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Archives for 3月 2014

ポール・クルーグマン「小心の罠:半端は駄目だ」

Paul Krugman, “The Timidity Trap“, New York times, March 20, 2014.


小心の罠:半端は駄目だ

by ポール・クルーグマン

いまこの瞬間に進行中の大きな経済危機はなさそうに見えるし,あちこちの政策担当者たちはお互い健闘を称えあっている.たとえばヨーロッパでは,政策担当者たちはスペインの景気回復について誇らしげに語っている:スペインはいままでの予想の少なくとも2倍もの速さで成長しはじめている様子だ.
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タイラー・コーエン 「『レントシーキング』の内容をうまく言い表す外国語の単語とは?」

●Tyler Cowen, “More specific foreign words for “rent-seeking””(Marginal Revolution, October 1, 2005)


他人から富を奪い取ること(他人からの富の移転)を目的として(時間や労力、金銭等の)資源を投下する活動を指して経済学では「レントシーキング」(“rent-seeking”)と呼んでいるが、果たしてそのように表現していいものだろうかとためらいを感じたことはないだろうか? マーシャル(Alfred Marshall)のことはひとまず忘れて、「レント」というのはアパートの大家に支払う家賃のことを指しているのではなかったか? 「レントシーキング」と「プロフィットシーキング」(profit-seeking;利潤追求)の違いをごまかすことなくきっちりと定義することはできるだろうか?

「レントシーキング」の内容を単語一つでうまく言い表わせないものだろうか?と思い悩んでいると、このような外国で使われているヘンな言葉のリストに出くわした。いくつか抜き出してみよう。

*グリラージン(Grilagem);ポルトガル語(ブラジルポルトガル語)

不動産登記証書を偽造して不法に土地を取得する行為。文書の偽造にあたってコオロギが利用されることからこの名が付いた1。偽造した文書を生きたコオロギと一緒に引き出しの中にしまっておき、コオロギの汚物でその文書を古めかしい書類に見せかけるのである。

*ダナ(Dhurna);ヒンディー語

玄関の前に座り込んで断食を行ったり暴力で脅したりして金品をゆする行為。

*総会屋(Sokaiya);日本語

株式会社の株式を若干数だけ保有し、株主総会に乗り込んで騒動を起こすぞと脅すことで会社等に金品の支払いを要求する人達。

今後授業で「レントシーキング」に触れる機会があれば、ついでに「総会屋」についても言及すればいいだろう。

  1.  訳注;コオロギはポルトガル語では「グリロ」(grilo) []

ディートン&ストーン「子供をもつことは幸せなのか」

Angus Deaton, Arthur Stone “What good are children?“(VOX, 4 March 2014)

子供をもっている人たちはもっていない人よりも満足度が低いということは、数々の研究が明らかにしてきた。そうした実証分析はなにか間違っているのだろうか。それとも幸福の計測は信頼性に欠けるのだろうか。本稿ではこうした結果は正しいとはしつつも、親と親でない人たちの厚生を比較することは、子供を作るかどうかの判断をしようとしている人たちにとっては何の意味もないことであると主張する。


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ポール・クルーグマン「あわれな億万長者どの,尊大な思想とやらに犠牲者気分」

Paul Krugman, “Poor Billionaires, Victimized by Highfalutin Ideas,” Krugman & Co., March 28, 2014. [“High Fallutin’ Nazis,” The Conscience of a Liberal, March 18, 2014]


あわれな億万長者,尊大な思想とやらに犠牲者気分

by ポール・クルーグマン

MEDI/The New York Times Syndicate

MEDI/The New York Times Syndicate

さあ,また一人ご登場ですぞ.格差について語るヤツはどいつもこいつもナチだと思ってる億万長者どのがまた現れた.今回は,ホーム・デポの共同創業者ケン・ランゴンだ.これについて,ぼくはとくに有用なことは言えない.言えることは,こういう連中はいっぱいいるにちがいないって所見くらいだ.
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アレックス・タバロック 「日本のフィリップスカーブに目を凝らすとそこに表れてくるのは・・・」

●Alex Tabarrok, “Rorschach Economics”(Marginal Revolution, November 1, 2007)


クイーンズ大学のグレゴール・スミス(Gregor Smith)が驚くべき新事実を発見した。日本のフィリップスカーブが日本列島にそっくりな形をしている(pdf)というのだ1。このような結果は日本だけにあてはまる話ではなく、もっと広範に観察できる現象なのかもしれないと語るのはEclectEconブログを運営しているジョン・パーマー(John Palmer)だ。パーマーが明らかにしているところでは、カナダのフィリップスカーブはカナダの地形にそっくりだという

jpcurve

はっきり言って2人とも馬鹿げている。なぜならスミスにしてもパーマーにしてもマーシャル流のマクロ経済学(Marshallian macroeconomics)に対する無理解が甚だしいからだ。フィリップスカーブはこの国のような形をしていることくらい常識なはずだろう2

  1. 訳注;1980年1月から2005年8月までの月次データを元にして作成されたフィリップスカーブ。横軸の失業率の測り方が通常とは異なる点に注意。ちなみに、この論文は2008年に経済学の専門ジャーナルであるJournal of Money, Credit and Bankingに掲載されるに至っている。 []
  2. 訳注;「この国」というのはマーシャル諸島共和国。経済学者のアルフレッド・マーシャルの名前とかけているものと思われる。なお、各島はてんでばらばらに散らばっているが、マーシャル諸島に属する各島の配置と同様に失業率とインフレ率との間には(少なくとも長期的には)明確な関係性は見出せないということも言いたいのだろう。 []

メンジー・チン「最低賃金引き上げのマクロ経済的な意味/信念と計量経済学:最低賃金の巻」

最低賃金引き上げのマクロ経済的な意味

Menzie Chinn “Some Macro Implications of a Minimum Wage Hike“(Econbrowser, March 27, 2014)

(訳者補足:この議論に馴染みがない方(最賃を上げると何故雇用が減ったり、それを相殺する効果が出たりするのかなど)は、過去のこのエントリなどを参照されると今回のエントリを理解しやすいかと思います。)

ほんの僅かな雇用数も影響を及ぼすし、ほんの僅かなインフレも影響を及ぼす。しかし、労働者への所得分配の比率を高めることに対する抵抗は今後も続くだろうと私は確信している。

次の表は、雇用効果の議論に関する研究の概説であるゴールドマン・サックスの「最低賃金引き上げで何が起こるか?(What to Expect from a Minimum Wage Hike)」(3月25日付、ネット上では未公開)からの引用だ。

GS_Summary_MinWage_mar14
出典:マイケル・カヒル&デヴィッド・メリクル「最低賃金引き上げで何が起こるか?(What to Expect from a Minimum Wage Hike)」,GS Daily (3/25/2014)

ここのエントリで議論した)議会予算局(CBO)や経済諮問委員会(CEA)による文献の要旨をなぞりつつ、ほとんどの推計はそれが統計的に有意である場合においても雇用に対する影響は小さいとしている。また、CBOによる評価においては推計値の分布は雇用に対するプラスの効果内でちらばっていたことを再度思い起こしておくのも重要だ(なぜ短期においてこうしたことが起こり得る理由についての簡単な分析はこのエントリを参照。ただし分析が苦手な人には非推奨。)。CBOの中間推計に関して、このゴールドマン・サックスの報告書の著者らは次のように述べている。 [Read more…]

ポール・クルーグマン「証拠は無視してインフレを待ちながら」

Paul Krugman, “Ignoring the Evidence, And Waiting for Inflation,” Krugman & Co., March 28, 2014. [“Charge of the Right Brigade,” The Conscience of a Liberal, March 16, 2014]


証拠は無視してインフレを待ちながら

by ポール・クルーグマン

Samuel Aranda/The New York Times Syndicate

Samuel Aranda/The New York Times Syndicate

我が右翼に砲弾[カノン]炸裂,我が左翼に砲弾炸裂――やっぱなしなし.「砲弾[カノン]はみんな右翼に炸裂」っと.
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アレックス・タバロック 「ジーノエコノミクス ~(行動)遺伝学と経済学の融合に向けた試み~」

●Alex Tabarrok, “Genoeconomics”(Marginal Revolution, May 14, 2012)


ボストン・グローブ紙で興味深い話題が紹介されている(“In search of the money gene”)。テーマとなっているのは「ジーノエコノミクス」(genoeconomics;ゲノム経済学、遺伝子経済学)だ。

「ジーノエコノミクス」(genoeconomics)という言葉が生み出されたのは2007年のことだが、遡ること30年ほど前にその先駆けと呼べるような研究がチラッとその姿を垣間見せたことがある。ペンシルバニア大学に勤めていた故ポール・タウブマン(Paul Taubman)が1976年に公表した一卵性双生児の所得状況に関する論文1がそれだが、一卵性双生児の成年後の所得を比較したところ、お互いが得ている所得の水準が驚くほど似通っていることがわかったのである。そしてタウブマンは次のようなギョッとさせられる結論をもって論文を締め括ったのであった。稼得所得の分散の18~41%は遺伝的要因によって説明可能である、と。

この結論を耳にした当時の経済学者たちはどうリアクションしていいものか考えあぐねた。「政府が福祉サービスを提供するのはもうやめにした方がいい。タウブマンの発見はそういったことを意味しているのかもしれない」と冗談めかして語る者もいたようである。タウブマンの発見が仮に正しいようであれば、どんな対策を講じたところで貧しい状態から抜け出せない人々が少なからず存在することが示唆されるからというわけである。

・・・タウブマンの論文が発表されて以降しばらくの間は、遺伝子が人々の意思決定において重要な役割を果たすかもしれないというアイデアは経済学の世界においてはすっかり影を潜める状態が続くことになった。しかしながら、(ヒトゲノムの塩基配列の解析を目的とする)ヒトゲノム計画(Human Genome Project)を通じて2000年にドラフト配列の解読が終了したことをきっかけとしてそのような情勢に変化が見られることになる。ゲノムの解読結果を利用することで遺伝的要因の役割に関する(タウブマンの研究を筆頭とした)これまでの大雑把な推計結果よりもずっと精緻で信頼性のある結果が得られるようになるかもしれず、さらには遺伝子と行動との間の具体的なつながり(ある特定の行動に影響を及ぼしている遺伝子はどれか)が掴めるようになるかもしれないとの思いが多くの人々の頭をよぎり始めるようになったのである。

・・・次第に研究者の間では次のような事実と折り合いをつけようとする方向に意見が集約されつつある。その事実というのは、遺伝の影響が最も大きいと言われる身長のような属性(特徴)であってもそこにはわずか1つや2つの特定の遺伝子だけが関わっているわけではなく、何百通りもの-場合によっては何千通りもの-遺伝子の組み合わせが関わっているということ、そして遺伝子がどのように発現するかは育児環境をはじめとした環境的な要因から複雑な影響を受けるということである。レイブソンは次のように語っている。「どの方向を見ても当初予想されていたほどには見込みがありそうにはない2のが現状です。」

・・・データを収集するための新しいアプローチに希望が託されている。世界中の遺伝子研究の専門家の協力の下、何千、何百万もの人々の遺伝情報をもとにして何らかのパターンを見出そうとする試みがつい最近になって始められたばかりである。

この記事で名前が挙がっている「ジーノエコノミクス」の研究者たち-ダニエル・ベンジャミン(Daniel Benjamin)やデビッド・レイブソン(David Laibson)、デビッド・チェザリーニ(David Cesarini)ら-は、人々の属性や行動の源泉を遺伝子に求める可能性について幾ばくかの懸念を抱いているようである3。しかしながら、重大なニュースの大半は既に明らかになっており、その影響4は遺伝子型(genotype)においてよりも表現型(phenotype)において一層容易に見出せるということだ。

もっと詳しい内容を知りたければ彼らの論文(“The genetic architecture of economic and political preferences”)を参照されるとよいだろう。

  1. 訳注;Paul Taubman, “The Determinants of Earnings: Genetics, Family, and Other Environments: A Study of White Male Twins(JSTOR)”(The American Economic Review, Vol. 66, No. 5 (Dec., 1976), pp. 858-870) []
  2. 訳注;期待していたほどの研究成果が得られそうにはないという意味。 []
  3. 訳注;遺伝子と人々の行動(や属性)との間にそれなりにはっきりとしたつながりを見出すことがそもそもできるのかどうかわからないという意味で懸念を抱いているとともに、仮にそのようなつながりが見出せた場合にその知識が好ましくないかたちで利用されるようになるかもしれない(新たに人を雇う場合や銀行ローンや保険の審査などにあたって遺伝子情報が利用されたりするなど)と懸念を抱いているという意味。 []
  4. 訳注;遺伝子が行動や属性に及ぼす影響 []

タイラー・コーエン 「歯切れの悪いフリードマン ~「運」の役割はいかほど?~」

●Tyler Cowen, “Does Milton Friedman believe in free will?”(Marginal Revolution, September 29, 2003)


ミルトン・フリードマン(Milton Friedman)がつい最近のインタビュー1で次のように語っている。

「私たちはある意味では決定論者だと言えますが、かといって運命に翻弄されてばかりというわけでもありません2。しかしながら、自由意志論の正しさを申し分ないかたちで示すことはできるでしょうか? おそらくできないでしょう。」
(“In a sense we are determinists and in another sense we can’t let ourselves be. But you can’t really justify free will.”)

個人的にかねてより感じていることなのだが、このインタビューで論点となっているような(「運」の役割を巡る)話題3は成果に応じて報酬を決める市場というメカニズムに対して大きな挑戦を投げ掛けるものだと言えるだろう。仮に人々が自らの手で生み出した価値を受け取るに「値しない」ということになれば4、倫理的な観点から再分配政策に反対することは難しくなることだろう。

いつもは歯切れのよいフリードマンも「運」(luck)の役割については煮え切らない様子だ。

「妻と私のこれまでの人生を振り返った回顧録を数年前に出版したのですが、その本のタイトルはTwo Lucky People(『幸運な二人』)となっています。「運」という問題については何かしらの対処が必要だという意見があるかもしれません。平等主義(egalitarianism)を是とする議論も結局のところは運の問題を放置していてはいけないというところからきています。例えば次のような話が語られることがあります。『生まれつき目が見えない人は本人に何かしらの落ち度があってそうなったのだろうか? そんなわけはない。目が見えないのは偶然(運)以外の何物でもない。それなのにどうして苦しまないといけないのか?』。もっともな意見であり、その感情もよくわかります。」

それでは「運」は公共政策に対してどのような意味合いを持っているのだろうか?

「それは非常に難しい質問ですね。」と語ったフリードマンは運のおかげという判断がどれだけ正しいと言えるのか疑問だと続ける。「おそらく同意していただけると思いますが、たまたま運が良かっただけだと思っていても実はそうではないという場合があるでしょう。実際のところは能力が優れていたり一生懸命努力した結果として高い報酬を得ていたとしても周囲から妬まれて「運のいい奴」(lucky bastard)との評価を下されるというわけです。成果の違いのすべてが運によるものだとは私は思いません。」

  1. 訳注;「つい最近」とは言っても2003年時のもの。 []
  2. 訳注;「かといって運命に翻弄されてばかりというわけでもありません」という訳はあまり自信がない。全体的な文の流れからして自由意志論に肯定的な意見を述べているのではないかと考えてこのように訳した。 []
  3. 訳注;この点についてのフリードマンの見解はこのエントリーの最後で引用されている。 []
  4. 訳注;(通常の意味での運(幸運、不運)だけではなく、家庭環境や生まれつきの才能など本人の力ではどうすることもできない要因も含めた)「運」がその後の人生における成功・失敗を決める上で大きな役割を果たすとすれば、という意味 []

タイラー・コーエン 「休暇中にこんな本を手に取ってみてはいかが? ~マンキューの推薦図書10冊~」

●Tyler Cowen, “Greg Mankiw’s summer reading list”(Marginal Revolution, May 11, 2006)


マンキュー(Greg Mankiw)が夏休みを迎える学生達に向けて休暇中にこんな本を読んでみたらどうかと推薦図書のリストを作成している。

大変優れた選択だと思う。私の個人的なお薦めを付け加えると、グローバリゼーションについて学ぶにはマーティン・ウルフ(Martin Wolf)のWhy Globalization Works(未邦訳)、そして経済発展の問題についてはジョン・ケイ(John Kay)のCulture and Prosperity(邦訳『市場の真実-「見えざる手」の謎を解く』)なんてどうだろうか? そして中国経済に関しては・・・・何かお薦めはあるだろうか? 経済史についてはロバート・フォーゲル(Robert Fogel)のThe Escape from Hunger and Premature Death, 1700-2100(未邦訳)がお薦めだ。

(追記)アーノルド・クリング(Arnold Kling)もお薦めの本を何冊か挙げている。