タイラー・コーエン 「タイの辺境にて ~売り物としての伝統~」(2009年8月23日)

●Tyler Cowen, “The economics of rural Thailand”(Marginal Revolution, August 23, 2009)


他のみんなは民族衣装を着ているのに、どうしてあなたは着ていないのかと尋ねると、彼女(タイジュン)は次のように答えた。

「私は、新世代の人間なんです。民族衣装は好きじゃないんです。着ていると、暑いですし、着心地も悪いですし」。でも、そのうち着ないといけなくなるかも、と付け加えるタイジュン。村長が、村の女性全員に民族衣装の着用を義務付けようと検討しているらしい。「村長さんが命令したら、私も含めてみんなが着ることになるでしょうね」とタイジュン。村長のナンタ・アスン(52歳)は、村の中で伝統的な民族衣装を着ていない女性はタイジュンだけだと指摘して、このまま見過ごすわけにはいかないと語る。「パラウン族(トーアン族)の一員である以上は、パラウン族の民族衣装を着なくちゃいけないんだ」。夕食用に豚を切り刻みながら、そのように語るアスン村長。「着なきゃ駄目なんだ。絶対に!」。

アスン村長が興奮気味に語るところによると、村の女性たちが民族衣装を着なくちゃいけないのは、伝統を守るためでもあるが、旅行客にアピールするためでもあるという。村の収入(年間3万ドル)の半分は、観光収入から成り立っているという。我々取材班がこの村を訪れた日も、オーストラリアから家族連れの旅行客が来ていて、15ドルを払って村長の小屋に一晩泊っていった。「村長は、旅行客がこの村にやって来なくなってしまうんじゃないかとひどく心配してるんですよ」。アスン村長への取材を終えて、借りた小屋に戻っている最中に、ガイド兼通訳がポツリとつぶやいた。

我々が小屋に向かって歩いていると、アスン村長の声がスピーカーから響き渡ってきた。「村の女性たちは、一人残らず民族衣装を着なくちゃいけないということを忘れないように。つい先ほどのことですが、外国からいらっしゃったお客様から、民族衣装を着ていない女性がいるという苦情が入りました」。村長のもとにすかさず戻る。苦情のつもりじゃなくて、単に質問しただけなんですと必死に説明したが、思った通り徒労に終わった。村長が村内放送で前言を撤回することはなかったのである。

全文はこちら。はじめから終わりまで全体を通して興味深い内容になっている。女性たちが首にリングを巻きつけている――あるいは、耳たぶにリングをはめ込んでいる――村に観光に行くことは倫理的に正当化できるのかどうかについて、熱い論争が繰り広げられているようだ。

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