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ラジブ・カーン「デーヴィッド・フラムへの10の質問:ネオコンインサイダーかく語りき」(2017年2月1日)

10 Questions For David Frum
POSTED ON FEBRUARY 1, 2017 BY RAZIB KHAN

Q1:あなたのツイッターを見ている限り、自身をネオコンと見做しています。もしそうなら、ネオコンであるということは、どのような意味を持つのでしょうか?

より正確に言うなら、他人から見て分かりやすそうな分類方法なので、「ネオコン」名札を受け入れている、という感じですかね。私自身は、この言葉を、イデオロギー的な表現というより、経歴を表す用語として長い間見做してきました。これは私見となりますが、両大戦間期に生まれ、ニューディールの自由主義者として生い立ちを始め、後の1960年代と1970年代の社会激変の渦中に右派に主旨替えした特定集団の人達の説明として使用されてきました。アーヴィング・クリストル、ジェームズ・Q.ウィルソン、ダニエル・パトリック・モイニハンといった人でしょうか。これは、私の半生記にはまったくもって適応しないでしょう。しかしながら、長い年月を経ることで、この用語の形成に当てはまる人達が抱く信条の多くの要素を、私も共有するに至ったのです。信条とは、以下のようなものを含んでいます。

a)「社会保険制度は、自由市場社会を、弱めるよりも安定させる」との信条。
b)社会科学の手法と洞察への尊重
c)自由な世界秩序への責務は、アメリカの超越さとリーダーシップによって担われている。

Q2:ほぼ間違いないでしょうが、先進国における自由民主主義の見通しに関して、いくぶん悲観的な時代に、私たちは生きています。しかしながら、1930年代と違い、既存の思想に取って代わるようなイデオロギー共有が存在しないように思えるのです。今の時代は、朦朧としたままに過ぎ去ってしまうのでしょうか? それとも、なんらかの新しい思想運動の出現が、我らの時代の覇権的な制度として、自由民主主義に取って代わるのでしょうか?

イスラム世界を除けば、今はなんらかのイデオロギーの時代ではないでしょう。自由民主主義への主要なオルタナティブは、独占的権威主義ですかね。それは、人の熱狂に火をつけるような信条制度ではないでしょう。しかし、それは確実に力強く、堅牢で、効果的な制度ではあります。そして、この制度は、財産を既得保持してる人々には、強く魅力があるものなのです。

Q3:古代中国等においては、技術や能力に基いて選別された官僚の統治と、良き人格や美徳を信条とする為政者の統治、どちらが良いのか、といった議論がありました。ファリード・ザカリア1 らは、1960年代に前後してアメリカの政治制度が為政者の統治から官僚のそれに移行し、その事は私たちの民主主義の堅牢性の在り方に長期に渡って影響を及ぼしているであろう、と示唆しています。まず聞きたいのが、今日の私たちは、官僚の統治下にあると同意されますか? そして、もしそうであるなら、こういった官僚統治は、私たちを反自由主義に向かわせることになるかもしれないと考えていますか?

私たちが官僚の統治下にある、といった考えには同意できませんね。しかし、選挙で選ばれた政治当局者は官僚のアドバイスに依存するところが大きい、といった考えはハッキリ認めざるをえないでしょう。

Q4:あなたはカナダ人です。歴史的偶然性をひとまず置いておくなら、カナダの英語圏はアメリカ合衆国から独立しているべきである、といった考えを正統化することはできますか? 両国の深い文化的違いが、アメリカ人には理解できないような政治的独立を正統化するような根拠になっているのでしょうか?

独立すべきとか、統合されてるべきとか、言い出したのは誰かしら? 「あるがままに依拠している唐変木」とでも? 非常に多くのカナダの独立を正統化する事象があります。歴史の偶然性を理由にした…。ほとんどが歴史的偶然性によるものでしょう。優れて正統な理由がないのなら、あなたもこの件を弄ばないほうが良いですよ。

Q5:2000年代後半に、あなたは保守運動への参加に際して、なんらかの不和を抱えていましたよね。少なくとも、所属していた集団への掟破りらしきものを始めています。(例えば、あなたは、民主党の医療制度改革に対して、反対するより、調停擁護に回っています)。これは徐々なる転向なのですか? それとも「君子豹変」した瞬間があったのでしょうか?

当初は極めて徐々でしたね、その後に非常に突発的なものとなりました。私が1990年代初期に関心を持っていたのは、中産階級の生活水準に何か悪い事が起こっているという断片事実でした。これは今や、当たり前に認められている事実でしょう。当時、これは極めて異端な思想だったのですよ。少なくともウォールストリート・ジャーナルの社説面などでは。その時、わたしはそこで働いていました。このことは、大規模移民によるネガティブな効果に、私の関心を向かわせました。より異端的な思想でしょうが。

私にとって物事が急速に進み始めたのは、ハリエット・マイヤーズ2 が最高裁判事に指名されたことです。ホワイトハウスでの執務経験から、私は彼女を若干知っていました。彼女は多くの点で、優れた人でした。しかし、その指名は、驚くほど不適切なものだったのです。それは、誰にとっても自明であるべきでした。それは、誰にとっても自明だったのです。しかし、私たちのうちのほんの数人――ローラ・イングラハム3 が最初の門外の人ですね――しか敢えて異議言及しなかったのです。同調圧力が非常に険悪に深化していることを渦中で気付くのは、楽しいことではありませんでした。

次に、2008年の金融危機が到来することになりました。まずジョージ・W・ブッシュ政権によって、後にオバマ政権によって、積極的な政策措置が行われました。危機が加速度的に伝染し、グローバル経済が崩壊するのを防ぐ為に必要な措置だったでしょう。この危機の渦中、主流の保守派は、イデオロギー的な戒律に固執し、それは贔屓目に見ても見当違いなもので、最悪に考えれば大惨事になる可能性にあるものでした。その後に続くことになった長い悲惨な不況下において、保守派の解決策は、非人道的で、道理に反し、危険なまでに不安定だと、私には思えました。1930年代以来、最も長期にわたった失業の蔓延状態の期間においてさえ移民を拡張しようとした、『ギャング・オブ・エイト法案4 』試みなどを、保守派の間違いに含めることができるでしょう。トランプは、この期間の保守派の間違いが招いた代償の一部でしょう。私にはそう思われます。

しかしながら、遡ることができるなら、これら間違いの総ては、イラク戦争時の私の経験に突き当たります。そこでも大部分が間違えていました。集団浅慮5 が原因です。私は個人的に、二度とそのような集団浅慮の一翼にならないことを決心していました。

Q6:あなたは自著”Dead Right“(『死んだ右派』)において、ナショナリストが、将来の共和党の最も有力な構成要素になると示唆していました。ただ、あなたはこの予測を好んでいないようでした。この一世代において、これは正しくなかった予測のように思えます。政策的方向性において、共和党は未だに国際主義のままです。キリスト教的構成要素も、象徴性とレトリックとして未だ多くの注目を引きつけています。ドナルド・トランプが共和党をどこに連れて行こうとも仔細関係なく、2016年の大統領選は、ナショナリズムの勝利を予兆しているように思えるのです。1990年代に、ナショナリズムとポピュリズムが、1世代先の将来世代に輝かしい未来をもたらしそうだと、何か見いだせていましたか?

私が見出していたものですか…。それは、経済成長の可能性鈍化と移民の加速ですね。この組み合わせは、過去において幸せに終わったことはけっしてありませんでした。そして、今においても幸せに終わりそうにもないでしょう。

Q7:私たちを取り巻く世界を理解するには、2つの異なった方法があります。1つ目は、定量科学の形をとっています。統計回帰と仮説を扱う分野ですね。もう一方は、より心象に基づいたものです。史実に基づく物語的要素や、膨大な個別事象と事実を扱う分野です。もし何かあるとすればですが、あなたは政治学のような分野から何を学んでいきましたか? 政治学は規則的なモデルと、経験的なデータセットを扱っています。そして、あなたは歴史学のような分野からは何を学んできましたか? 歴史学は、物語的要素を論点化しています。

政治学から学ぶべきことはたくさんありますね。しかしながら、自身の思索は、歴史学と法学によって形成されていると認識しています。私は、歴史学と法学を最も体系的に学びました。歴史学において重要なことは、歴史が教えるくれるものと、そうでないものを区別することにあります。いわゆる「歴史の教訓」は、実際には非常に曖昧な指針です。私の好きだった先生は、「歴史は決してそれ自身を繰り返しません。細部に感心を払わない人にそう見えるだけなのです」と生徒たちに話していました。歴史の本当の価値とは、どのような経緯を経て今の時代に至ったのかであったり、現在の受難に我らをどのように位置づけるかを、深く理解することにあるのです。

Q8:次なる世代が、脱勤労世界の出現を見るかもしれないと同意されますか? もし同意されるなら、そのような世界における労働の過剰共有への、あなたの支持する解決策は何でしょうか?
(例えば、普遍的なベーシックインカム、それとも大規模な公的雇用プロジェクトなどがあります)

率直に言って、そのような世界は疑わしいですね。やるべき仕事は常に存在しています。人が仕事を行う為に、訓練され、インセンティブが与えられている限りは…ですが。

Q9:私たちは人間遺伝子工学とゲノム工学が大規模に進歩している時代に生きています。これら研究成果の詳細について論評する事よりも、私が興味があることがあります。それは、ワシントンDC内や周辺の政治政策に関わるインテリ達が、大学内と民間セクターで起こっているこの研究成果に気づいてたり、関心があるのか、それともないのか、ということなのです。政治政策部署において、自然科学は分野の専門家に任せるべき論題として見做されているのでしょうか? もしくは、自然科学は、政治政策知見をより幅広くすることに、貢献したり影響を与えていますか?

自然科学は、政治的な審議においては、痛ましいほどわずかな影響しか及ぼしていません。申し訳ありませんが、こう言うしかありません。

Q10:若い頃からあなたの思想形成に影響を与え続けている、一冊の本は何でしょうか? 自身の例を挙げさせてもらうなら、マット・リドレーの1999年の本『ゲノムが語る23の物語』です。

たった一冊だけですか? それも若い頃の? 私が見出したのは、小説や詩が人の心に長い間留まるということです。以下引用の一文が、私たち皆に、いくばくかの慰めを与えるかもしれないですね。

「どんなに賢い人でも」と彼は私に言った、「若い頃のある時期に、あとから思い出して不快になって消してしまいたいと思うような言葉を口にしたりそんな生活を送ったりしたことのない人はいません。でも、それを一から十まで後悔する必要はありません。だって、曲がりなりにも賢いと言われる人間になれるかどうかは、そこに最終的に辿り着く前に、滑稽な人間やおぞましい人間になるという化身の段階をすべて通ったか否かにかかっているんですから。上流社会の人たちの息子や孫にあたる人たちね、そういう若者たちは家庭教師から精神の高貴さとか精神的な気品とかを中学のときから教え込まれるんですよ、私の知る限りで言えば。たぶんこういう若者たちが人生から削らなくてはならないものは何もありません。彼らは自分が言ったことを活字にもできるし、署名をすることもできるかもしれない。しかし、哀れな精神の持ち主だし、純理派(ドクトリネール)の無力な末裔にすぎません。こういう人の見識などマイナスに働く不毛なものです。そもそも見識というのは誰かから受け取るものではありません。それは自分で見つけなくてはならない。しかも、誰も代わってくれない道、誰も免除してくれない道を自分で歩いてからのことです。見識というものがひとつのものの見方だからです。あなたが素晴らしいと感じる生活やあなたが尊いと思う態度は、一家の父親や家庭教師に準備されたわけではありません。最初は周囲にはびこる悪いものや凡庸なものに影響されて、いろいろ違う形を取るのですね。そうした生活や態度が表しているのは戦いと勝利にほかなりません。若い頃自分の姿がどうだったかはもう判然としないけれど、いずれにしても不快なものだということはわかります。それでも、否定されるべきではないんです。だって、それは私たちがほんとうに生きてきた証であり、人生と精神を統括しているさまざまな規則に従って、画家で言えば、アトリエの生活とか芸術上のグループと言った生活上の月並みな要素から、それを超える何かを引き出してきた証左なのだから」

※訳注:訳者による補足、註釈の文面は基本的に[]で囲っている。
※訳注:デーヴィッド・フラムはアメリカでは非常な有名人と思われるが、日本では著名でないと思われるため、副題を追加している。
※訳注:最後にフラムが引用している文章は、プルーストの『失われた時を求めて』の第2篇「花咲く乙女たちのかげに」の第2部の登場人物のセリフである。本エントリの引用箇所は光文社古典新訳文庫版から引用をさせてもらっている。

  1. 訳注:1964年生まれ、インド出身のアメリカで活躍するジャーナリスト。国際政治を題材にした著作で有名。邦訳書籍に『民主主義の未来――リベラリズムか独裁か拝金主義か』『アメリカ後の世界』等がある []
  2. 訳注:1940年生まれの弁護士。ジョージ・W・ブッシュがテキサス州知事時代の法律顧問を務め、ブッシュの大統領就任後は、大統領法律顧問に就任している。ブッシュによって最高裁判事に指名されるが、縁故採用、主な専門が企業間訴訟であったこと、等を理由に共和党内でも異論を呼び、上院承認前にマイヤーズ自身が大統領の指名を辞退することで事態の収拾を図る事となった。 []
  3. 訳注:アメリカで最も人気があるとされる保守系ラジオのパーソナリティ。 []
  4. 訳注:2013年に上院に提出された『国境安全、経済機会、および移民近代化法』のこと。共和党マケイン上院議員を筆頭に超党派の議員8人よって上院に提出されたため『ギャング・オブ・エイト法案』とも呼ばれている。国境警備の強化等と引き換えに、不法滞在の移民の永住権確保や、若年層移民への永住権の付与、移民の家族呼び寄せの迅速化等への道を開く法案。本法案は反対も多く、上院通過後に審議中となっている。 []
  5. 訳注:グループシンクとそのままカタカナ表記されることもある、集団による討議等で不合理な意思決定が行われることを意味する用語。 []

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