マーク・ソーマ 「『ポール・クルーグマン: 巨大格差は必要か?』」 (2016年1月15日)

Mark Thoma, “Paul Krugman: Is Vast Inequality Necessary?“, (Economist’s View, Friday, January 15, 2016) 


ランプの魔ジニ係数よ、もう元に戻る時だ:

巨大格差は必要か? : ポール・クルーグマンの論考 (ニューヨークタイムズ): 富裕層にはどのくらい富裕になってもらう必要があるのか?

ふざけているのではない。真面目な質問である。それどころか合衆国の政治は実質的にこの問いをめぐって繰り広げられているのだとの立論さえ在り得る。つまり一方でリベラル陣営は高所得を対象とした増税と、その収益を用いたソーシャルセーフティネットの拡充を目指しているが、他方の保守陣営の目指すのはまさにその逆で、その主張も 『富裕層に課税せよ』 政策は富の創出へのインセンティブを減じることであらゆる人に害を与えるものだ、という具合になる。

さて、近時の情勢は保守陣営の立場にとって安楽なものではなかった。…だがもっと長期的な視点からみるならば、巨大格差を是認させるような事例も存在するのだろうか?…

極端な格差を生じさせるかもしれない状況を定式化した3つのモデルが在るのだが、これに依りつつ議論を進めてゆくのが有益だと思う。なお、実際の経済 [the real economy] は同3モデル全ての要素を含むものである。

第一に、個人の生産能力に甚だしい差が有るせいで、大格差が生ずる場合が考え得る。..

第二に、運不運を専らの原因とする大格差が生じる場合も在り得る…、ジャックポットを射止めた者が…然るべき時に然るべき席に着いていたのは全くの偶然である。

第三に、権力が原因となって大格差が生じる場合も在るだろう。例えば自分の得る報酬を決定できる大企業の重役や、内部情報の恩恵で、或いは不慣れな素人投資家から不相当に大きな料金を徴収したりとかで大いに儲けている辣腕金融業者がこれに当たる。

先ほど述べたように、実際の経済にはこの3つの筋書き全ての要素が含まれているのだ。…

しかし何れにせよ真の問題は、現在少数のエリートの下へと向かう所得の流れからその一定部分を、経済発展に深刻な影響無しに、他の目的へと再分配することが可能か否かという点に在る。

再分配そのものが本質的に正しくないなどとは言わないで欲しい。たとえ高所得が生産能力を完璧に反映するものであったとしても、市場での帰趨は倫理的正当性と同一ではない。そのうえ、富が幸運ないし権力の何れかを反映するものであることのままある現実を顧みれば、そういった富の一定部分を徴収し、全体としての社会の力を増す為にこれを用いるというのも十分説得的な議論となろう。尤も、それが富の創出を継続すべきインセンティブを破壊しない範囲での話ではある。

さらに、そんな風にしてインセンティブが破壊されるだろうと信ずるべき理由もじつは全く無いのだ。歴史を振り返れば、アメリカが最も急速に成長し、テクノロジー上の発展を遂げたのは1950年代から1960年代の時期という他ない。この時期にはしかし、今日と比べてトップ層への税率は遥かに大きく、格差の方も遥かに小さかったのである。

今日の世界では、スウェーデンのような高税・低格差諸国はさらに、高いイノベーション性と、スタートアップ企業にとっての本拠地の性質を共に兼ね備えている。その理由の一部には、確かなセーフティネットのおかげでリスクテイキングが大いに促されているところも有るだろう。…

ここで今一度初めの問いに立ち返れば、答えは 『ノー』 となる。つまり富裕層が現在ほど富裕である必要は無いのである。格差は不可避だ。しかし今日のアメリカにみられる巨大格差は、不可避でない。

 

 

 

 

 

 

 

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