タイラー・コーエン 「ヴェブレン再訪」(2007年3月12日)/「女性が信心深いのはなぜ?」(2007年3月16日)

●Tyler Cowen, “Thorstein Veblen”(Marginal Revolution, March 12, 2007)


ソースティン・ヴェブレン〔日本語版のウィキペディアはこちら〕の作品を読んでいると、ロビン・ハンソンを思い出す・・・なんてことを書く日がやって来るとは思ってもみなかったのだが、『Theory of the Leisure Class』(邦訳『有閑階級の理論』)を再読してみてしみじみとそう感じさせられた。ヴェブレンは、ありとあらゆる現象に進化生物学的な観点から説明を加えようと試みている。どんな現象を説明するにしても、「シグナリング」や「ステータスへのこだわり」が真っ先に持ち出されるのだ。商習慣は、ヒトの生物学的な本性に根差しているそうで、育(はぐく)まれたのとは趣の異なる別の場所(環境)にも持ち込まれて拡散するという。『有閑階級の理論』を10年前に再読していたとしたら――はじめて読んだのは十代の時だ。それからずっと読まずにいた。毛嫌いしていたのだ――、啓示を授けられたような衝撃を受けていたろう。しかしながら、今となってはそこまでの衝撃はない。というのも、ヴェブレンの議論は、(ハンソンだとかタバロックだとかというジョージ・メイソン大学の)同僚たちとランチの時に交わす会話の内容とよく似ているからだ。スペンス的なところ、ハイエク的なところ、ジェフリー・ミラー的なところもある。

(冒頭でも述べたように)ヴェブレンはハンソンを想起させるところがあるが、二人には違いもある。ヴェブレンは文章の書き手として駄弁が過ぎるところがあるが、ハンソンはそうじゃない。

マーク・ブローグ(Mark Blaug)によるヴェブレンの業績紹介はこちらこちらのサイトで、ヴェブレンについての情報がまとめられている。メンケン(H. L. Mencken)によるヴェブレン評はこちら

ついでにヴェブレンの作品を他にも二冊ほど手に取ってみたのだが、どちらも読めたものじゃないというのが私の感想だ。とは言え、ヴェブレンは、もっと称えられてしかるべきなのは確かだ。とりわけ、保守派やリバタリアンの陣営は、ヴェブレンにもっと目を向けるべきだろう。ヴェブレンよりも先に、現代の進化生物学の本を読むべきだろうけれど。

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●Tyler Cowen, “Why are women so religious?”(Marginal Revolution, March 16, 2007)


ヴェブレンの『有閑階級の理論』から少しばかり引用しよう。

・・・(略)・・・中流階級の中で教会に足繁く通う傾向にあるのは、女性や(親が中流階級の)未成年児だ。中流階級に属する成人男性には、宗教への熱が明らかに欠けている。

・・・(中略)・・・・

男女の間でこのような奇妙な違いが見られる原因は、・・・(略)・・・中流階級に属する女性は、有閑階級の代行者(有閑階級に属する男性の妻あるいは召使)であることが多いという事実に求められる。彼女たちは――下層階級である職人階級の女性たちについてもある程度は言えることだが――、経済発展の初期段階の名残(旧習)に囲まれて生活しており、それゆえに古風なものの見方をしがちな心性や思考習慣を引きずっている。 ・・・(略)・・・現代の男性にとっては、家父長制的な人間関係というのは、日常生活を規定する支配的な形態では最早(もはや)ない。しかしながら、・・・(略)・・・、「家庭」の内側に閉じ込められている女性たち――夫(ないしは主人)から指示されて家庭に篭っていることもあろうし、経済的に夫(ないしは主人)に頼らざるを得ないためにそうなっていることもあろうが――にとっては、家父長制的な人間関係は、今もなおリアルで、日常生活を規定する最も基本的な形態である。だからこそ、信心深いばかりでなく、家父長制的な人間関係のロジックに照らして日々の出来事を解釈しがちな心性(ないしは思考習慣)が育まれることになるのだ。彼女たちの日々の家庭での生活を規定しているロジックは、超自然的な領域にも持ち込まれる。男性たちにとっては馴染み(なじみ)にくくて馬鹿馬鹿しく思える(宗教的な観念も含めた)あれやこれやの観念も、中流階級に属する彼女たちには親しみやすくて得心がいくように感じられるのはそのためなのだ。

12章からの引用だ。ヴェブレンの言い分に従うなら、「外に出て働いている女性は、そうじゃない(働いていない)女性と比べると、信仰心が薄い」っていうことになりそうだ。外で働いているかどうかで信仰心の強さに違いが出るかを測るためには、所得や学歴といった要因にコントロールを加えた上で比較する必要があるが、どう思う? 正しいだろうか? ブライアン・カプランがそのものズバリの話題をこちらのエントリーで取り上げている。こちらの記事もあわせて参照されたい。ヴェブレンについては、ちょっと前にこちらのエントリーでも話題にしたばかりだ。

女性が男性よりも信心深いのは、なぜなのだろう? 女性のほうが男性よりもリスク回避的だから? [1]訳注;この点については、次の論文を参照されたい。 ●Alan S. Miller&Rodney Stark, “Gender and Religiousness: Can Socialization Explanations Be Saved?(pdf)”(American … Continue reading

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1 訳注;この点については、次の論文を参照されたい。 ●Alan S. Miller&Rodney Stark, “Gender and Religiousness: Can Socialization Explanations Be Saved?(pdf)”(American Journal of Sociology, vol. 107, no. 6 (May 2002), pp. 1399-1423)
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