞在している移民全員を故国に送り返す」――2024年 47% → 2025年 38%

総じてアメリカ人は,〔人種・民族の構成で非白人系が多数を占めるようになる〕「大置換」よりも権威主義体制をずっと恐れている.法律を守って暮らしているところへ私服の覆面秘密警察がやってきて恣意的に路上で人々をつかまえて「アメリカ市民だと証明する書類を見せろ」と迫る様は,いかにも権威主義支配者がやりそうなことに見えて,アメリカ人はぞわぞわする.

トランプとスティーブン・ミラーみたいな手下たちは,ひどくやりすぎてしまった.アメリカでは,移民賛成の政治情勢の波がやってきそうだ.


[Noah Smith, “Americans really don’t like mass deportation,” Noahpinion, July 18, 2025]
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