ブルームバーグに寄稿したばかりの記事のテーマは、ズバリ「正統派経済学の逆襲」。一部を引用しておこう。
今年(2022年)は、正統派の経済学にとって上々の一年となった。予測の当否という点に照らして判断すると、風変わりな教義は無残な結果に終わった一方で、標準的な理論は上出来の結果を収めたのである。
まずは、マクロ経済学の話題から取り上げるとしよう。マクロ経済面における今年一番のニュースと言えば、インフレーションである。その原因の筆頭と目(もく)されているのが、①マネーサプライ(マネーストック)の急激な伸び、②エネルギー価格の高騰の二つだが、どちらにしても標準的な理論で難なく説明がつく話だ。まずは①について取り上げると、アメリカでは過去2年の間にM2(マネーサプライの一種)の伸び率が40%近くに達している。Fedがそのことを許してしまったのだが、その帰結として物価が勢いよく上昇したとしても不思議でも何でもない。
・・・(中略)・・・
経済学の教えの中でも古くから伝わる教訓の一つと言えば、供給制約の重要性である。とりわけヨーロッパの国々に言えることだが、エネルギー価格の高騰に伴って景気が減速しているが、このことは経済学でお馴染みの「稀少性」が原因で景気が低迷する可能性があることを示している。ノーベル経済学賞受賞者であるエドワード・プレスコットが亡くなってしまったのも今年だが、プレスコットは景気循環を引き起こす源泉として供給側の実物的な要因の役割を強調していたせいでなじられることが多かった。しかしながら、今年に関してはプレスコットの言い分が正しかったのだ。ウクライナで戦争が起きずにエネルギーの供給に混乱が生じていなければ、世界経済は現状よりもずっと活気を帯びていたことだろう。
記事の結びも引用しておこう。
最後にイギリス経済について。イギリスがEUから離脱してEU加盟国との自由貿易から手を引いてしまえば、イギリス経済にマイナスの影響が及ぶだろうというのが多くの経済学者の予測だったが、その通りになったのだ。
その時々の世の情勢に応じて、正統派の定説に疑いの目が向けられて、今後のために主流から外れた新しい理論が探られることがある。しかし、2022年はそんな年じゃなかった。今年は、正統派が雪辱を晴らした一年だったのだ。
来年(2023年)は異端派が巻き返す年になるかもしれないし、そうはならないかもしれない。
〔原文:“The return of economic orthodoxy”(Marginal Revolution, December 30, 2022)〕