どうみてもトランプ有利に潮目は変わってる。バイデンのヘマと、トランプの暗殺未遂で加速して、公となった。でもその前から進んでいたんだ。これについてのはっきりした兆候を一つだけ上げるなら、MSNBCが朝の政治番組モーニング・ジョーで〔トランプ暗殺未遂事件の直後に出演者が〕トランプについて悪しざまなことを言うかもしれないことを恐れて、番組の放映を中止したことだろう。
別の言い方をするなら、トランプはすごいヨロヨロだったんだ。選挙に負けた大統領で、いろいろ起訴されていて、マジで有罪評決まで受けてる。ところがどっこい、今や選挙でどうみても本命になってる。ざっぱに言うなら、なぜこうなっちゃったのさ?
「潮目が変わったのはなんでだと思う?」と聞いて、その回答を知性、洞察力、知的誠実さで採点するのは良いリトマス試験紙だと僕は思っている。
「トランプが人気なのは、人種差別主義者だから」みたいに言ってる人をよく見かけたよね。今だと、こうした見方は、完全に、はっきりと否定されてる。ほんとうにちょっとだけトランプの人種差別が支持につながってると思ってる人(僕もそうだ)はいるだろうけどね。ほかだと、今回の事態を「二極化」のせいにしてる人もいる。これが正しいか、間違っているかは置いておいて、トランプをデカい「負け犬」として二極化に位置づけるような論は循環論法だ。
ってことで、僕自身の答えを示してみることからこの手順を進めるべきなんだろうね。以下にずらっと並べてみよう。
1.トランプとその陣営は、僕たちが今やSNSの世界に住んでることを理解してる。民主党のお偉いさんらで、このことを分かってるのはごく一部だ。
2.「トランプ的右派」は、同意するかどうかは別にして、少なくとも過去5年間、もしかしたらもっと前から、進歩的左派より知的に活発で活動的だった。完全にアウトサイダーだったから好き放題していて創造的だったんだ。むろん、創造的なことと、正しいことはまったく別だよ。
3.アメリカの産業空洞化は、思われていた以上に大きな問題で、世論に長きにわたって影響を与えてきている。メインストリームで説明されてるものの中でもこれは真面目にとりあうものの一つじゃないかと思う。
4.以前ブログで書いたけど、今の時代の潮流はネガティブ感情が伝染病のように世の中に広がりやすくなってる。トランプやMAGA(アメリカを再び偉大に)から発せられるメッセージの多くは、この潮流と一致している。
5.民主党は黒人の地位を高めようとすれば人気が高まるだろうと大きな賭けをしたんだけど、結果は玉石混交だった。失敗してしまったのは、人種差別主義者のせいでもあるし、移民自身が懸念を持ったからでもあるし、単にメッセージが不人気だったからでもある。
6.社会の女性化が進んだことは、男性の多く(黒人男性やラテン系男性も含む)を共和党側に追いやった。民主党は、未婚女性の政党になりすぎたんだ。
7.オバマ政権は、インテリに支配されてるような現実と感覚をある程度はもたらした。一般市民はこれが好きじゃなかった。
8.民主支持者や左派は、事実として保守派より人間として平均的な幸福度が低い。アメリカ人は、無意識かもしれないけど、これに気づいていた。
9.民主党の平等主義的なメッセージはあんまり受けなかった。平等的な主張がメッセージとして伝達されたことで、生活の場だと「全て上から目線」になっちゃう。アメリカ人は、無意識かもしれないけど、これに気づいていた。
10.ウォーク(社会正義に目覚めた左派)の策略は、深刻なまでに不人気なことが証明された。
11.トランスジェンダーへの支援は民主党にとって得策ではないけど、撤回が困難となっている。
12.国境での移民は事実上制御不能に陥っていて、トランプは選挙キャンペーンで重要課題として最初から持ち出している。僕のような移民賛成派でもそう思うんだ。移民に懐疑的な人はどう感じているのか想像できるだろう。
13.学歴の高い人は民主党の伝統的な地盤で、今もそうだ。でも、そうした人の影響力と信頼性はここ数年で急転直下し続けている。
14.民主党が「巨大IT企業」を詰めたのは大ミスだった。票田を失ったんじゃなくて、資金と社会資本を失ったんだ。2016年のトランプの勝利で、民主党は「巨大IT企業」(特にフェイスブック)を人身御供にしたけど、それは自分たちエリート層を空洞化させた。
15.アフガニスタン、ウクライナ、イスラエルで起こった様々な事態の推移は、民主党の理念にマイナスとなった。インフレは高騰し、実質の借入金利は急上昇した。バイデンに責任があるかどうか、トランプならうまくやれたかどうかは別にして、これは現実に起こった事実だ。暗号資産は攻撃を受けた。コロナ・パンデミックについては複雑怪奇で、その政治的対応については別の記事を書くべきかもしれないけど、長かった学校閉鎖の多くに「関わった」ことは、民主党にマイナスとなった。
そして「警察予算を打ち切れ」や、左派内での反ユダヤ主義の台頭といった多くの問題を座視している。
16.ざっくり言うなら、民主党は自身の人気を落とすようなことを多くしてきたし、それに向き合おうともしなかった。自身のメッセージ(よりよき人間だという建前)が、この事実と向き合うのを難しくしている。
さらに追加すると。
17.トランプは面白い(実際、面白いアメコミの登場人物だ)
18.トランプは勝者のような振る舞いをする。アメリカはこれを好物にしていて、暗殺未遂事件への彼の対応はこの点を強く印象付けた。
19.バイデンの最近のトラブルと、バイデンとバイデン陣営が少なくともトランプと同じくらい大きな騙しをやっていたと認識されたこと。年齢や認知能力だけでなく、信頼性も問われるようになった。
もっとも、知的な人の多くと同じように、民主党は官僚統治に優れていて、伝統的な政治プロセス(特に選挙後の政権移行)を尊重するとの主張はありえるかもしれない。でも、ここでしたいのはそんな問題じゃない! MAGAの支持者の多くは、特に後者には納得しないかもしれない。僕が端的に言いたいのは、そんな要因は、上に並べた1~19の要因に比べたらたいしたものじゃないということなんだ。
そういうこと。
追記:いうまでもないけど、トランプとトランプ政権には悪いところがたくさんあったし、今もある。この記事で言いたいのは、バイデンとトランプを比較することにあるんじゃない。民主党がもっとうまくやれないかの方法を見てみることだ。「民主党はトランプよりましだ」みたいな理由を上げた人がいるなら、そういう人が問題の一部になっているんだ。
[Tyler Cowens, “The changes in vibes — why did they happen?” Marginal Revolution, July 17, 2024 at 12:49 am]