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ニック・ロウ「マクロの一般原則を教えよう」

Nick Rowe “Teaching general principles of macro” (Worthwhile Canadian Initiative, June 04, 2014)


今から数時間後、カナダ銀行1 は年に8回行っているあることを行う。オーバーナイト金利の短期目標を決定するんだ。上げるのか下げるのか、はたまた据え置くのか2 。この決定は何にもとづくのだろうか。この決定はカナダ経済にどのように影響するのだろうか。

たくさんの学生、それも今日のカナダ銀行の決定を担当しているジャーナリストのようにいま現在のことにしか興味を持っていない人たちに入門マクロ経済学を教えるという場合、僕だったら次のように教える。フィリップス曲線とある種のIS曲線を教えて、フィリップス曲線とIS曲線を使ったデータをカナダ銀行はどのように解釈するのか、そして2%のインフレ目標を維持するためにそのデータに対してカナダ銀行はどのように反応するのか、といったことを議論するんだ。
サイモン・レンルイスが教えたいと思っていることにとても近いことを僕も教えることだろうね3

でも大学教育は、いま現在のことについて「だけ」じゃない。

さっきの学生たちは60年後にはどんな立場にいるだろうか。今から60年後にも金融政策は今と同じ方法と思想で行われるだろうか。今から60年前はどうだっただろうか。600年あるいは6000年前はどうか。現実の世界とは異なるけれども現実世界より優れていたり劣っていたりするかもしれない、あらゆる可能世界における金融政策はどんなものだろうか。今ここでカナダ銀行が行っている方法で金融政策を行う必要はない。何か別の全く異なった貨幣制度のほうが良いっていう可能性もあるんだ。

時間・空間の両方において遠く離れたところであっても役に立って、現実世界のありうべき変化を考慮するのにも役に立ち、役に立つのは今ここにある世界についてだけではないという何らかのマクロ経済学の一般原則というものはあるだろうか。

僕はあると思う。

他の財に対するリンゴの価格を決定するのは何だろうか。需要と供給だ。リンゴの価格が粘着的で、需要あるいは供給が変化した際にすぐさま調整されないとしたら何が起こるだろうか。リンゴの不足あるいは過剰だ。リンゴの不足ないし過剰は、何か他の市場の需要あるいは供給に影響を与える場合がある。

他の財に対する貨幣の価格を決定するのは何だろうか。需要と供給だ。貨幣の価格が粘着的で、需要あるいは供給が変化した際にすぐさま調整されないとしたら何が起こるだろうか。貨幣の不足あるいは過剰だ。貨幣の不足ないし過剰は、他の市場の需要と供給に影響を与える4 。貨幣はリンゴとは違う。貨幣は交換の媒介で、計算の単位でもあるからだ。貨幣の不足ないし過剰は、貨幣が取引される全ての市場と、貨幣で価格付けがされている全ての財に影響を与えるんだ。

これらは(ミクロとマクロの)経済学の一般原則だ。この一般原則を教えることが必要なんだ。

この一般原則を教えた上ではじめて、いま現在の各々の詳細やカナダ・リンゴ生産組合の現在の運営方法について教えるべきだ。そしてこの一般原則を基にすることで、リンゴの配分についてもっと良い方法があるのかどうかを議論することができる。

リンゴを貨幣として使ったとしたら、その世界はどんなものになるだろうか。その世界は今日よりも良いだろうか、悪いだろうか。マクロの一般原則を理解している学生は、リンゴの不作がデフレと不況を引き起こすことを説明できるだろう。カナダ銀行がどのようにオーバーナイト金利を設定するかしか理解していない学生は、役に立つことは全く何も言えないんだ。

  1. 訳注;カナダの中央銀行 []
  2. 訳注;なお、カナダ中銀は6月4日付で金利目標を1%に据え置くことを発表した。 []
  3. 訳注;リンク先記事は経済学入門コースでもっと実証を教えるべきというノア・スミスの記事に反応したもの。それについてのマンキューの反応をhimaginary氏が紹介している。 []
  4. 訳注;リンゴの過不足の場合は影響を与える「かもしれない(may)」だが、貨幣の場合は影響を「(間違いなく)与える(will)」となっている。 []

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