企業による投資(設備投資)の伸び悩みは、合理的な観点からは説明がつかない。私に対する陰謀の一部に違いない。ルーズベルト大統領は、そう推測した。私を大統領の座から引きずり降ろして、ニューディールの息の根を止めることを狙った「資本家によるストライキ」(“capital strike”)に違いないというのがルーズベルト大統領なりの見立てだったのである。・・・(略)・・・ルーズベルト大統領は、1937年の12月に、司法次官補のロバート・ジャクソン(Robert Jackson)と内務長官のハロルド・イケス(Harold L. Ickes)が攻撃的な演説を行うのを許可した。1935年の「富裕税」法の制定に至るまでの闘争や1936年の大統領選挙戦で使った戦術を形を変えて繰り返したわけである。イケスは、ヘンリー・フォード、(リパブリック・スチール社の初代社長である)トム・ガードラー、「60大財閥」(“Sixty Families”)を痛烈に非難した。・・・(略)・・・このまま放っておくと、「アメリカは、巨大企業に率いられるファシスト国家、奴隷国家」になってしまうと大声でがなり立てた。ジャクソンはというと、企業による投資が落ち込んだままなのは「ゼネスト。アメリカで初めてのゼネスト。反政府のストライキ。政府の行動を変えようと強いるストライキ」に他ならないと非難した。ルーズベルト大統領は、「資本家によるストライキ」が共謀されているのではないかと怪しんで、FBI(連邦捜査局)に調査を命じてまでいる。しかしながら、共謀を認定するに足る証拠は見つからなかった。
デヴィッド・ケネディ(David M. Kennedy)の『Freedom from Fear』――「オックスフォード米国史」の中の一冊――の352ページより。
富を奪う政府に抵抗するために、ストライキを決行する資本家たちの集団。それに対して、資本家たちを通常業務に戻らせることを誓って、FBIの捜査官を送り込む政府。・・・小説にでもできそうな話じゃないか。
〔原文:“The Capital Strike”(Marginal Revolution, December 3, 2008)〕