――という疑問が,キャス・サンスティーンとのおしゃべりでほんのちょっと話題になった.ただ,そのときはあんまり踏み込んで論じられなかった.スタートレック世界には,仮想現実があるし,個人用の複製マシンもあるし,強力な武器もあるし,しかもどうやら,人類の大半の生活水準はかなり高そうだ.初期の描写では,ヴァルカン星はかなり質素な感じだけど,少なくとも各種の基本的な必要は満たしていそうだし,いつだってキャッチアップ成長が期待できる余地はある.シリーズが進むにつれてだんだんストーリーが複雑になっていった結果, 悪条件に陥っている場合があるとしても,その大半は,初期のクリンゴン人やロミュラン人といった悪漢どもに奴隷にされてしまった人たちが占めているように思える.
一方,スターウォーズは,初期エピソードをみると,一部の社会はかなり繁栄している.でも,ドロイドは虐待を受けているし,奴隷制度は広範に見られるし,多くの人たちはぎりぎりの条件で暮らしていいるし,しだいに銀河の多くはジェダイによる恐怖支配のもとに下ってしまう.
どうしてこうもちがってるんだろう? アセモグルとロビンソンにお伺いを立てるべきだろうか? それとも,これって経済地理学の問題なんだろうか? ほんのいくつかだけど,スターウォーズ世界とスタートレック世界をわけている要因が考えられる:
1. スタートレックの武装勢力をみると,そこには社会の多様な人たちが登場しているように思える.スタートレックのウフーラやチェコフやスールーを,帝国軍スタートルーパーたちと比べてみるといい.
2. カーク船長やピカード船長は,ナルシシズムが過剰かもしれないけれど,真正の権力亡者にまで成り下がることはない.その点,シスのリーダーたちやジェダイの騎士たちのお歴々とはちがう.
3. スタートレックでは,どんなスターシップでも惑星を破壊できる.他方,スターウォーズでは単一の集権的なデススターがあって,これに反抗する手段はなく,反乱勢力にはこれを爆砕できない.ということは,スタートレック世界の方がもっと強力な抑制と均衡におかれているように思える.腐敗した船長がいても,単独ではやすやすと惑星連邦を乗っ取れないし,いつでもそれに対抗する勢力が存在する.
4. スタートレックは分析的平等主義を奉じている.つまり,あらゆる人間は,じぶんをヒトという広い種の一員だと思っている.スターウォーズ世界みたいにジェダイやシスのような特殊グループがいて,血筋によって特殊な力だかなんだかを持ち合わせているってことはない.異星人のいろんな種が存在しているけれど,彼らはそういう種として描写されていて,総じて,人類の選挙で選出されることはなさそうだ.しかも,人類は銀河の覇権を握っているように描写されている.どこか,戦後期のアメリカ合衆国みたいだ.
5. スターウォーズ世界では,ジェダイやシスの力のおかげで特定の誰かが他よりずっと強い力をもっている.これによって,安定性は低くなっているように思える.スタートレック世界では,最大の問題は超人のカーンやその一族によってもたらされることがあるけれど,幸いにも彼らは押さえ込まれる.
6. スタートレックの複製マシンは十分に強力で,奴隷制はかなり非効率になっている.一方,スターウォーズ世界では,おそらくソローモデルで測ればわかるだろうけど,減価率はもっと高そうだ.そうした資本の無駄を埋め合わせるために,より多くの人たちが強制労働に徴用されている.
他になにかあるかな?
追記:ここでキャスがスターウォーズ vs. スタートレックについて語ってる.