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サイモン・レン-ルイス 緊縮を定義する (2015年12月7日)

Defining austerity  (Mainly Macro, Monday, 7 December 2015)

Posted by Simon Wren-Lewis

最近のダブリンでの講演で私が示した緊縮の定義は,一般に広く使われているものではないが,よい定義だと自分では思っている.もっとも一般的な定義では,単に国家予算の赤字を削減しようとして財政支出を切り詰めたり増税したりすること,ということになるだろう.この定義の問題点は,ニック・ロウが不平を唱えていた(邦訳)通り,これでは財政健全化 (fiscal consolidation)という用語と同じになってしまうということだ.緊縮とは単に大幅な財政健全化のこと,と言ってもよいかもしれないが,これでは弱いように思う.

「緊縮」という言葉を使う時にふつう想定しているのは,緊縮というのは何らかの害をなすものだということである.害をなす相手は財政支出削減や増税の影響を受ける個人だけにとどまらない.一国の経済全体も害を被るのである.実際,グーグルに定義を尋ねてみると,こういうのが出てくる:

公的支出を削減するための政府の施策によりもたらされた,困難な経済状況

これは財政健全化とは異なる.なぜなら,健全化自体は必ずしも「困難な経済状況」をもたらさないからだ.もし財政健全化を拡張的金融政策により埋め合わせれば,経済全体が困難な状況に陥る理由はない.

私の提案は,緊縮の定義をもう少し精密なものにすることである.私は,緊縮を以下のように定義したいと思う:

財政健全化のうち,非自発的失業の大幅な増加をもたらすもの.あるいは,より正式な用語で非口語的に言えば,顕著な負の産出ギャップ増大をもたらすもの

実際,ほとんどの経済学者がこういう意味で使っているじゃないかと思うかもしれない.私も同意したいところだが,しかし,経済学者たちは必ずしもこういう定義を使っていない.ちゃんと理解しているべき場合でさえそうしない.また,私の定義のもとでは「拡張的緊縮」という言葉は論理的に意味をなさないが,この言葉は広く使われている.最後に,ささいな点だが,Wikipediaは緊縮を私の提案したような意味でなく,財政健全化と定義している.

私の定義の利点は,2つの明確な主張が行えることだ.まず,グローバル経済について,あるいは,中央銀行と変動相場制を持つ国の経済について,緊縮は一般に全く不要であること.なぜなら,これらの場合には財政健全化を延期して,金融政策が財政健全化を相殺できるようになるまで待つことができるからである.これが意味するのは,ここ5年間の英国,米国,およびユーロ地域のすべてにおける緊縮は完全に避けることができたはずだということである.第2に,通貨同盟の一員で,同盟の加盟国の平均より多くの財政健全化が必要な加盟国については,財政健全化に引き続いて緊縮が生じるが,その緊縮の度合いは,せいぜい内的減価1を通じた輸出競争力の回復によって,財政健全化を相殺するのに必要な程度の実質的切り下げができる程度までやればよいということである.緊縮は,もし通貨同盟の中央銀行が適切な政策を取っていれば,この程度までに制限できるはずである.ユーロゾーンの辺縁諸国で起きた過剰な緊縮が,ECBがこうした適切な政策を導入するのが遅れたせいであることはほぼ確実である.

こうした主張の詳しい根拠を知りたければ,私が論文を書き上げるまで待つように!2

  1. 訳注;名目賃金の引き下げ(=デフレ)(というかたちでの実質為替レートの減価.ラルス・クリステンセン 「カッセルの敗北 ~デンマークとノルウェーにおける1920年代の金融政策の失敗~」アイケングリーン&テミン 「『金の足かせ』と『紙の足かせ』」を参照. []
  2. 訳注: このワーキングペーパーのことかと思われる. []

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