非常に興味をそそられる説ではあるが、赤ちゃんの頃の記憶はさすがに残っていないので、実体験をもとにして肯定も否定もできない。
ゴプニック(Alison Gopnik) [1]訳注;ゴプニックはこの方面の研究を一冊の本にまとめている。『哲学する赤ちゃん』(青木玲 … Continue readingによると、赤ちゃんには意識があるだけではないという。赤ちゃんは、大人よりも鋭敏な意識の持ち主だというのだ。我々――すなわち、大人――の意識は、何かに注意を向けている時の方がそうしていない時よりも活発になるというのがゴプニックの立論の出発点になっている。
ゴプニックによると、赤ちゃんの脳は、大人の脳よりも可塑性がずっと高くて、大人が何かに注意を向けている時と神経化学的な観点からして似た状態にあるという。赤ちゃんは、大人よりも学ぶスピードが早くて、学ぶ量も多い。注意が向いている狭い範囲の外にあるあれやこれやの情報を大人以上に取り込む。大人が何かに注意を向けると、成熟していて変化に乏しい脳の一部――他の部分はこれまで通りで、その部分だけ――が赤ちゃんの脳みたいになるという。すなわち、一時的に柔軟性が増して学ぶのが早くなり可塑性を持つようになるというのだ。
赤ちゃんになれたとしたら、どんな感じなんだろうか? ゴプニックによると、ありとあらゆるものにいっぺんに注意が向くようになるという。内省なんて滅多にされず、無視されるものも滅多にない。無意識に自動的に専門家みたいに頭が働くなんてことも滅多にない。大人が赤ちゃんの世界を疑似体験するにはどうしたらいいのだろう? ゴプニックによると、何もかもが新しい環境――これまで触れ合ってきたのとはまったく別の文化――に身を置くと、赤ちゃんが味わうのと限りなく近い経験を得られるという。
赤ちゃんになれたらどんな感じかを鋭敏(だいぶ鋭敏)に察することができる大人も中にはいそうだね。
〔原文:“What it is like to be a baby”(Marginal Revolution, June 27, 2007)〕