●Lars Christensen, “Rational investors and irrational voters”(The Market Monetarist, October 18, 2016)
米大統領選挙の結果がどうなりそうかをめぐって、「予測市場」と「世論調査」との間でちょっとした違いが見られるようになってきているようだ。
「予測市場」の一つである Predictit での最新の予測によると(上の画像)、クリントン(ヒラリー)が勝つ確率は81%、トランプが勝つ確率は19%と見積もられている。その一方で、 ネイト・シルバー(Nate Silver)が開発した FiveThirtyEight ――世論調査も組み込んだ予測モデル――の最新の予測によると(下の画像)、クリントンが勝つ確率は88.1%、トランプが勝つ確率は11.9%と見積もられている。
過去数ヶ月の変遷を眺めると、「世論調査」の結果の方が――そして、世論調査の結果も組み込まれている FiveThirtyEight の予測の方が――「予測市場」の予測よりも変動が激しいことがわかるだろう。
この事実は興味深い。というのは、世論調査の方が予測市場よりも「アニマル・スピリッツ」の影響に晒されやすいことを証拠立てているように思えるからだ。あるいは、こうも言えるだろう。我々は、「投票者」という立場に立たされる――投票箱の前に立たされる――時よりも、「投資家」という立場に立たされる――持ち金を賭けて大統領選挙の結果を予測する――時の方が合理的に行動する傾向にあることが証拠立てられているように思えるのだ。
「予測市場」と「世論調査」とでは、何が測られているかに違いがあるという点は指摘しておかねばならない。予測市場では、未来の選挙の結果がどうなりそうかという「予測」が測られている。その一方で、世論調査では、有権者たちがその時々(世論調査が行われる時点)で誰に投票しようと思っているかという思惑(気分)が測られている。ネイト・シルバーの予測モデル(FiveThirtyEight)は、両者の中間を測ろうとしていると言えるだろう。
ともあれ、「投票者」としての我々は、(「投資家」としての我々と比べると)その時々の「気紛れ」に突き動かされがちな一方で、「投資家」としての我々は、(「投票者」としての我々と比べると)ずっと冷静沈着であるように思える。このことは、ブライアン・カプラン(Bryan Caplan)の『The Myth of the Rational Voter』(邦訳『選挙の経済学』)を読めば学べることでもある。
(追記)注意してもらいたいが、「予測市場」と「世論調査」のどちらが選挙結果をより正確に予測できるかを問題にしているわけではない。同じ人間でも立場が変わると――「投資家」(あるいは「消費者」)という立場に立たされるか、「投票者」という立場に立たされるかによって――合理性の程度に違いが生まれると言いたいのだ。