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贾瑞雪, 下松真之, ダーヴィド・セイム 「中国では誰がトップ政治家になるのか?」(2013年8月20日)

Ruixue Jia, Masayuki Kudamatsu, David Seim, “Who becomes a top politician in China?“, (VOX, 20 August 2013)


経済と政治におけるパワーとは裏腹に、中国における指導者選出過程の詳しい実態は謎に包まれている。中国指導者の選出過程に関する新たな研究を提示する本稿では、中国共産党が (独裁政権につきものの) 忠誠的だが能力の無い指導者の選出を – 職務転換 (job rotation) および昇進の党内システムをとおして – 回避してきたことを示唆する。これまで同システムは、公務就任者のペアが共に働くことをとおして信頼構築を行うことを助け、これによりトップ政治家が信用できる部下のあいだから最も有能な人物を抜擢できるようにしてきたのである。

2012年11月、中国では新たな国家政治指導部が中国共産党中央委員会総書記・習近平のもと職務に就任した。ところで同年のそれにさきだつ時期には、来る新政権指導部の候補者として有望視されていた薄熙来が、党から除名されている。

民主的選挙が存在しない環境で中国政治家が辿ったかくも異なる運命。これをいかに説明すべきか? 人口最多国であり、国際政治においてもいよいよ影響力を増す中国だが、それにもかかわらず、彼の国のトップ政治家が候補者のプールからいかなる過程をへて選出されているのかについて、我々はほとんど知るところがない。過去数十年間の目を見張る経済パフォーマンスは、この問題の重要性をいや増すばかりである。これまでのところ中国では、経済成長を触発するような人物、あるいは少なくとも中国経済の発展の妨げとはならない人物が統治者として選ばれてきたが、同国の非民主的政治システムはどのような形でそうした選出を行ってきたのだろうか?

中国における政治家選出を取り上げたこれまでのアカデミックな研究は2つの陣営に分かれる。一方では、Li and Zhou (2005) などの学者が中国の省指導者 – 北京で将来トップ政治職に就く可能性のある候補者のプール – の昇進の決定因子を精査したうえで、省の経済成長が省指導者の昇進チャンスとポジティブに結び付いていることを明らかにしている。こうした実証成果の示唆するところでは、中国におけるトップ政治家の選出は、能力主義に基づいているのである。他方、Shih et al. (2012) はこの能力主義説への反証を提示しつつ、公務就任者のなかでも、トップ指導者とのコネクションがある者ほど中国共産党の階層組織においてより高い序列を与えられていることを明らかにし、縁故主義が選出過程で鍵を握る決定因子の1つである旨を示している。

新研究: 社会的コネクションと申し分なき経歴

われわれの最近の研究 (Jia et al 2013) はこれら2つの対立する見解の仲立ちを試みるものである。中国政治家の経歴データを1993-2009年にかけての経済統計値と併せて分析した結果、中国のトップ政治家となっているのは、1つ前の世代のトップ政治家と社会的コネクションがあり、かつ、比較的序列の低い政治職を担当していた時の業績が卓越していた人物であることが判明した。

現職トップ指導者との社会的コネクションのみでは、政治家として十分な業績がないかぎり、輝かしい将来は保証されない。トップ政治家層とのコネクションがなければ、政治の仕事で卓越していてもそれだけで彼らの一員として迎えられるかは定かでない。換言すれば、社会的コネクションと業績は、中国における政治的昇進の決定因子として補完的 (complementary) に働いているのである。

本研究では中国政治家のあいだの社会的コネクションを測定するにあたり、公にされているCVを用いている。ある政治家のペアが、かつて中国政府または中国共産党の同じ部門で同じ時期に一緒に働いていたばあい、このペアをコネクション有りとしてコード化した。よく知られた話だが、二人の前総書記・江沢民と胡錦涛はともに、ひとたび中国の指導者と成り果せるやそれぞれ自らの以前の同僚達を昇進させている。事実、我々のデータでもこれらコネクションが把捉されている: すなわち、上海市政府で形成された江沢民のコネクション、中国共産主義青年団 (Communist Youth League) で形成された胡錦涛のコネクションである。こうしたデータを用いて、各政治家につき中国共産党中央政治局常務委員会 (Politburo Standing Committee) メンバーのいずれかとコネクションが有るか無いかを測定した。なお同委員会は中国共産党における最高意思決定機関にあたり、中国のトップ政治家職への昇進を管轄する。

政治家の業績を測定するにあたっては、関連文献に倣い、中国31省 (31 provinces of China) の政治的指導者にフォーカスを絞っている (ここでいう省には、チベットなど5つの自治区、および上海など4つの市もふくまれる)。これら政治家については、かれらが担当する省の経済成長をもってその業績とすることができる。過去二十年間にわたる北京のトップ政治家は、その多くが省政府の運営を担った経験を持っている。事実、習近平は福建省と浙江省で、胡錦涛は貴州省とチベット自治区で、江沢民は上海市で、それぞれかつて指導者を務めている。中国における単独与党としての中国共産党の正当性がひとえに経済成長の達成に掛かっている点に鑑みれば、省のGDP成長こそが多々あるなかでも省指導者の業績の指標として最も重要になってくるのも想像に難くない。

そこで我々は、1993-2009年期間を対象に、社会的コネクションと省の経済成長が省指導者の昇進とどう結び付いているのかを分析することにした。図1に示すのが本研究の鍵たる発見である。横軸は、各省に内在的な差異 (例: 沿岸省では誰が運営にあたるばあいでも成長が比較的早い) および各年に内在的な差異 (例: 1997年のアジア金融危機以降は経済成長が国全体で減速した) を考慮したのちの、相対的な経済成長業績を表示している。数字の1は三分位の最下位、2は中間、3は最高位をさす。各グループにつき昇進率をプロットしたが、こちらも各省と各年度の差異の条件下での値である。右の縦軸にある0は、該当昇進率が平均値であることを意味する。実線は中国共産党中央政治局常務委員会とのコネクションの有る省指導者の昇進率を表示している; 点線はそうしたコネクションの無い者である。

図 1. 中国の省指導者の昇進にかかるコネクションと業績の補完性

コネクションが有る者と無い者の差は業績で三分位トップに属す者のあいだでは極めて鮮やかである。現職トップ指導者とのコネクションが無いばあい、このグループに属する者でも昇進チャンスは経済成長業績で劣る者とほぼ同等になる。しかしコネクションが有る者のあいだでは、このグループに属する者が北京のトップ政治職に昇進する可能性は、業績で下位2グループに属する者を相当に上回っている。図が示すように、コネクションが有って業績トップ三分位に属する者の昇進率は、それ以外の者よりも約9%ポイント高い。平均昇進率がおよそ7%ポイントなので、この差はかなり大きい。

コネクションの有る省指導者は成長の著しい省に割り当てられているのではないか、あるいはそう疑われる方もいるかもしれない。図1の棒グラフは、省指導者であってコネクションが有る者の度数分布を示すものだが、これら人物は3つの成長カテゴリに分かれる (左の縦軸は、コネクションの無い者をふくむ全ての省指導者にたいする比率を表示)。図が表すところでは、コネクションが有ることは必ずしも高い経済成長を含意していない。たしかに省指導者は、コネクションの有る者も無い者も、観測可能な特性につき幾つもの側面で異なる。だがしかし、こうした差異では、図1に観察される相関パターンが説明されない。最も重要な点だが、過去および未来の中国共産党中央政治局常務委員会メンバーとコネクションが有る者についても、同委員会現職メンバーがかつて働いていた政府部門で自らも働いていたがその時期が異なる者とのコネクションが有る者についても、同様の昇進パターンは見られない。こうしたコネクションではなく、意思決定権力を現在持っている人物と共に働いたことがある事実、これこそが違いを生むのである。

図1の考え得るもう1つの説明は、省の経済成長自体が実質的なコネクションを表すものなのだというものである。我々の研究では、省指導者がかつて中国共産党中央政治局常務委員会メンバーと共に働いたことがあるか、この点しか観察していない。だが、共に働いたことは必ずしも関係の良さを含意しない。実際にコネクションの有る者だけは昇進を約束されているのだが、そのことを粉飾するためこうした人達は中央政府から省経済推進の支援を受けている、というのが実態なのかもしれない。しかしながら、こと観測可能なコネクション強度 (共に働いた年の数、年齢の差) に関するかぎり、実証データはこの可能性を支持しない。つまり、コネクションの有る政治家が統治する省の経済成長は、こうしたコネクション強度の尺度によって然程異ならないのである。

残る問題は、中国でのトップ政治家選出においてコネクションと業績の補完性が見られる理由である。我々の主張では、これはコネクションがトップ政治家にたいする部下の忠誠を醸成する役割を果たしているためだ。中央政府を効率的に運営するため、北京のトップ政治家は、業績によって才覚が証明されている人物を昇進させることを好むだろう。他方でトップ政治家に好ましいのは、自らの政治生命の危険とならない人物でもあるはずだ。社会的コネクションはこの後者を確保するものかもしれない。かくして、コネクションが有る者のあいだに限っては、業績が昇進アウトカムを予告するのである。コネクションと業績の補完性は、省指導者であって、コネクションの有る中国共産党中央政治局常務委員会メンバーが自らよりかなり年長である者について、相対的に強くなっている。1990年代以降、中国は10年毎に最高政治指導部の世代刷新を経験している (最後の刷新は2012年)。同世代の政治家は中国におけるより高位の職を獲得すべく競争関係にあるが、異なる世代の公務就任者のあいだにはそうした関係がない。そこからの帰結として、省指導者がコネクションの有るトップ指導者のなかでもより年長の者にたいしより多くの忠誠を表すというのは、ありそうなことである。

コネクション

非民主主義国の統治者は、高官に就くべき公務就任者を選出する際、しばしば有能性と忠誠心のトレードオフに直面する (Egorov and Sonin 2011)。有能な政治家では現職指導者の権力が危うくなると見込まれるならば、忠誠的だが無能な公務就任者のほうが好まれることとなり、結果として独裁政権下においても統治の質は落ちる。本研究が示唆するのは、まさに中国がこのような罠を回避するのに用いてきた方法なのかもしれない。中国共産党内部の職務転換と昇進のシステムは、公務就任者のペアが共に働くことをとおして信頼醸成を行うことを助け、これによりトップ政治家がこうしたコネクションの有り、信用できる部下のプールから、最も有能な人物を選び出すことを可能にしているのだ。

参考文献

Egorov, Georgy, and Konstantin Sonin (2011), “Dictators and Their Viziers: Endogenizing the Loyalty–competence Trade-off”, Journal of the European Economic Association 9(5), 903-930.

Jia, Ruixue, Masayuki Kudamatsu and David Seim (2013), “Complementary Roles of Connections and Performance in the Political Selection in China”, CEPR Discussion Paper, no 9523.

Li, Hongbin, and Li-An Zhou (2005), “Political Turnover and Economic Performance: the Incentive Role of Personnel Control in China”, Journal of Public Economics 89(9-10), 1743-1762.

Shih, Victor, Christoper Adolph and Mingxing Liu (2012), “Getting Ahead in the Communist Party: Explaining the Advancement of Central Committee Members in China”, American Political Science Review 106, 166-187.

 

 


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