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世界銀行eMBeDチーム「誰もが誤りを犯す:2017年ノーベル経済学賞を開発事業に生かす」

eMBeD “Everyone misbehaves: Putting the 2017 Economics Nobel Prize to work for developmentblogs.worldbank.org, 10 october, 2017


2017年のノーベル経済学賞がリチャード・セイラーの経済理論への心理学の導入という革新的業績に対して授与されたというニュースは,シカゴ大教授であるセイラーや「実践 行動経済学 健康,富,幸福への聡明な選択(原題:Nudge)」の共著者にとっての勝利に留まらず,行動経済学の知見を用いた世界中の政策にとっての勝利でもある。

ダニエル・カーネマンの(アモス・トベルスキーとの)判断と意思決定に関する研究は,彼に2002年のノーベル賞をもたらした。2002年のノーベル賞が行動経済学に対するもの,あるいは経済理論および研究における心理学の利用に対するものであるとするならば,今年2017年の賞は行動公共政策に対するものと言えるかもしれない。セイラーの主要な研究はトベルスキーとカーネマンの研究の拡張だが,特筆すべきことはこの研究を政策決定にまで拡張したことだ。セイラーのおかげで,行動経済学はすべての人々にとって便利なものになった。とある人が書いたように,「今や我々はみな行動経済学者だ。」

セイラーの影は政策決定のあらゆる階層に見て取れる。イギリス,カナダ,アメリカ,オランダ,イスラエルやほかのどこでも政府は「ナッジ」部門を擁して行動経済学の知見を用いた政策を試している。世界銀行では,セイラーの研究は心・行動・開発部門(eMBeD)の基盤となった。eMBeDは,世界銀行の各部門,外部パートナー,政府と協力しつつ,人間の行動は体系だった形で合理性からかい離するというこの革命的な考えを用い,現実の人間の行動に目を向けて政策的解決の診断・設計・評価を再構成することで真に効果的な開発政策の創造している。

世界銀行は昔から政策設計への心理学の導入を提唱してきた。2015年の「世界開発報告:心・社会・行動」が強調しているように,開発途上国の政策決定者にとって行動の科学はツールボックスの中の決定的に重要な要素だ。eMBeDでは,開発政策の中でももっとも厄介な問題を解決するときには行動の科学のレンズを通して物を見ることにしている。この行動公共政策の発展途上の分野では,意思決定と行動における背景の重要さを強調する。つまり,行動経済学の知見を用いた診断では,意思決定に影響を与える社会・心理・経済要因に注意を払いつつ,幅広い範囲の行動決定要因に目を向けることで次のようなことができる。

・従来の政策設計では見過ごされることの多いものの,特に低所得という文脈において開発政策や開発事業の効果に劇的な影響を与える官僚制度,技術,サービス提供の細部に注目する。
・すべての個人に影響する意思決定の罠やバイアスを政策決定者自身が避けることに資する。
・相互に影響する政策的課題に革新的な解決を提供する。多くの場合低コストで。

その発足以降,eMBeDは教育,金融,保健をはじめとする多くの分野での成果を向上させるため,50以上の国で行動経済学の知見を用いた事業を実施してきている。私たちは難民の社会統合や気候変動といった大きな政策分野でも活動を行っているし,ミクロなレベルでも行っている。トルコでの若者の就業率を改善するための目標設定の利用に始まり,インドネシアでの母乳育児率の向上やカメルーンにおける長期作用型可逆的避妊利用の拡大のための情報提供の開始に至るまで,eMBeDの各事業は,行動経済学の知見を用いた政策を通じて多くの場合には脆弱な個人の生活に具体的な改善を起こすことを目指している。

ペルーでは,eMBeDは中等学校生に対して知性とは伸ばすことのできるものだということを見せることで,彼らの信念と認識を再構築した。この介入は,学生一人あたり0.20ドル未満で250,000人に及ぶ生徒のテスト結果を劇的に改善した。そしてグァテマラでは,国内すべての公立学校に通っているすべての学生に向けた教育介入策が行われている。ポーランドでは,行動経済学の知見を用いた手紙を使って納税率を上昇させる実験により,納税率は最大で20.8%も上昇した。最大の効果を発揮した手紙が今回の実験の対象となった納税者全員に送られていたとしたら,ポーランド税務局の税収は56%(39,328,742ズウォティ1 )増加していたことになる。

今回のノーベル経済学賞の発表は,eMBeDチームをはじめとする行動の科学を政策に応用しようと働いているすべての人々にとって,政策を設計する際には現実の行動や文脈について考えを向ける必要があるというすでに知っていたことの確認だった。セイラーのおかげで,今や世界中がこれを知ることになった。

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(本エントリは世界銀行のウェブサイト使用条件に従って掲載しています。The World Bank: The World Bank authorizes the use of this material subject to the terms and conditions on its website,http://www.worldbank.org/terms.)

  1. 訳注;約12.2億円 []

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