マーク・ソーマ 「マルクス vs. コース」(2012年11月21日)

●Mark Thoma, “Marx vs Coase”(Economist’s View, November 21, 2012)


これから車での長い旅が待っているのだが、出発の準備をするのに手間取ってしまった。そんなわけで、目に付いた記事を足早にパパッと紹介してお茶を濁させてもらうとしよう。

クリス・ディロー(Chris Dillow)のブログ記事より。

Marx vs Coase: experimental evidence” by Stumbling and Mumbling

ロナルド・コースの考えでは、企業というのは不確実性に対処するための効率的な制度と見なされる。その一方で、マルクス主義者の考えでは、企業というのは資本家が労働者を搾取するための道具と見なされる。一体どちらの見方が正しいのだろうか? エルンスト・フェール(Ernst Fehr)率いる研究チームの最新の論文で、どちらが正しいのかを見定めるための実験が試みられている。

この実験では、被験者たちにプリンシパルかエージェントのいずれかの役回りを割り振った上で、雇用契約を結ぶか売買契約(業務契約)を結ぶかを自由に決めてもらうという段取りになっている。売買契約(業務契約)が結ばれる場合は、エージェント役を務める被験者はあらかじめ指定された業務(タスク)をこなすことになる。そして、その見返りに、あらかじめ定められた額の報酬がプリンシパル役を務める被験者から支払われる。その一方で、雇用契約が結ばれる場合は、報酬(賃金)の額はあらかじめ決まっているが、プリンシパル(雇い主)はエージェント(従業員)にどの業務を割り当てるか――3つある業務のうちどれを割り当てるか――を自由に選ぶことができる。

・・・(中略)・・・

フェールらが行った実験の結果によると、同じ相手と雇用契約を結んでやり取りする機会が一回だけしかない場合は、プリンシパル(雇い主)役を務めた被験者のうちの51%がエージェント(従業員)役を務めた被験者を搾取するに至った――搾取の発生率が51%――という。「(雇い主が手にする)権力 [1] 訳注;労働者(従業員)に対してどの業務(タスク)を割り当てるかをある程度裁量的に決められる権限。は、労働者(従業員)を搾取するために行使され得るというマルクス主義者のアイデアは絵空事なんかではない」というのだ。

・・・(中略)・・・

ところが、同じ相手と雇用契約を結んでやり取りする機会が何度もある場合には、搾取の発生率は21%にまで落ち込んだという。その理由は、雇い主(の役を務める被験者)が「私は公平な人間です」という評判を打ち立てたいと願ったからである。そのような評判を打ち立てることができたら、従業員(の役を務める被験者)が雇用契約の継続に乗り気になってくれる可能性があるのだ。

至ってシンプルな結論だが、フェールらの実験結果は次の問いに切り込むためのヒントも提供してくれている。すなわち、「あれやこれやの企業がマルクスの言うようにではなくコースの言うように振る舞いがちなのは、どういう状況だろう?――労働者(従業員)が搾取されずに済みそうなのは、どういう状況だろう?――」という問いがそれだ。

公平性を重んじる風潮が強いようなら、そうなりそうというのが考え得る一つ目の答えだ。・・・(略)・・・企業が「善良な」雇い主という評判を打ち立てたいと思っているようなら、そうなりそうというのが二つ目の答えだ。労働市場が完全雇用に近いようだと、企業は「善良な」雇い主という評判を打ち立てようという気になるだろう。というのも、労働市場が完全雇用に近いようだと、人材を確保するために他の企業と争わねばならなくなるからだ。

労働組合の力が強ければ、そうなりそうというのが三つ目の答えだ。・・・(略)・・・労働組合の力が強ければ、一国の経済に好ましい影響が及ぶ(経済成長率が高まる)かもしれない、という少し前に披露した仮説を補強してくれそうだ。

考え得る答えは、まだある。労働者が搾取的な雇用契約を撥ね付ける(はねつける)のを可能にする外部機会――(生活保護などの)福祉給付がその一例――が確保されているようなら、そうなりそうというのが四つ目の答えだ。

資本主義の擁護者の多くは、福祉給付のような制度(四つ目の答え)には批判的なようだ。それもこれも、企業をコースの言うような方向に向かわせるよりも、資本家が労働者を搾取するのを放置しておきたいからなんじゃないかと邪推してしまうところだ。

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1 訳注;労働者(従業員)に対してどの業務(タスク)を割り当てるかをある程度裁量的に決められる権限。
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