スコット・サムナー 「マクロ経済学における『経験則』を追い求めて」(2019年3月22日)

マクロ経済学の分野においては、いつの時代でも通用する「経験則」なんてものはない。
画像の出典:https://www.photo-ac.com/main/detail/2616436

いつの時代も、マクロ経済学における「経験則」が絶えず追い求められ続けてきている。

1940年代には、金利が物凄い低い水準にとどまっているのが「新しい当たり前」(新たな常態)となった。

1950年代には、 金利が徐々に上昇し出して、緩やかな景気後退に度々(たびたび)見舞われるのが「新しい当たり前」となった。

1960年代には、右下がりの「フィリップス曲線」に沿って好景気が続く――インフレ率が上昇するのと引き換えに、失業率の低下が続く――のが「新しい当たり前」となった。万事が解決されたのだ。

1970年代には、「フィリップス曲線」が行方不明になって、スタグフレーション――高インフレと高失業の共存――に甘んじねばならなくなった。

1980年代には、スタグフレーションに甘んじる必要はなくなった(スタグフレーションから抜け出せた)が、巨額の財政赤字が「新しい当たり前」となった。

1990年代には、財政収支が黒字に転じて、インフレを伴わずに好景気が続く「大平穏」(グレート・モデレーション)の時代が到来した。誰も予想していなかった事態だ。

2000年代には、「大平穏」の時代が終わりを告げて、深刻な不況に見舞われた。一部の例外(私とかロバート・ルーカスとか)を除いて、ほとんど誰も予想していなかった事態だ。アメリカ史上空前の住宅ブームとその崩壊に見舞われ、FDIC(連邦預金保険公社)が設立されたおかげでもう二度と起きないと思われていた取り付け騒ぎも起きた。

2010年代には、景気が回復して失業率がそこそこの水準にまで下がったにもかかわらず、金利がゼロ%近辺に張り付いたままの状態が続いた。またもや予想外の事態だ。

どの10年にしても、マクロ経済面で目新しくて予想外の事態に見舞われている。それは2020年代も変わらないだろう。マクロ経済学の分野においては、いつの時代でも通用する「経験則」なんてものはないのだ。

そんなわけで、「歴史を振り返ると、今後Xが起きるのは確実だ」なんて私の前で発言しないでもらいたいと思う。

あ、そうそう。マクロ経済学の分野でも頼りになる「経験則」が一つだけあった。

有為転変(物事は常に移り変わっていく)というのがそれだ。

(追記)2020年代にどんな目新しいことが起きそうかを推し量るのはあまり気が進まないところだが、あえて当てずっぽうをするなら、「アメリカで景気の拡大局面が10年以上続くことはない」という「経験則」が2020年代にはもしかしたら破られることになるかもしれない。

(追々記)EconLogブログで、スティーブ・ムーア(Steve Moore)がFRB(連邦準備制度理事会)の理事候補に取り沙汰されている件について私なりの考えを述べておいた。

(追々々記)すぐ上の(追々記)でリンクを貼りつけたエントリーは読まなくていい。その代わりに、こちらのエントリーに目を通してもらえたらと思う。


〔原文:“There’s only one reliable rule of thumb in macro”(TheMoneyIllusion, March 22, 2019)〕

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