ポール・クルーグマン「事実が事実であっちゃいけないときにやりがちなこと」

Paul Krugman, “When the Truth Just Cannot Be True,” Krugman & Co., July 25, 2014.
[“Health Care Hatred,” July 14, 2014; “This Age of Infallibility,” July 15, 2014]


事実が事実であっちゃいけないときにやりがちなこと

by ポール・クルーグマン

Cheryl Senter/The New York Times Syndicate
Cheryl Senter/The New York Times Syndicate

適正価格医療保険法 (Affordable Care Act) に関するいいニュースがあれこれとでてる.どれも,疑いの余地があると考えるべきじゃない.登録は目標を上回ってる.複数の独立調査から,保険未加入の国民は急減してるのがわかる.理由はさておき,ともかく医療コストの増加は実のところ劇的に減速している.新規に保険加入した人たちは,総じて保険の保障範囲に満足している.

この先,大きな問題が待ち構えているんだと主張したいなら,けっこう(でもワケは説明してよね).だけど,ここまでのところ,実態はかなり好調だ.

ところが,そう言うと寄せられてくるのは――物事が順調みたいだよって言うと決まって寄せられてくるのは――異論反論の洪水というよりは,憤怒の洪水だったりする.顔を真っ赤にして,オバマケアは大失敗なんかじゃないみたいだって話に対して,事実上,支離滅裂なことを言い立てる.

どういうことだろう? ひとつには,「オバマ発狂シンドローム」なのかもしれない.この前の『ニューヨークタイムズ』にコラムを書いた後に受け取ったメールには仰天した.ぼくがオバマの広報係みたいなことをやってると言う読者の非難がそこには書かれていた.なんでも,オバマの災厄ぶりを認めるのをぼくが拒絶してるんだそうだ――あのコラムでは,オバマに言及もしてなかったのに.オバマケアという呼び方は,反対者たちが適正価格医療保険法につけたラベルだった.やがて訪れるだろうこの法律の災厄を見越して,大統領の名前と結びつけたんだ.ところがオバマケアも順調ならオバマの評判もまずまずとわかって,彼らは青くなってる.

また,不運な人たちを――とくに白人以外を――助けるプログラムならどんなものでも総じて憎悪してるって部分もあるかもしれない.そうしたプログラムは,ぜったいに災厄でなくちゃいけないわけだ――証拠がどうだろうとおかまいなしだ.

さらに,ぼくのにらむところでは,恥の要素もありそうだ.オバマケアが実地にうまく機能しているなら,かくかくしかじかのわけでこれは大失敗になりますよと大声を上げていた人たちは,誰も彼もまるで大バカみたいに見えてしまう.

けど,ときには物事がまさに見かけどおりって場合もあるのよね.

© The New York Times News Service


無謬性の時代

先日,Vox の称賛すべきサラ・クリフが,オバマケア大失敗を予想して大外れになった例を一覧にまとめている.サラは,そのなかでも7つの主要テーマに焦点を当てている.「オバマケアのウェブサイトはけっしてまともに機能しない」から,「誰も登録しないだろう」までそろっている.こうして見ると,オバマケアは決してうまくいかないし保険に加入できる人は増えるどころか減少するだろうと言いはなっていた下院議長ジョン・ベイナーみたいな人たちは,いまごろきっと,いくらかでも時間を割いて,いったいどうしてこうも大外れになってしまったのか理解しようとつとめているところだろうと想像できるよね.

なーんて,四月馬鹿でしたー!(いやまあ,7月なのはわかってますよ)

全面的に間違っていたときですら,自分は正しかったんだと言い張りがちな人間の傾向はどんなときにもあるんだろう.ジョージ・オーウェルは,エッセイ「目と鼻の先に」で明快にこう言ってる:

「要点はこうだ.事実ではないと承知していることを信じる能力ならぼくらみんなに備わっている.ついに自分が間違っていたと判明したときには,厚かましくも事実をねじ曲げて,自分は正しかったのだと示して見せる.知識だけの話なら,このプロセスは果てしなく続けられる:これにかけられる唯一のチェックは,遅かれ早かれ間違った信念は堅固な現実にぶつかってしまうってことだ.通常は,戦場でね.」

実のところ,一部保守派のこりなさ加減をみると,近頃は戦場で現実にぶつかるだけではまだ足りないみたいだ.ぼくには,この事実否認はかつてよりもいっそう深いところに達してるように思える.

おそらく,これは党派性の問題なんだろう.つまり,党派性のために,どちらの党派も都合のいい情報の泡にくるまれて暮らしていて,なんらかの世界観を深く信じ込んでしまっているあまりに,それに合致しない事実を誇張でなく考えられなくなっているんだろうね.

けど,これは注視すべきことだよ.

© The New York Times News Service

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