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ノア・スミス「グローバル化をめぐるデロング vs. クルーグマンの論争」

[Noah Smith, “DeLong vs. Krugman on globalization,” Noahpinion, April 1, 2018]

今回はよせばいいことをやるつもりだ.ブラッド・デロングと論争してみよう.ただ,今回はそれも吉と出てくれそうでもある.デロング当人も,ポール・クルーグマンと論争するというよせばいいことをやっていて(そしてデロングじしんが言っていた例のルール〔ルール1:「クルーグマンは正しい」;ルール2:「クルーグマンは間違っていると思ったらルール1を参照せよ」〕の少なくとも2つに抵触してしまっていて),今回のポストはそれに対する反応だからだ.
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ノア・スミス「大卒賃金プレミアムはどこから生まれる?: シグナリングなきシグナル」

[Noah Smith, “Sheepskin effects – signals without signaling,” Noahpinion, December 18, 2017]

教育のシグナリング説をとびきり熱狂的に支持している面々のひとりに,ブライアン・カプランがいる.シグナリング説は彼の新著『反教育論』(The Case Against Education) で重要な役どころを担っている.でも,この説にはいくつもの難点があるとぼくはかねがね考えている.それに,教育問題への応用にも問題は多い.先日,『ブルームバーグ・ビュー』に書いた記事では,ブライアンが『アトランティック』に掲載したエッセイへの反論を述べた.このエッセイは,『反教育論』の一部を抜粋したものだ.さて,ブライアンはぼくの文章に反論している.彼はいくつも面白い論点を立てているけれど,ここでは1つの問題だけをとりあげたい――「羊革効果」と,それをどのモデルが支持するのか,という問題だ.〔ここでいう「羊革」(sheepskin) は「大卒」という意味で,「羊の皮をかぶったオオカミ」の比喩とは別物.いちおう,原文にそって「羊革」と訳しておく〕
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ノア・スミス 「ハードマネーと老人支配 ~シルバー民主主義は金融政策の方向性にどのような影響を及ぼすか?~」(2012年10月3日)

●Noah Smith, “Hard money and the gerontocracy”(Noahpinion, October 03, 2012)


ことインフレーションの話になると経済学者と世人との間には大きな隔たりがある。インフレは効率性や経済成長にどのような効果を及ぼすか?1 経済学者は概してそういう側面に注意を向ける傾向にある。「金融緩和は生産量(GDP)の拡大を後押しできるだろうか?」とかいった話だ。一方で、世間の大半の人々はそういう話には見向きもせずに、「インフレだって? 実質賃金が下がっちゃう」とかいう間違いに陥りがちだ(「インフレ」と「実質賃金の低下」とを同一視するというのは馬鹿げているが、世間の99%の人はついそういう間違いをやっちゃうようだ)。その代わり、世間の多くの人々は「インフレの再分配効果」に気を揉みがちなようだ2。インフレの再分配効果はもちろん実在するし、その効果はかなり大きい可能性を秘めているが、経済学者にはよく無視されがちでもある。

インフレで損するのって誰なんだろうか? その答えは「(純)債権者」(保有する資産(債権)残高が債務残高を上回っている純債権者)だ。株式はそれほど持ってないけど、物価連動型ではない通常の債券はたくさん保有している。加えて、賃金が毎年の収入源に占める割合が小さい。インフレで損するのは特にそういう「債権者」だ。それって具体的にはどういう層だろうか? その答えは高齢者だ。

あなたが年配の人物だとしたら「債券はたくさん持つけど株式はあまり持たない」というのは(資産運用の仕方として)賢明な選択だ。株式は債券よりもリスクが大きいし、高齢者は大きなリスクを引き受けるだけの余裕がないからだ(このあたりの事情を資産運用戦略の核に据えているのがいわゆる「ライフサイクル投資戦略(資産運用のライフサイクルモデル)」(”life-cycle investing“)だ)。(高齢者は債券をたくさん持ちがちという点に加えて)さらには、高齢者は蓄えがたくさんあって毎年の収入の多くは資産運用を通じて生み出される。賃金は収入源として大したことない。そんなわけで高齢者は予想外のインフレで損を被る傾向にある一方で、若者は概して(予想外のインフレで)得する傾向にあることになる。 [Read more…]

  1. 訳注;言い換えると、インフレは「パイ全体の大きさ」にどのような効果を及ぼすか?、ということ。 []
  2. 訳注;「インフレの再分配効果」というのは言い換えるとインフレが「パイの分け方」に及ぼす効果のことを指している。 []

ノア・スミス「エアカーも宇宙植民もないけどサイバーパンクは実現した21世紀」

[Noah Smith, “What we didn’t get,” Noahpinion, September 24, 2017]

先日,1980年代と1990年代のサイバーパンク SF がいまの世界について多くのことをいかに正確に予測していたかという話題で Twitter に連投したらけっこう好評だった.現代社会はなにもかもがネットに接続されてつながっているけど,同時に,なにもかもが不平等だ――ギブソンが好んでよく言ってたように,「未来はここにある,ただ均等に分布してないだけだ.」 ハッカー,サイバー戦争,オンライン心理戦は,みんなの政治経済生活でおなじみのものになっている.億万長者たちは宇宙ロケットをつくったり政府に協力して国民監視に手を貸したりしてる.白人労働階級は廃棄コンテナを住居にして有毒な水を飲んで暮らしてる.在野の趣味人たちが身体改造や遺伝子工学に手を染めてる一方で,実験室では人工四肢や脳-コンピュータ・インターフェイスを研究してる.ジェットパックは実現してる.ただしひとつきりだし,持ち主はお金持ちだ.人工知能が株取引をやり碁で人間に勝ったり,耳の聞こえない人が音を聞こえるようになったり,リバタリアンと犯罪者どもが追跡不可能な民間の暗号通貨で世界中で何十億ドルってお金を回してる.『スノウ・クラッシュ』みたいにイカレたミーム・ウイルスがネジのはずれた男を合衆国大統領の座にまで上り詰めさせたり,テキサスでは『ニューロマンサー』のストリート・サムライみたいにカタナをかついで町中を歩き回れる.バーチャルアイドルもいるし,殺人サイボーグスーパーアスリートだっている.
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ノア・スミス「泥壕としての膨大な文献」

[Noah Smith, “Vast literatures as mud moats,” Noahpinion, May 16, 2017]

mud

どういうわけか,学術文献はよく「膨大な」と言われる(このフレーズは1世紀以上もさかのぼる).ただ,どんな話題について語っていようと,どうやらきまって誰かがひょっこりやってきてわざわざこう教えてくれるようだ――「その話題については,すでに「膨大な文献」がありましてね.」 このフレーズは,議論を打ち切る役目を果たしていることが多い.「膨大な文献がありますよ」ということは,ようするに,なにごとかについて語る前に,その話題についていろんな人たちがこれまでに書いてきたとてつもない分量の文章を読んでこなくちゃいけないと要求されているわけだ.膨大な文献を読み通すとなればそれはもう何時間もかかるのだから,この言い分は相当な時間と労力を要求していることになる.その膨大な文献とやらば40本の論文だとしたら,論文1本ごとに1時間かかるとして,ただ議論に参加するだけのコストとして1週間まるまる費やすフルタイムの仕事を要求しているわけだ.
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ノア・スミス「同質性にいざなうセイレーンの歌」(#8/完結)

[Noah Smith, “The siren song of homogeneity,” Noahpinion, April 30, 2017]

〔数回にわけて掲載しています.前回はこちら

白人国家の夢
The dream of a white nation

でも,そんなものをのぞんでいない人たちはどうだろう? オルト右翼や旅行者たちみたいに,べつにアメリカのいろんな人種がひとつにまとまろうと意を決するのを待ち望んでなんかいない人たちは? 多くの人たちは,同質な社会にいたる近道を行きたがっている――彼らが暮らしたいとのぞんでいる場所は,白人だけが住むのをゆるされた場所だ.彼らがのぞんでいるのは,半分記憶・半分空想の社会,1950年代の南カリフォルニアだ――通りは清潔で,きれいな芝生が広がり,信頼できる白人の隣人たちは通りすがりに帽子をかたむけて「やあ」と声をかけてくれる,そんな社会が彼らののぞみだ.そして,なんと,彼らはいまそんな社会になってほしいと思っている.
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ノア・スミス「同質性にいざなうセイレーンの歌」(#7)

[Noah Smith, “The siren song of homogeneity,” Noahpinion, April 30, 2017]

〔数回にわけて掲載しています.前回はこちら

代替理論: 「戦争 + 近接性 = 多様性」

でも,ひっきりなしに戦争が起きてるのはどういうことだろう? 大きな戦争が起きたときには,ほぼ決まって,少なくともそこそこの民族的なちがいが戦争当事者たちに見られる――イギリス vs. フランス,ドイツ vs. ロシア,フツ族 vs. ツチ族,日本 vs. 朝鮮.こうした小さなちがいがこれほどの信じがたい流血沙汰を引き起こしうるのだとしたら,アフリカ人とヨーロッパ人みたいにかけ離れた集団どうしだったらいったいどれほどの大惨事が引き起こされうるだろう!
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ノア・スミス「同質性にいざなうセイレーンの歌」(#6)

[Noah Smith, “The siren song of homogeneity,” Noahpinion, April 30, 2017]

〔数回にわけて掲載しています.前回はこちら

代替理論: 信頼が同質性を生じさせる

再定義や人種間・民族間の婚姻をとおして同質性はうみだせるのだと認識すると,同質性と信頼の相関が現れうる理由について,すぐさま代替理論が思い浮かぶ:信頼が高いところほど,時がたつにつれて同質的になっていくんじゃないか.
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ノア・スミス「同質性にいざなうセイレーンの歌」(#5)

[Noah Smith, “The siren song of homogeneity,” Noahpinion, April 30, 2017]

〔数回にわけて掲載しています.前回はこちら

同質性はどれくらい人種の問題なんだろう?

だが,ここでひとひねりが加わる.それが次の論点につながる.日本人はみんな同じ人種なんだろうか? もしかしたらちがうかも.日本は2つの集団が混合して形成された.縄文人(異例なほど人口密度の高かった狩猟採集民)と弥生人(稲作民)の2つだ.この両者が遺伝的に交わっていることは,いまでも遺伝データにごくはっきりと見てとれる.そして,おそらくはこの結果として,日本人の特徴はかなり幅広い多様性が見てとれる.たとえば,この2人は日本人なんだけど――
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ノア・スミス「同質性にいざなうセイレーンの歌」(#4)

[Noah Smith, “The siren song of homogeneity,” Noahpinion, April 30, 2017]

〔数回にわけて掲載しています.前回はこちら

同質的な社会に暮らしてみたぼくの経験

いつもこのブログを読んでくれてる人なら知ってるとおり,ぼくは日本に暮らしたことがある(合計で3年半くらい).もちろんぼくは日本人じゃないけれど,日本暮らしの経験で,日本の人たちがどんな風に暮らしてどんな風に考えるのかずいぶんわかった.おかげで,間近で見た同質的な社会のいい具体例を少なくとも1つは観察できたわけだ.
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