本ブログの熱心な読者の一人である Sahil から次のような質問が寄せられた。
ロジャー・スクルートン(Roger Scruton)の新著――『England:An Elegy』――を取り上げている貴殿のブログエントリーを拝読したのですが、件(くだん)の本を「自由を維持するために『文化的な背景』というのがいかに肝要かをストンと理解させてくれる」一冊と褒めていらっしゃいました。興味深い意見だと思ったのですが、そのあたりのことをもっと念入りに検証している書籍をご存知ないでしょうか? そういう書籍はきっとあるに違いないでしょうし、是非とも読んでみたいと思っています。
いくつか候補を挙げるとしよう。マックス・ヴェーバー(Max Weber)の全著作。 ローレンス・E・ハリソン(Lawrence Harrison)の諸著作。 英国の個人主義の起源がテーマのアラン・マクファーレン(Alan MacFarlane)の本。オランダ共和国(ネーデルラント連邦共和国)の歴史がテーマのジョナサン・イスラエル(Jonathan Israel)の諸著作。ジョゼフ・コンラッド(Joseph Conrad)の作品。レヴィ=ストロース(Claude Levi-Strauss)の『悲しき熱帯』。キリスト教に対するルネ・ジラール(Rene Girard)の分析。英国史がテーマの良書。ジェフリー・ホスキング(Geoffrey Hosking)によるロシア史がテーマの諸著作。デイビット・ハケット・フィッシャー(David Hackett Fischer)の『Albion’s Seed』(『アルビオンの種』;未邦訳)。リン (Richard Lynn)&ヴァンハネン(Tatu Vanhanen)の『IQ and the Wealth of Nations』(『IQと国富』;未邦訳)。ブラジルについては、ジルベルト・フレイレ(Gilbert Freyre)。アルゼンチンについては、ドミンゴ・サルミエント(Domingo Faustino Sarmiento)。アメリカについては、トクヴィル(Alexis de Tocqueville)、ルイス・ハーツ(Louis Hartz)、ジョン・ガンサー(John Gunther)。「アフリカ系アメリカ人の伝統が米国における自由の理念に及ぼした影響」を扱った書籍は未だ書かれていない。何よりも重要であり、英国の栄華を支えもした北欧発の自由の観念――非ヨーロッパ的な色合いが濃い自由の観念――について少しも触れずに終わってしまったことも断っておこう。
商売を肯定する規範が広まるのは、稀(まれ)な現象なんかじゃない。ちょうど今滞在しているザンジバルだってその(商売を肯定する規範が普及している)一例だ。しかしながら、商売を肯定する規範が広まるくらいでは、中世の生活水準にどうにかこうにか辿り着けるに過ぎない。マンカー・オルソン(Mancur Olson) [1] 訳注;オルソンというのはコーエンの勘違いで、正しくはハイエク(Friedrich Hayek)と思われる。が強調したように、そのような規範だけでは大規模な資本主義の運行を支え切れないのだ。友人/家族/氏族(部族)といった身近な存在に対する義務を果たすことよりも、一般的で抽象的な観念(なり規則なり)に従うことが優先されるようにするというのは、なかなかに難しい。しかしながら、そのような方向に向かえるかどうかが問題の核心なのだ。
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〔原文:“The cultural foundations of capitalism”(Marginal Revolution, May 15, 2007)
References
↑1 | 訳注;オルソンというのはコーエンの勘違いで、正しくはハイエク(Friedrich Hayek)と思われる。 |
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