オランダの総選挙でヘルト・ウィルダースが圧勝した.世論調査でも,10月7日時点よりいっそう支持を集めている.昨日はダブリンで――比較的に〔移民に〕開放的な都市で――反移民の暴動があった(アルジェリア系移民が数人を刺したと見られている).オーストリアの「極右」政党はすごく人気を集めているし,ドイツでは「ドイツのための選択肢」党 (AfD) が堅調で,フランスでも状況が入れ替わってもおかしくない.イタリアはすでにそうなっていて,実際の統治はメロニ首相の下でもそんなに大きく違っていない.スウェーデン民主党は連立与党の一角を占めている.いま挙げた国々は EU グループの中核の多くを占めているし,そこにアイルランドとスウェーデンも加わる.もしかすると,名前を挙げ忘れた人物もいるかもしれない.
メディアへの一言:こうした人たち〔反移民・右派系ポピュリスト〕が選挙で勝利し続けているか,少なくともかなりの票を得ているのだから,もはや彼らを「極右」とは呼べないよね.「ディープな中道」なんてどうかな?
アメリカ大陸に目を向けると,アルゼンチンではミレイが勝利したし,エルサルバドルではブケレがとてつもない人気を得ている.さらに,大半の世論調査でトランプがバイデンよりも多くの支持を得ている.あのニュージーランドすら,穏当なかたちではあるものの,右寄りに動いている.チリは極左の憲法を拒絶したし,オーストラリアは先住民の権利の一バージョンを投票で否決して,そうした権利を憲法から外したがっている.コロンビアでは〔左派系大統領の〕ペトロは不人気で,任期いっぱいまで続けられないかもしれない.
少しばかり初見を述べておこう:
1: 道徳的な説教ばかりせずにこういう事態の推移について話したり書いたり喋ったりできないなら,今日の世界では知的な論評をするのは難しい.
2: こういう状況についてキミがもちだす主な理論が「人種差別」なら,論議への足を引っ張る見込みが大きい.そのうえで言うと,この10年ほどに起きた出来事を見れば世界にいまどれくらいの人種差別があるかっていう推定を更新すべきだと強く感じてる.きわめて不本意なかたちでの更新だ.この[新たな]「ディープな中道」に起きていることを説明するダメな説として,人種差別論はいまだに主流となっている.
3: 世論調査でバイデンがこれほど不調な理由についてさんざん語られているけれど,これを批判的に説明するのに,「世界の多くの地域は右翼の方へ動いていて,全世界的にイデオロギーが圧倒的な力を得ているなかで,これに対抗するのは難しい」って話はじゅうぶんに語られていないようだ.もしそうなら,バイデンが再選を果たすのはいっそう難しくなる.
4: 大部分において,こうした運動は「ぼくが考えた種類の右翼」とはちがう.
5: こうした傾向はいまも多くの勢いをもっている.移民受け入れが政治的な勝ち馬に変わりそうにはないなかで,解決策のない低出生率危機についていっそう強く懸念した方がよさそうだ.
6: 数年前に「〔左派に強く見られる差別や権利についての〕意識高い論調 (wokeism) はピークを迎えていて,これからは弱まっていく」と主張したとき,ぼくは正しかったわけだ.
[Tyler Cowen, “The Geert Wilders victory, and more,” Marginal Revolution, November 24, 2023]
perpetually moralizingは、道徳的な説教ばかりをする、くらいのほうがいいと想います。
たしかにそうですね.修正しました.ありがとうございます.