スコット・サムナー 「空港警備の強化に励む運輸保安庁は、飛行機を毎月一機ずつ墜落させているに等しい?」(2011年11月22日)

●Scott Sumner, “The TSA is bringing down one airliner a month”(TheMoneyIllusion, November 22, 2011)


「9・11」以降の米国内における空港警備――それを取り仕切っているのは運輸保安庁(TSA)――を対象にしている研究について、ティモシー・テイラー(Timothy Taylor)がコメントを加えている(pdf)。

まずはじめに取り上げる論文は、 “Flight of Fancy? Air Passenger Security Since 9/11”。著者は、K・ジャック・ライリー(K. Jack Riley)。この論文では、「9・11」以降の米国内における空港警備の強化に伴う便益とコストのトレードオフが検討されている。曰く、「米国内にある空港から飛び立つ飛行機の機内に、自爆テロ犯が乗り込んでいるのではないかと懸念すべき理由はほとんどない。前述した理由――乗客による警戒心の高まり、コックピット(操縦席)のセキュリティ強化、ビザ審査の厳格化――によって米国内にある空港のセキュリティが強化されたおかげもあって、過激なジハード主義者が米国に入国するのが難しくなっているからである。万一入国を許したとしても、飛行機を使ってテロ行為に及ぶのが難しくなっているからである。・・・(略)・・・米国内にある空港から飛び立つ飛行機の安全性の高さを考えると、国内での保安検査(セキュリティチェック)の厳重度を緩めてしばらく前(2009年12月以前)の水準に戻すのも選択肢の一つになると思われるが、仮にそうしたとすれば、(保安検査にあたる人員を雇う費用や保安検査に必要な機械等の費用が浮く結果として)最低でも毎年およそ12億ドルの費用が浮くことになるだろう。・・・(略)・・・それだけではない。保安検査が厳重なせいで乗客が背負わねばならない『死重的損失』――セキュリティチェックに時間がかかることを見込んで早めに空港に向かわなければいけなかったり、セキュリティチェックを受けるために列に長時間並ばなければいけなかったり、身体を事細かに調べられる煩わしさに耐えなければいけなかったりして、乗客が被(こうむ)ることになる負担――も軽減されることになるのだ」。「飛行機を利用するすべての乗客――その数は、年間で700万人に及ぶ――に全く同じセキュリティチェックが行われている。乗客が搭乗前のセキュリティチェックで強いられる負担を和らげる合理的な方法が編み出されずにきたというのは、過去10年の中でもおそらく最大の『失われた機会』だと言えよう。乗客がセキュリティチェックで強いられる負担を和らげるために、『トラスティド・トラベラー・プログラム』を導入する――申請をして『危険度の低い(信頼できる)旅行客』(トラスティド・トラベラー)と認められたら、他の乗客のように厳重なセキュリティチェックを受けなくてもいいようにする――のも一案だが、その具体的な中身については色々と検討の余地があるだろう」。 「飛行機がまたテロに利用されるのではないかという恐れの高まりに加えて、セキュリティチェックが厳しくなったせいで飛行機を利用するのが不便になったこともあり、飛行機の代わりに自動車を使って移動するケースが増えている。これまでの先行研究によると、飛行機が敬遠されて自動車での移動が増えた結果として生み出された(道路上での)交通事故死亡者の数は、(「9・11」以降から)2003年半ばまでの合計でおよそ2200人に及ぶと推計されている。空港警備のさらなる強化を図るためと称して2009年12月に導入された新たな措置がこれまでと同等の大きさの(飛行機から自動車への)代替(代用)効果を伴うようなら(あるいは、その効果の大きさがこれまでよりもいくらか劣るようでも)、「9・11」からこれまでの間に飛行機を使った自爆テロで命を落とした全世界の犠牲者の累計を上回る数の死亡者(交通事故死亡者)が米国の道路上で『毎年』生まれる可能性があるのだ」。

「9・11」から2003年半ばまでというと、大体22ヶ月になる。飛行機が敬遠されて自動車での移動が増えたせいで、「9・11」から2003年半ばまでの間に合計でおよそ2200人が道路上での交通事故で命を落としたというわけだから、月あたりの死亡者数はおよそ100名(=2200÷22)。ボーイング737の乗客数がそのくらいだ。空港の警備が強化されたせいで、ボーイング737の乗客数に相当する人命が毎月奪われているわけだ。それにもかかわらず、国民の身の安全を守るために努力しているかのような素振り――「思いやり」(気遣い)に溢れているかのような素振り――を政府(運輸保安庁)は続けるだろう・・・とロビン・ハンソンなら指摘することだろう [1] 訳注;この点については、次の論文を参照のこと。 ●Robin Hanson, “Showing That You Care: The Evolution of Health Altruism”(pdf)

「安全」と「自由」の一挙両得を可能にする機会が目の前にあるのだ [2] … Continue reading

仮にだが、空港警備の強化に伴って道路上での交通死亡事故が一切誘発されなかったとしても、空港で保安検査員を相手に口論しなくちゃいけないだけの価値があるかというと(そんなひと悶着が起きかねないくらいにまでセキュリティチェックを厳しくしなくちゃいけないかというと)、それだけの価値があるようには思えないのだ。

References

References
1 訳注;この点については、次の論文を参照のこと。 ●Robin Hanson, “Showing That You Care: The Evolution of Health Altruism”(pdf)
2 訳注;セキュリティチェックが今よりも緩められたら、煩わしくて抑圧的な保安検査から解放されるという意味で「自由」が増すだけでなく、飛行機を敬遠して自動車で移動するというケースが減って道路上での交通死亡事故も減るという意味で「安全」も高まる、ということが言いたいのだろうと思われる。
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