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フィリップ・ノヴォクメト, トマ・ピケティ, ガブリエル・ザックマン 「ソヴィエトから寡頭制へ: ロシアの格差と財産 1905-2016」(2017年11月9日)

Filip Novokmet, Thomas Piketty, “Gabriel Zucman, From Soviets to oligarchs: Inequality and property in Russia, 1905-2016“, (VOX, 09 November 2017)


 

1990-1991年のソヴィエト連邦崩壊以降、ロシアは経済的にも政治的にも劇的な変貌を遂げた。だが、そこから所得と財産の分配にどのような帰結が生じたかについては十分に実証・解明されていないのが現状である。本稿は、諸般の利用可能なデータ資料を結合し、ロシアにおける所得と財産の集積・分配について、ソヴィエト時代から今日に至るまでの一貫した時系列を提示しようという試みである。

ソヴィエト連邦崩壊以降、ロシアは経済的にも政治的にも劇的な変貌を遂げた。この類まれなる出来事のために、ロシアの事例研究は格差研究アジェンダにおける喫緊の課題のひとつとなっている。ソヴィエトの平等主義的なイデオロギーの破綻、市場経済への 「ビックバン」 的な移行、あるいは所謂 「寡頭制」 の出現といったエピソード (Guriev and Rachinsky 2005) の枚挙に暇ないロシアにおける格差パターンを紐解けば、格差の力学において政治・制度機関・イデオロギーがはたす役割の解明に、新たな展望が開けてくるかもしれないのだ。同時に近年の格差拡大は、収斂論的言説の文脈で、包摂的成長の可能性に目配りをしつつ考察してゆく必要もある。

われわれの最近の論文は、格差の測定と、既存の資料群の結合をとおしロシアにおける格差の軌跡を歴史的・国際比較的な展望に位置付ける手法の説明にフォーカスしたものである (Novokmet et al. 2017)1。結果、公式の格差推定値はロシアにおける所得の局在を大幅に過小評価するものであることが判明した。論文ではさらに、ポスト-ソヴィエト期のロシアにおける私有財産・公有財産・国有財産 (private, public, and national wealth) をとらえた完全なバランスシートとしては初となるものを提示した。ここにはオフショア財産の推定値も含まれている。なお同論文は、諸国間で比較可能な分布統計の作成をめざすより大きなプロジェクトの一部をなす (Alvaredo et al. 2016)。

ロシアにおける私有財産の勃興

1990年から2015年にかけて発生した大変化といえば、もちろん共産主義から資本主義への移行、すなわち公有財産から私有財産への移行だ。1990年、ネットの国有財産は国民所得の400%を僅かに上回っていた。その内訳は、ネットの公有財産が約300% (およそ四分の三)、ネットの私有財産が100%を少し上回る程度 (四分の一) となる。2015年、この比率は基本的に逆転している: ネットの国有財産は国民所得の450%に達し、その内訳は、ネットの私有財産が350%超を占め、公有財産は100%未満となっている (図1)。公有財産の劇的な落ち込みは、1990年から1995年にかけての数年間のうちに起きたもので、続いて所謂 「ショック療法」 とバウチャー方式の民営化が行われた。

図1 1990-2015年のロシアにおける公有財産と私有財産 (国民所得の%で表示)

私有財産の勃興にさいして住宅が担った決定的な役割の発見が、ここでひとつの鍵となる (図2)。私有住宅は、国民所得の50%に満たない1990年当時の水準から出発し、2008-2009年には国民所得の250%に増加、その後2015年になると国民所得の約200%に減少した。この上昇は、住宅私有化による大規模な移転に由来する数量効果、そして不動産価格の上昇が誘発した価格効果、これら双方の結果だった2

だがとりわけ印象的なのは、ロシアの家計が所有する金融資産について記録されている水準が非常に低いものとなっている点である。家計の金融資産は1990-2015年期間をとおし、つねに国民所得の70-80%を下回る水準にあった。それどころか、国民所得の50%に満たないことさえしばしばだった。事実上、ロシア企業の民営化が家計金融資産の有意な長期的上昇にまったくつながらなかったかの如くである。もっとも、最初期に発生した金融資産の減退は想定内のものだった。それはソヴィエト時代の貯蓄が1990年代初頭のハイパーインフレーションにより、文字通り真っさらにされた時期にあたる。またもっと一般的な話として、1990年代のカオス的な貨幣・政治状況のさなかにあっては、市場価値でみた家計金融資産が1990年代の中ごろから後半になるまでずっと相対的に低く留まっていたとしても驚くにはあたらない、との立論も可能だろう。したがって理解が比較的難しいのは、こうした極端に低い価格がその後もしぶとく生き延びたこと、具体的にいえば1998年から2008年にかけてロシア株式市場ブームが発生していたのにもかかわらずそうなったこと、この点なのだ。

この矛盾については、極一部のロシア家計が、オフショア財産、すなわちオフショアセンターにある記録されていない金融資産を、極めて大量に保有している事実によりもっぱら説明される、というのがわれわれの見解である。具体的にいえば、1990-2015年期間のきわめて大きな貿易黒字 – もっぱら石油とガスの輸出が牽引 – と、比較的限られていたネットの対外資産蓄積とのあいだに、大きなギャップが存在するのである。われわれのベンチマーク指標の推定値によると、オフショア財産は1990年から2015年にかけて徐々に増加し、2015年までに国民所得の約75%、すなわちロシア家計のもつ金融資産で記録されているものとほぼ同額を占めるようになる。つまり、富裕なロシア人が国外 – 英国・スイス・キプロス・その他類似のオフショアセンター – に保有する金融資産は、ロシア国内でロシア全人口が保有する金融資産に匹敵するのである。さらにいえば、富裕なロシア人がオフショアに保有する財産は、ネットの外貨準備として公式に示されている値の約3倍にもなる。

図2 ロシアにおける私有財産の上昇 1990-2015 (国民所得の%で表示)

国際的に比較すると、ロシアにおける財産総計の変転は – 中国や旧共産主義国のそれと同じく – 1970-1980年代以降すべての発展国で実証されてきた一般傾向が極端化したケースと見做しうる。こうした一般傾向のなかでも特筆すべきは、やはり国民所得にたいする私有財産の一般的な上昇であり、これに付随した公的所有の凋落である (Piketty and Zucman 2014, Piketty 2014)。ロシアでは、私有財産が国民所得にたいして尋常ならぬ増加をみているが、その比率は2015年時点で 「たったの」 350-400%程度の大きさであり、これは中国や西欧諸国の水準とくらべると目だって小さい (図3を参照)。ロシアの私有財産におけるオフショア財産に関する我々の推定値を組み入れなければ、ギャップはこのうえさらに大きくなるだろう点も強調しておこう。くわえて、ロシアの私有財産の増加は、国有財産 – 私有財産と公有財産の合計 – が国民所得にたいしてほとんど増加していない (1990年の400%から、2015年の450%になった程度) という意味で、ほぼ公有財産のみを対価に購われた (図1)。これと対照的なのが中国の国有財産で、こちらは2015年までに国民所得の700%に達している。

図3 私有財産の上昇: ロシア vs. 中国および富裕国 (私有財産、家計) (国民所得の%で表示)

ロシアにおける所得格差の拡大

われわれは、国民経済計算・サーベイ調査・長者番付・財政データを結合することで、新たな所得分布時系列を構築した。管見の及ぶかぎり、ロシアの国民所得税表を利用しつつ公式のサーベイ調査準拠格差推定値を修正する試みとしては、これが初のものである。結果、サーベイ調査が1990年以降の格差の上昇を大幅に過小評価していることが判明した。われわれのベンチマーク指標にもとづく推定値によれば、トップ10%の所得シェアは、1990-1991年の25%未満から、2015年までに45%超に上昇している。またトップ1%の所得シェアも、同移行開始時における5%未満から、およそ20-25%に上昇した (サーベイ調査の示唆するところではおよそ10%)。次の点もここで指摘しておく価値があるだろう。すなわち、この尋常ならぬ上昇はボトム50%の所得シェアの大規模な暴落と同時に起きていたのである。こちらのシェアは、1990-1991年における全所得の約30%から、1990年中ごろには10%未満に下落、その後徐々に回復し2015年までに約18%となった。

われわれのベンチマーク推定値に従うと、1989-2016年期間を全体として考慮した場合、成人ひとりあたり平均でみた国民所得は41%分増加していたことになる。つまり一年あたり1.3%だ。先ほど言及したように、所得集団の違いによりそれが経験してきた成長も大きく異なる。ボトム50%の所得層ではきわめて小さな成長の恩恵しかなく、あるいは負の成長を被った場合もあるほどだが、ミドル40%には、相対的に慎ましくはあるが正の成長があり、トップ10%ともなるときわめて大きな成長率を享受している (図4を参照)。

図4 パーセンタイルごとにみた1989-2016年のロシアにおける累積実質成長

長期的に見ると、ロシアにおける所得格差の変転は、20世紀をとおし西欧で観察された長期にわたるU字型パターンが極端化したものに見える (図5)。所得格差はツァーリ時代のロシアにおいて大きかったが、その後ソヴィエト期をとおして非常に低い水準に落ち、最後にソヴィエト連邦崩壊をへてふたたび非常に高い水準に舞い戻った。トップの所得シェアはいまや合衆国で観測されている水準に近い (あるいはそれを上回る)。他方、ロシアにおける格差の拡大は中国や東ヨーロッパのその他の旧共産主義国とくらべてもかなり激しかった4。図6には共産主義崩壊後にみられたトップ1%所得シェアを、ポーランド・ハンガリー・チェコ共和国と比較したものだが、ロシアのそれが他国から顕著に分岐していることが見て取れる5。

図5 トップ10%の所得シェア: ロシア vs. 合衆国およびフランス

図6 トップ1%の所得シェア: ロシア vs. 東欧諸国

まとめると、われわれの新たな発見はロシアにおける極端な格差水準、そしてレントに依拠した資源への長期的な集中を浮き彫りにした – これは持続可能な発展・成長を作るのにうってつけの材料ではないだろう。とはいえ、データへのアクセスと金融的透明性の問題でロシアにおける格差の力学を適切に分析することがきわめて難しくなっている点は、ここで強調しておきたい。われわれはもっとも信憑性のある手法を用いつつ、現存する諸般のデータ資料を結合するために出来るかぎりのことをした。しかし利用可能な生データの質はとても十分とはいえない水準に留まっている。本研究は目下進行中のプロジェクトであり、したがって将来より洗練された方法が構想され、より優れたデータ資料が (願わくば) 利用可能となれば、本稿で報告したロシアの時系列データが改良されるだろうことは疑いない。

参考文献

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Guriev, S and A Rachinsky (2005), “The Role of Oligarchs in Russian Capitalism”, Journal of Economic Perspectives, 19(1): 131-150.

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Roland, G (2000), Transition and Economics: Politics, Markets and Firms. Cambridge, MA: MIT Press.

Yemtsov, R (2008), “Housing Privatization and Household Wealth in Transition”, in J B Davies (ed.), Personal Wealth from a Global Perspective, Oxford: Oxford University Press, pp. 312-333.

Zucman, G (2015), The Hidden Wealth of Nations. Chicago: University of Chicago Press

原注

(1) 本方法論はすでに、合衆国 (Saez and Zucman 2016, Piketty et al. 2016)、フランス (Garbinti et al. 2016, 2017)、中国 (Piketty et al. 2017) における実用例がある。

(2) 住宅私有化の分配的効果については Yemtsov 2008を参照。

(3) 年間キャピタルフライトに関する本推定値は、国際収支におけるネットの誤差遺漏、および資本移転アウトフローの合計として算出したものである。そのうえで、年度あたりのキャピタルフライトを、収益率 (rates of return) に関するいくつかの仮定を置きつつ累計した。オフショア財産の重要性一般についてはZucman (2015) を参照。

(4) 社会主義政権期およびその後の移行期における東ヨーロッパの所得格差に関しては、数多くの研究がなされている (例: Atkinson and Micklewright 1992, Milanović 1998, Milanović and Ersado 2010, Flemming and Micklewright 2000など)。

(5) ポスト-共産主義期のロシアと中央ヨーロッパ諸国にみられた分岐的な格差パターンの底にある主因としては、制度的分岐 (たとえば後者の事例においてヨーロッパ連合がはたした 「制度的アンカー」 など) が挙げられることが多い (例: Berglof and Bolton 2002, Roland 2000)。

マーク・ハリソン 「ソヴィエト経済 1917-1991: 在りし日日、亡きあと」(2017年11月7日)

Mark Harrison,  The Soviet economy, 1917-1991: Its life and afterlife,  (VOX, 07 November 2017)


ソヴィエト時代のロシアが特異であったのは、経済成長でも人的開発でもなく、国力形成における経済の使用形態のためだった。1917年ボリシェヴィキ革命の百周年を記念する本稿では、女子教育と児童生存率上昇が多くの市民に機会向上をもたらしたのはたしかだとしても、ソヴィエトロシアは、そこで生まれ、育ち、年老いてゆく者にとって、過酷で不公平な環境であったことを示す。ソヴィエトの経済体制は大量生産 (mass production)・大規模軍 (mass armies) の時代に構想された。その時代はすでに過ぎ去ったが、ソヴィエト経済の思想はいまも脈をとどめている – 古き日への郷愁とナショナリズムに支えられながら。

1980年代、ソヴィエト連邦が 「ロケットで武装したヴォルタ川上流 (Upper Volta with rockets)」 と形容されていたことは有名だ1。しかしこれは現在 「ブルキナ・ファソ」 の名で知られる国の歴史と文化を不当に軽視するものだった。またソヴィエト連邦にたいしてもあまり親切な言い方ではなかった – 国土の大きさと豊かさにおいてブルキナ・ファソとはまさに桁違いであったこの国にたいしては。とはいえ、そこには幾許かの真実もあった: ソヴィエト連邦の軍事能力はその経済規模との比例を逸していたのだ。

図1に示すのは、「一国が、影響力を自ら行使し、また影響力に対抗する目的で有する能力 (the ability of a nation to exercise and resist influence)」 を把捉するために政治学者が考案した標準的な尺度と、諸大国の関係である。この尺度によると、ソヴィエト連邦は1970年代にはすでに世界に冠たる大国と化していたことになる。だがその経済の生産高は合衆国における実質GDPの半分にも届いていなかった。人口規模は同程度であり、それが分布する領土のほうは遥かに広大だったのにもかかわらず。

図1 国力の合成指標でみた、国際システムにおける諸大国 1913-1987 (一部年度のみ)。

出典: The National Material Capabilities (ver. 4.0) のデータセット。Singer et al (1972) に解説。http://www.correlatesofwar.org/ で閲覧可能 (2016年1月7日アクセス)。

原注: 国力の合成指標は、一国が国際システムに占める相対的なウェイトを各時点において捉えた次の6個の尺度を合成したもの: 総人口・都市部人口・鉄鋼生産・エネルギー消費・兵員数・軍事出費。1918年に消滅したオーストリア-ハンガリー帝国はここでは省略している。

 

図2はソヴィエト連邦の一人あたり実質生産量に関する経済アウトカムを比較したものである。いくつかの世界的基準からみて、1913年のロシアにおける経済は平均的なものだった – 合衆国には大きな後れをとるものの、ヴォルタ川上流と比べれば遥かに進んでいる。一世紀ののち、すなわち2008年のグローバル危機が勃発するころはどうかといえば、ロシア経済はここでも平均的な位置にいたのである。

図2  一人あたり実質GDP (1885 – 2008): 合衆国・ロシア/ソヴィエト連邦・世界の比較 (国際ドル・1990年物価)

出典: 合衆国と世界に関するデータはAngus Maddison at http://www.ggdc.net/maddison; ロシア (1913年までのロシア帝国時代、ソ連、つづいて前ソ連諸国) に関するデータはMarkevich and Harrison (2011) から。

 

その間の期間に多くの事件が起きている。まずボリシェヴィキ革命 – 2017年11月7日はその百周年にあたる – が、ヴェネズエラ型の混沌に陥る。その後、経済は回復し、世界平均に復帰、そして数十年間にわたりそれを上回り続けた。しかし今振り返れば、ソヴィエトのシステムがもたらした効果というのが、もっぱら継続的な動員をとおして産出量水準を引き上げるものだったことが分かる。底にある生産性成長率は引き上げられず、ソヴィエト経済がアメリカの諸水準に収束することはいちども無かった。

ソヴィエトにおける軍事力 (power) と生産性とのあいだの不釣合いな関係は、そうした結果を仄めかすものだった。現在われわれは、全ての国が比較優位をもっていると学生に教えている。ソヴィエト経済の比較優位は世界の軍事手段生産にあった。ここに反映されているのは、ボリシェヴィキ革命において、そしてその後の政策施行ならびに制度設定において、指導者の役割をはたし権力を掌握した者達の思想である (Harrison 2017a)。

その出発から、ボリシェヴィキには崇拝と服従の対象たるふたつの経済構造モデルがあった。すなわちドイツとアメリカのモデルである:

  • ドイツモデルは近代的な戦時経済に関するものであり、ヴァルター・ラーテナウとエーリッヒ・ルーデンドルフが1915年と1916年に実施している。この戦時経済では、大規模な戦闘と大量の自己犠牲のために必要となる動員、そして固定価格での日用品配給が行われた。
  • アメリカモデルはヘンリー・フォードが始めフレデリック・ウィンスロー・テイラーが世に知らしめたモデルをさし、中央統制されたヒエラルキー的管理のもと行われる、規格化された日用品の大量生産からなる。

これらふたつのモデルを合わせたものが、西欧諸国の教科書が描き出すところの 「ソヴィエト型経済」 において鍵を握るいくつかの原理を与える。

ソヴィエトの経済制度は1917年から1934年にかけての期間に形成された (Davies 1994)。これら年度において特徴的なのは激しい政治的・社会的紛争、そして市場構造と消費者選択の領域を変化させた幾つかのUターンだ。このUターンは、もしかするとソヴィエト経済の発展にはひとつのみならずほかにも道があったのではないかという考えに、一定の信憑性を与えている。詰まるところ 「種々の共産主義」 は、今日においても死に絶えてはいないのである – 中国をはじめ、キューバそして北朝鮮にいたるまで。

この変化にもかかわらず、1917年以降にもソヴィエトの政策にはいくつかの重要な継続性があった。もっとも明らかなのは、中央集権的な一党独裁であった。独裁者のあいだでは、彼らの自己利益認識を形成する信念と、その利益の増進にかかる最善の方法とが共有されていた。すなわち彼らは世界を本質的に悪意に満ちたものと見做していたのである。そして自らの国は一個の砦であるが、あまたの敵に包囲されたうえ無数のスパイが跋扈しているのだと。そこで彼らは戦争がない時には、戦争の準備に邁進したのである。

この経済体制において彼らは、人員の選別と指令、国家の供給網の保護、情報の流通と検閲をめざし、権威主義的国家としての機能を築き上げた。これは1917年に始まる単線的プロセスであり、いくつかの政策的な揺れを後目に、背後で黙々と進行をつづけた (Harrison 2017b)。

ソヴィエトの支配者は、国境を越えて、近隣諸国を転覆させ、最終的にはそのほとんどに共産主義体制を押し付けた。周辺国を同盟者として確保したのちにも、ソヴィエトの支配者は 「革命の成果の防衛」 との名目を掲げこれらの国々にひとたびならず侵攻した。彼らの対決的行動は、彼らの信念の正しさを裏付けるかのような証拠を絶え間なく生成した。

国内経済体制としては、ソヴィエトの政策は資源の分配を大幅に変化させることで消費を抑制し、金融産業や軍事計画のための資金調達をおこなった。そのひとつの成果が巨大な軍事産業であり、これは軍用品の大量生産にむけた組織構造をもっていた。図3が示唆するように、伝統的な部門では施設の多くが設置されたのは1930年代だった。第二次世界大戦が勃発した時、ソヴィエト連邦は、世界の武器輸出二大国のうちのひとつとして、すでにドイツに並ぶ勢力をもっていた (Davies et al. 準備中)。核兵器・宇宙ミサイル・無線機器といった新たな部門は、この戦争のあいだと後に加わったものである。

図3 ソヴィエトの国防産業 (1917-1987): 部門ごとにみた生産・研究・設計に関する施設数

出典: Dexter and Rodionov (2017).

ソヴィエト国家は個人財産の大半を収用した。また雇用関係からの賃金所得を、それまでのロシアと比べても、その後のロシアと比べても、より公平に分配していたように見える。このことはNovokmet et al. (2017) による新たなデータを示す図4に示唆されている。

しかし所得データは共産主義体制における消費格差に関してはあまり良い基準ではないかもしれない。消費財とサービスの分配は、品不足と特権に特徴づけられていた。ソヴィエトの成人はみな一定額の所得をあてにできたが、所得は財とサービスへのアクセスを決定するものではなかったのである – それは政治的・社会的地位に掛かっていた。

ソヴィエトの商店の前に立ち並ぶ人々の列はかつてよく目にした映像だが、ここに描き出されているのは、金はあるのに特権がないため – あるいは待たずに済ますのに必要なコネがないため – 自分の番がくるまで待たなければ金を使うことが出来ない人々の姿だ。

図4 所得シェア 1905 – 2016 (一部年度のみ): 下から50%および下から90%

出典: Novokmet et al. (2017).

注意しておきたいのは、ソヴィエト時代には、成人に配分されていない所得のシェアがそれ以前と比べても、それ以後と比べても、遥かに大きかった点だ。なお個人所得データはもっぱら労働賃金の配分に基づき、ほとんどの郊外世帯は除外されている。

ソヴィエト体制のもと、数百万人もの生活が、周期的な飢饉、大量粛清の数々、そして社会の隅々にまでゆきわたった間断なき抑圧のために、損なわれ、あるいは失われた。他方、これと同じシステムのもとで、これとは別の数百万人の生活は高進した。その受益者は人口学的区分を用いればもっとも容易に特定できる。

恩恵があったひとつの集団は、若年層の女性だった。国力の増進をめざしたボリシェヴィキは、潜在的資源として女性に目を付けたが、識字能力と教育の欠如が足枷となっていた。大衆教育は、女性の前に事務労働の世界を開いた。そして彼女らを田畑や工場での労苦から解放し、他人に誇れる生活を営むことを可能にした。

例えば、1970年までに、政府行政および企業運営における全被用者の60%超を女性が占めるようになった (TsSU 1973: 348, 445)。もっとも、キャリアを通じて女性は職業上の住み分け (job segregation) と直面し続けた。ガラスの天井、そして賃金労働と家庭内労働の 「ダブルシフト」 である。それでもなお、女性の生活の変化は目を見張るものだった。

ふたつめの受益者集団は児童である。革命以前には、6人に1人の児童が5歳になる前に命を落とした。ソヴィエト支配初期における動乱の数年でさらに悪化したが、その後この比率は劇的な向上をむかえる。その主因となったのは、公共衛生施策、感染管理、そして分娩ならびに外科手術における殺菌消毒といった、単純だが強力な諸施策だった。

図5が示すように、1950年代までには、出生時平均余命は30歳未満から60歳超に上昇していた。以後、向上は止み、一時は逆行することさえあった。

図5 出生時および諸年齢時でみた、ロシア人男性の平均余命 1896/97 – 1989 (国勢調査年度)

出典: Goskomstat Rossii 1998: 167-168.

図5はさらに第三の集団、すなわち恩恵をまったく得られなかった集団も示唆する。それは中年の男性 (女性) だった。ソヴィエト連邦は非感染的疾病および変性疾患に関する新しい学知を用いることはほとんどなかった。大人のソヴィエト市民は喫煙し、適切なレベルを超えて飲酒し、呼吸する空気も汚れていたため、臓器疾患や癌で早死にした。1890年代から1980年代にかけて、40歳以上の男女の平均余命はほとんど変化していない。

ソヴィエト経済とは、世界戦争と20世紀初頭の思想と科学技術の産物であった。それが生まれてから死ぬまでのあいだには、他の多くの国々も同様のあるいはより大きな社会的・経済的進展をみた。しかもより多くの合意と、より少ない暴力をもって。いま百周年をむかえるソヴィエト経済。われわれはその存在を忘れてはならないが、その死を嘆くにはあたらない。

参考文献

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TsSU (1972), Narodnoe khoziaistvo SSSR. 1922-1972. Iubileinyi statisticheskii sbornik. Moscow: Statistika.

脚注

[1] このフレーズは1987年に、当時 The Daily Telegraph のモスクワ特派員を務めていたクサン・スマイリーが造り出したもののようである; http://www.russialist.org/archives/3059.html##6を参照 (2017年9月28日アクセス)。

 

フェイクニュースとファクトチェック: 事実を正せば意見も正せるか (2017年11月2日)

From VoxEU, “Fake news and fact checking: Getting the facts straight may not be enough to change minds

Oscar Barrera, Sergei Guriev, Emeric Henry, Ekaterina Zhuravskaya (02 November 2017)

「フェイクニュース」は今や欧米の政治を語る上で欠かせない要素となった.このコラムでは,2017年の仏大統領選挙期間中に実施された実験を題材に「代替的事実(オルタナティブファクト)」が高い説得力を持つことを示す.ミスリーディングな数値データに基づく物語に触れた有権者たちはポピュリストの主張する方向に意見を変え,ファクトチェッキングはこの効果を打ち消す役に立たない.それどころか,デリケートな論点(たとえば欧州の難民危機)に関して,公的な事実だけを有権者に伝えるのは場合によって逆効果で,極右への支持を増すおそれがある.

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クリスチャン・ダストマン, ヘジン・ク, ドウォン・クァク 「なぜ男女別学校のほうが上手くゆくのか」(2017年9月28日)

Christian Dustmann, Hyejin Ku, Do Won Kwak, Why single-sex schools are more successful, (VOX, 28 September 2017)


これまで幾つかの研究で、男女別学校の生徒が男女共学校の生徒を上回る成績を収めていることが示されてきた。本稿はこの因果効果を細分化する試みである。そのさい利用したのは韓国政府のある政策で、これにより一部の男女別学校でいちどに一学年づつの男女共学化が行われた。学業成績は、男女共学となった学校の男子生徒については学級が男女別学に保たれていた場合でも低落した。女子生徒についてはクラスも男女共学になった場合のみ低落した。これら結果は、男女共学校が男子生徒と女子生徒におよぼす影響につき、異なるメカニズムが存在することを示唆する。

ここ数年、生徒の学業成績向上および諸般の性別格差の縮減をめざすために取り得る方策として多くの政策的関心を集めているのが、男女別学教育だ。男女別学教育の推進者の主張によると、男女別学環境には、生徒が異性に気を取られることを避け、また性別にかんする固定観念から苦痛をこうむる可能性を少なくするといった幾つか理由で、学業成績に好影響があるという。他方、男女共学教育の支援者の主張では、男女共学校の男子生徒のほうがよい成績を修めており、それはかれらが素行・学業成績ともにより優秀な女性のピアに取り巻かれているからだという。くわえて、男子生徒・女子生徒そうほうにとって、男女共学の環境はソーシャルスキル涵養の観点でもより好ましく、生徒に 「現実社会 (real world)」 にたいする準備をさせる意味でもより適切である、と主張されている。

こうした次第であれば、問題の鍵は、男女別学環境が生徒の学業成績を向上させるかではなく、その効果がどちらの性別にも共通しているのか、ここにあるといえよう。この点につき研究を進めるさい必要となるのは、男女共学校にたいする男女別学校のピアに、生徒を露出した場合の因果的影響の推定である。この影響の推定はきわめて困難である。その最たる理由は、生徒をさまざまな学校に選別するプロセスが内生的であるところにある。

研究課題および研究計画

われわれが最近の論文 (Dustmann et al. 2017) で取り上げたのは、まさにこの問題だ。われわれの研究の基礎となっているのはPark et al. (2013) である。同論文は韓国のソウルにおける割り振り政策を活用したものだ。ソウルの学生は、学区内部にある普通高校へと無作為に割り当てられていた。同著者らは単一クロスセクションデータ (1999年のもの) を用いて、男子生徒 (女子生徒) であって男子校 (女子高) に割り当てられた者の成績が、男女共学校における生徒のそれを上回っていることを示した。しかしながら、ソウルにおける既存の男女別学校および男女共学校は、生徒の性別以外にも、観測可能なもの観測不能なものそうほうを含む多様なインプットについて異なっているかもしれず、それが生徒の学業成績に作用することもあり得る。したがって、生徒が男女共学校ではなく男女別学校へと無作為に割り当てられたとしても、学校間でみられる生徒のアウトカムの違いが、生徒の性別のためである可能性と (生徒の性別構成からの直接効果)、観測可能なもの観測不能なものそうほうを含む学校由来インプットである可能性と (学校効果) があるのだ。またさらに、生徒の性別構成からの直接効果のほうは、男女共学校のピアにたいする学校 (school) レベルでの露出に由来する可能性と、学級 (classroom) レベルのそれに由来する可能性とがある。男女別学校または男女別学学級の新設を考えている政策画定者にとって鍵となるのは、男女共学学習環境にたいする男女別学学習環境への露出になんらかの直接の恩恵があるのか – 学校レベルであれ学級レベルであれ – という問題だ。

男女共学校にたいする男女別学校がもつ全体的な効果

われわれはこれら3つの異なるパラメータを特定している。そのさい国立大学入学試験にかんするある行政データが役に立った。これら試験は1996-2009期に韓国学制における12年生が受けたものだ。前述の選別問題に取り組むため、学区内における学校への生徒の無作為割当を、コホートごとに用いた – Park et al. (2013) に類似した手法だが、本研究では複数年度データを扱っている。これによりわれわれの次の第一の問題と取り組むことができるようになった:

  • (男女共学にたいする) 男女別学校での就学が生徒の学業成績におよぼす全体的な効果はいかなるものか?

因果的ではあるが、これは直接効果 (生徒の性別構成による) および学校効果 (男女別学校と男女共学校とのあいだの差異による) の合成物を示すものだ。

結果、男女別学校の生徒が男女共学校の生徒を成績において上回る旨を示す頑健な実証成果が得られた。その差は、男子生徒については標準偏差の5-10%分、女子生徒については標準偏差の4-7%分であり、(韓国語・英語・数学を含む) 諸科目をとおし、似通った推定値がでている。これはPark et al. (2013) で報告された結果とも軌を一にしている。これら効果は、ソウルにおいて (男女共学にたいする) 男女別学校での就学が試験の成績におよぼす因果的効果を計測するものだが、この全体的効果はそうした文脈に特定的であることも事実である。なぜかといえば、この全体的効果は、男女共学校にたいする男女別学校のピアへの露出と、男女別学校と男女共学校のあいだにある学校由来インプットの文脈特定的差異、これらを合成しているからだ。したがってこのパラメータは、ソウルで学ぶ生徒とその親にとって興味深いものだとしても、他の環境に一般化できるものではないのである。

直接効果

直接効果の分離をおこなうため、われわれは次の事実を利用した。すなわち、ソウルでは男女共学教育を厚遇する政府の政策のために、1990年代から2000年代にかけて男女共学タイプに変換した男女別学校が一部存在したのである。これにより、観測されておらず、かつ、時間不変的な (および観測され、かつ、時間変化的な) 学校の特徴を除去できるようになった。つまり、次の問題への取り組みが可能になったのである:

  •  (男女共学環境にたいする) 男女別学環境への露出には、学校および学級レベルで、いかなる直接効果があるのか?

ここでわれわれは (無作為学校割当と並行した) 学校タイプの変化を利用し、男女別学環境か男女共学環境のいずれかにたいし、学校レベル・学級レベルのそうほうで露出したコホートを比較した。結果、学校タイプが男女別学校から男女共学校へと変化すると男子生徒・女子生徒そうほうについて学業成績が悪化することが判明した。これは学校ごとの固定効果を前提としたものであり、したがって、(男女共学環境にたいする) 男女別学環境への学校・学級レベルでの露出がもたらす合成効果はポジティブなものであることが示唆される。

学校レベルでの露出にたいする学級レベルでの露出

最後に、われわれは韓国における普通高校が3つの学年 (10学年・11学年・12学年) から成り立っている事実、および学校タイプ変換がコホートレベルで実施された事実、これらに着目した。具体的には、男女共学体制に迎え入れられた最初のコホートは、3年ものあいだ、学級・学校レベルで両性入り混じったピアにたいし露出したのである。これより一学年上のコホート (the preceding cohort) は、学級レベルで両性入り混じったピアに露出することはないものの、学校レベルでは男女共学環境にたいし (またこの体制転換に由来した学校レベルのあらゆる変化にたいし) 高校生活3年のうちの残る2年間、露出したのだった。新たな男女共学環境にたいする学校レベルでの露出からこれら2つのコホートのうける影響が似通っているかぎりで、2つのコホートの学業成績の差異 (および非体制転換校においてこれに対応する差異) をとおし、次の最後の問いに答えることができる:

  • 学級レベルにおける (混性にたいする) 同性のピアへの露出のみから生ずる効果はいかなるものか?

われわれは韓国の高校がもつ多学年制という特徴、および生徒の性別のコホートレベルでの変換を利用した。結果、学級レベルでの (混成にたいする) 同性のピアへの露出が、女子生徒の学業成績に有意な正の影響をもたらすことが判明した。具体的には、同一コホートに属する女子学生の割合を100%から50%へと外生的に変化させると、語学にかんする女子生徒の学業成績は、スコア分布の標準偏差の8-15%分減少した。しかしながら男子生徒については、(混成にたいする) 同性のピアが自らのコホート内にいることの恩恵は小さく、かつ、統計的に有意でもない。前述の直接効果にかんするわれわれの発見をふまえると、この発見が示唆するのは、自校における女子生徒の存在は (たとえ同じコホートにはいない場合であっても)、男子生徒の意識を勉学から遠ざけるのだということである。たいする女子生徒のほうは、こうした撹乱効果にもそこまで脆弱ではないが、それでも学級レベルで男子生徒に露出した場合には不利益をこうむる。

まとめと議論

われわれの研究の主要成果は、混性にたいする同性のピアに学校・学級レベルで露出したさいの効果を合成したもの (先ほど直接効果と呼んだもの) が、女子生徒・男子生徒そうほうにとってポジティブなものである可能性が高いという発見である。しかしながら、その背後にあるメカニズムは異なっている。男子生徒にとっては、男女共学教育の不利益は、学校レベルでの男女共学環境への露出にもっぱら由来する。しかし女子生徒にかんしては、(同性にたいする) 混性のピアへの学級レベルでの露出こそが、男女共学教育の不利益を説明するものとなっている。

十代の男子生徒は、女子生徒とくらべ、男女共学環境に注意を削がれがちなのかもしれないが (Coleman 1961, Hill 2015)、それでも女子生徒のこうむる不利益のほうが大きくなる可能性もある。たとえば、破壊的行動 (disruptive behaviour) が増加する (Figlio 2007の考察)、教師の注意が能力の劣る生徒のほうに傾く ( Lavy et al. 2012の示唆) といった理由がこれだ。

参考文献

Coleman, J S (1961), The Adolescent Society, New York: FreePress.

Dustmann, C, H Ku and D W Kwak (2017), “Why are single-sex schools successful?”, CEPR, Discussion paper no DP12101.

Hill, A J (2015), “The girl next door: The effect of opposite gender friends on high school achievement”, American Economic Journal: Applied Economics 7(3): 147-177.

Figlio, D N (2007), “Boys named Sue: Disruptive children and their peers”, Education Finance and Policy 2(4): 376-394.

Lavy, V, M D Paserman and A Schlosser (2012), “Inside the black box of ability peer effects: Evidence from variation in the proportion of low achievers in the classroom”, Economic Journal 122(559): 208-237.

Park, H, J R Behrman and J Choi (2013), “Causal effects of single-sex schools on college entrance exams and college attendance: Random assignment in Seoul high schools”, Demography 50: 447–469.

 

ローラン・ブトン, パオラ・コンコーニ, フランシスコ・ピノ, マウリツィオ・ザナルディ 「銃と票: 無気力なるマジョリティにたいする強硬派マイノリティの勝利」(2017年10月6日)

Laurent Bouton, Paola Conconi, Francisco Pino, Maurizio Zanardi, Guns and votes: The victory of an intense minority against an apathetic majority , (VOX 06 October 2017)


合衆国市民のおよそ90%が支援しているのにもかかわらず、銃購入にたいするバックグラウンドチェック強化案は合衆国上院で廃案となった。「銃規制のパラドクス」 は、投票者のもつ選好の強さがさまざまな政策論点により異なるという事実、そしてそれにもかかわらず投票権者には雑多な政策論点に責任をもって取り組むべき政治家を選ぶのに、たった1つの票しか与えられていないという事実、これで説明できる可能性がある。これら特徴を取り込んだモデルは、合衆国議会上院の投票行動をうまく予測する。改選が近くなるほど上院議員は銃擁護の票を投じる傾向が高くなる。そして銃問題にかんして意見を翻すのは、民主党員のみである。

編集者注: 本稿は初め2013年12月に公表されたもの。最近の悲劇的事件を受けて、また新たに政策的関連性を得た。

2012年12月14日、コネティカット州ニュータウン市サンディ・フック小学校の銃撃事件で、児童20名および職員6名が殺害された。この悲劇を経て急激に高まった銃規制支持の世論にもとづき、オバマ大統領は新たな銃規制の導入形態にかんする直接的勧告案を提示するタスクフォースの編制を宣言、この 「国家を揺るがす銃暴力の蔓延」 に終止符を打とうとした。

一年が過ぎたが、合衆国議会はより厳格な規制の導入ができずにいる。広範な世論的支援があるにもかかわらず。The Economist で指摘されたように、「さらなる銃規制を求める動きが昨年10月のニュータウン市銃撃事件のすぐあと現れたとき、焦点があてられたのは次の3点だった: アサルトウェポン、高キャパシティマガジン、バックグラウンドチェックだ。しかし新たな銃規制法を求める熱気は急速に薄れてゆく。次第に明らかになってきたのは、アサルトウェポンおよび高キャパシティマガジン追放の運動が、法律制定に必要な票を得られそうにないという状況だ。銃規制推進派はバックグラウンドチェックシステムの強化を目指すほかなくなった。だが、結局それさえ高望みだったのだ」(The Economist 2012)。

2013年4月17日、銃展示会やオンラインでの私的な売買にたいするバックグラウンドチェックを要請する穏健な運動さえ、上院で廃案となった。これは驚くべき事態ではないか。そもそも当時とりおこなわれた世論調査は全て、合衆国市民のマジョリティが同施策を支持していると示していたのである1。オバマ大統領の言葉をきこう: 「90%が支持したものがそれでもなお実現しないなどという事態が、一体なぜ起こるのか?」

銃規制パラドクスの解明

合衆国議会議員のあいだにみられる銃規制支持への躊躇は、合衆国市民の大半がそれを支持している事実があるだけに、関連分野における長年の謎であった。Schuman and Presser (1978) はこの謎をさして 「銃規制のパラドクス」 との言葉を用いた。Goss (2006) の主張するように、1つの考え方としては、「アメリカ人の銃所有者は強硬派であり、よく組織されているだけでなく、候補者にその銃規制にたいするポジションだけを基準に反対票を投ずることを厭わないのだ」 という説明もありうる。銃所有者は 「強い動機をもつ、強硬派マイノリティを構成」 し、「相対的に無気力なマジョリティを圧倒」 しているのだ。

われわれは最近の論文 (Bouton et al. 2013) で、このアイデアの定式化を試みつつ、選挙に関連したさまざまなインセンティブが政治家に銃擁護のスタンスを取らせ、選挙民の中のいちマイノリティの利益に沿うよう突き動かしていることを示す実証データを提示した。われわれが提案する理論モデルは、政治家がおこなう第一義的 (primary) および第二義的 (secondary) な政策論点にかんする投票をとらえたものである。前者は、投票権者のマジョリティが相対的に多くの関心をむけている論点をさし、公共支出の水準などがこれにあたる。後者は銃規制の把捉をめざすもの – すなわち、なんらかのマイノリティ集団が相対的に強い関心をむけている論点だ。ところで、現職政治家の第二義的政策論点にかんする選択方針については、マイノリティのほうがより多くの情報をもっている可能性がある。こうした状況のなか、市民には雑多な政策論点に自らに代わり責任をもって取り組むべき議員を選択するのに、たった1つの票しか与えられていない。そうなると政治家は第二義的政策論点につきこうしたマイノリティに阿る態度をとりながらも、マジョリティの支持を大幅に失わずに済む可能性がある。本モデルは次の3つの検証可能な予測結果を出している:

  • 一、任期終了を間近に控えた政治家は、自らの政策的選択が改選の見込みにおよぼす影響が大きいほど、銃擁護のスタンスを取る傾向が高くなる。
  • 二、銃規制にかんし 「翻意」 する政治家は、銃規制に好意的であり、かつ、改選を気に掛けている者のみである。こうした政治家は、自らの政策選好と改選   意図とのあいだの葛藤に直面するためだ。
  • 三、選挙が近づこうが、銃規制に反対し、かつ/または、改選を気に掛けていない、政治家の投票行動にはなんら影響がない。

合衆国議会上院における投票行動

以上の予測の妥当性を評価すべく、われわれは1993-2010年期間において上院でおこなわれた銃規制にかんする投票の決定因子を検証した。合衆国議会上院のズレ構造 (staggered structure) – 議員は6年任期だが、三分の一の議員が2年ごとに改選される – は、選挙の近さが銃規制立法にたいする政治家の投票行動に作用するのかを検証するための擬似実験的環境を与えてくれる。この構造のおかげで、所与の投票について、3つの異なる 「世代」 – すなわち、異なる時期に改選される層 – に属する上院議員の行動が比較可能になる。

モデル予測と軌を一にする、次の3つの主要結果が得られている:

  • 一、上院議員の最古参世代 (すなわち、2年以内に改選をむかえる者) は、それ以前の2世代よりも銃擁護の投票をする可能性が高い。

影響は相当大きく、また計量経済学的方法論やサンプルにする投票事例をさまざまに変えてみても、また上院議員の銃規制にたいする投票行動を駆動しているその他要素を考慮した多様な調整要素を組み入れても、頑健性を保った。

  • 二、民主党の上院議員のみが銃規制にかんして翻意する – 任期最後の2年間になると、これら議員が銃擁護の投票する確率は、15.3%から18.9%増加する。
  • 三、選挙が近づいても、改選を気に掛けていない上院議員の投票行動にはなんら影響がない。気に掛けていないというのは、リタイアするつもりなのか、議席確保がかなり確実であるか、その何れかである。

銃規制投票の決定因子にかんする本研究結果は、世論の圧倒的な支援があったにもかかわらず、ニュータウン市での悲劇を経ても合衆国議会がより厳格な規制を導入しなかった理由を解明する手掛かりになる。われわれの実証的モデルは、直近の4月のバックグラウンドチェックにかんするManchin–Toomey修正案が上院で廃案となることをじっさいに予測した2

まとめ

間接民主主義国では、政策選択が選挙民マジョリティの欲するところから逸脱する場合がままある:

  1. 投票権者はさまざまな政策論点で選好の強さが異なる; また
  2. 投票権者には、雑多な論点に自らの代わりに責任をもって取り組むべき代表者を選出するために、たった1つの票しか与えられていない。

言わずもがなだが、ロビー集団による財政的圧力が、政治家の選択とマジョリティの選好とのあいだの対応性の欠如を助長している可能性はある。じっさいわれわれの実証成果では、銃権利ロビーからより大きな選挙キャンペーン的貢献を享受している上院議員ほど、銃擁護のスタンスを取る傾向もより高くなることが確認された。しかしながら、このロビー集団による財政的圧力も、選挙の近さが上院議員の投票行動におよぼす銃擁護的影響までは説明できない – 個々の上院議員がその任期をとおして獲得する支援分を調整したあとでさえ、これら議員は改選が近づくと銃擁護の投票をおこなう傾向が高まることが判明しているのだ。したがって、NRAのような銃権利ロビーの力は、かれらの財布の中身だけでなく、こうしたロビー団体のメンバーが単一争点のみにこだわる投票権者である事実にも負うところがあるようである3

総論的には、一緒くたにされた雑多な政策論点を解きほぐしてゆく市民のイニシアチブが、市民の選好と政策アウトカムのあいだの対応性を向上させる手掛かりとなりうる (Besley and Coate 2008)4。各論的には、合衆国諸州のなかでも、一般市民が投票で新立法の可決/否決を決定できるところでならば、より厳格な銃規制を導入できるかもしれない5。とはいえ、市民イニシアチブの場合であれ、投票権者の選好の強さは重要だ。たとえば、イチシアティブの組織には金と時間そうほうで非常にコストが掛かるが、銃規制にたいし強硬に反対する市民ほどそうしたコストを厭わない傾向があるかもしれない。くわえて、銃規制肯定派の市民ほど投票コスト (例: 時間を割いて有権者登録する・仕事の予定を組み直す・投票所に足を運ぶ・候補者情報を収集するなど) を厭わないかもしれない。かくして強硬派マイノリティは、無気力なるマジョリティにたいする優位をなお保ちうるのである。

参考文献

Besley, T and S Coate (2008), “Issue Unbundling via Citizens’ Initiatives”, Quarterly Journal of Political Science, 3: 379–397.

Bouton, L, P Conconi, F J Pino, and M Zanardi (2013), “Guns and Votes”, CEPR Discussion Paper 9726.

The Economist (2013), “Over before it began”, 24 April.

Goss, K A (2006), Disarmed: The Missing Movement for Gun Control in America, Princeton University Press.

Schuman, H and S Presser (1978), “Attitude Measurement and the Gun Control Paradox”, The Public Opinion Quarterly, 4: 427–438.

1 たとえば、2013年4月にとりおこなわれたABC News–Washington Postの世論調査は、回答者の86%が銃展示会やオンラインでの銃売買にたいするバックグラウンドチェックを支持していると示した。2013年1月にとりおこなわれたCBS News–New York Timesの世論調査によると、92%の合衆国市民が全面的バックグラウンドチェックを支持していたという。

2 1993–2010年期間にかんする推定値にもとづき、われわれは99人中93名の上院議員について、2013年4月14日のマンチン–トゥーミー修正案にたいする投票を正しく予測した。ただし、多数党院内総務ハリー・リードは除く。かれは、幾つかの手続き上の理由から、本修正案にたいし反対票を投じたためだ。合衆国議会上院では、議事妨害をのりこえて法案を先に進めるために必要な60票が得られなかった。われわれの予測した票差 (51-48) は、実際のもの (53-46) にきわめて近いものとなっている。ただし、ここでもハリー・リードは除いた。

3 Slateに掲載されたある記事が指摘するように、「NRAは大方から本国における最も強力なロビー集団だと見做されている。財源はどちらかといえば控えめといったところでメンバーもちょうど4百万人程度なのだが。[…] NRAはほとんど銃規制の論点のみに専念しているため、かれらの指導層はその立法関連の目的を徹底的に追求できる体制になっている。おそらく最も重要な点だが、NRAはそのメンバーの多くが組織そのものと同じくらい一点集中型の考えをしている。世論調査では、相対的に多くのアメリカ人が銃規制の緩和よりその強化に好意的である旨がしばしば示されるが、銃権利推進派はこの論点における反対陣営とくらべ、一点集中型である可能性がはるかに高いのだ」(Slate, 29 June 2012)。

4 直接イニシアチブ (direct initiative) の手続きは、市民が立法案や憲法修正の形をとる請願を提出することを可能にする。この請願が十分な世論の支持を獲得した場合、その施策はそのまま投票に直行する段取りとなる。そのさい初めに立法府に法案を提出しておく必要はない。

5 たとえば、「イニシアチブ594」 としても知られる 「銃購入に関する全面的バックグラウンドチェックを求めるワシントン州イニシアチブ (Washington Universal Background Checks for Gun Purchases Initiative)」。本イニシアチブがワシントン州で2014年11月4日の投票用紙に記載されるかもしれない。本施策が投票権者により可決された場合、ワシントン州で銃を購入する全ての人を対象とするバックグラウンドチェックが要請されるようになる – これには私的な取引をとおして購入する者も含まれる。

 

リヴァイ・ボクセル 「インターネット・ソーシャルメディア・政治分極化」 (2017年10月1日)

Levi Boxell, “The internet, social media, and political polarisation” (VOX, 01 October 2017)


インターネットは、近年の政治の分極化について相当な汚名を着せられてきた。合衆国のデータを用いつつ本稿が主張するのは、政治分極化の強まりという少なくとも1970年代まで遡れる一般動向について、インターネットはじつのところ何ら重要な役割を果たしてこなかったこと、これである。本研究結果は、都合のよい物語をとおした説明にとどまらない視点をもつことの重要性、そして政治的気分をうみだす諸要因をより深く理解することの必要性を照らし出す。

合衆国選挙民のあいだで近年政治の分極化が進んでいる旨を示唆する文献が増えている (例: Abramowitz and Saunders 2008, Iyengar et al. 2012)。1994年、政党支持者 (party affiliates) のおよそ20%が反対政党について 「強く不支持 (very unfavourable)」 の見解をもっていた。2016年までに、この数字は55%超に高まり、現在も減速の兆しは全くみられない (Pew Research 2016)。1994年から2014年にかけて、政治ポリシーにかんする質問群をとおし強固に一貫したイデオロギー的見解をもつアメリカ人の割合は、2倍以上に膨らんだ – すなわち10%から20%超に増加した (Pew Research 2014)。

政治分極化にたいする関心のほうも空前の高まりをみせている。Google Trendsが示すところでは、合衆国における政治分極化に関連した検索の件数は2016年の11月、2004年のモニター開始以降のいずれの選挙月をも上回るものとなった1。Gentzkow (2016) も、1950年から2008年にかけてのGoogle Books Ngram Viewerデータにおける政治分極化への言及について、同様の結果を得ている。

政治分極化の強まりの説明としてよく引用される仮説の1つは、インターネットとソーシャルメディアを主たる要因とするものだ。Cass Sunstein (2007) の次のような言葉は、この議論の標準型を示している:

インターネットのおかげで甚だしく容易になったのは自分の見解の後押しとなる膨大な資料を渉猟し … [なおかつ] それと反対の趣旨をいう資料のいっさいを排除することだ … このセルフ-ソーティングがもたらす重要な帰結に、飛び地の過激主義 (enclave extremism) とでも呼びうるものがある。同好の士からなる飛び地にゆき着いた人々は、通例そこからさらに極端な地点に向かってゆくものだ

よく知られたEli Pariser (2011) や Cass Sunstein (2001, 2009, 2017) の著作は、インターネットが 「フィルターバブル」 ないし 「エコーチャンバー」 の役割をはたすというこの考えについて詳説したものだ。

個人は、インターネット上で同好の士的な情報源をじじつ見い出しており、またソーシャルメディア上でも同好の士的な個人と繋がる傾向が比較的強いこと、これについては強固な実証データが存在する。既存研究は、政治ブログ上でのリンク (Adamic and Glance 2005)、ウェブサイト訪問 (Gentzkow and Shapiro 2011)、Twitter上の政治的リツイート (Conover et al. 2011)、ソーシャルメディア上の記事シェア・クリック (An et al. 2014, Bakshy et al. 2014, Flaxman et al. 2016)、Twitter上の政治的同類性 (Colleoni et al. 2014, Gruzd and Roy 2014, Halberstam and Knight 2016) などにおける住み分け (segregation) を明らかにしてきた。

図1 メディアと交流形態でみたイデオロギー的住み分け

出典: Gentzkow and Shapiro (2011).

しかしながら、オフラインの情報源とオンラインの情報源を比較する段になると、諸研究はどちらにも同程度の分節化レベルを見い出している。図1はGentzkow and Shapiro (2011) から取ったものだが、ウェブサイト訪問にかんする分節化をみると、これは全国紙にかんする分節化ほどではないが、地方紙にかんする分節化よりも激しいといった具合になっている。Halberstam and Knight (2016) もTwitter上の政治ネットワークを調べて、Twitter上の政治ネットワークとオフラインの政治ネットワークの分節化が同程度であることを明らかにしている。なお付言しておくと、インターネット上の情報源にかんする分節化はたしかに示唆的であるが、これはインターネットが分極化を促したという命題の必要条件でもなければ十分条件でもないのである。

図2 標準化した政治分極化の指標の動向 (1972–2016)

出典: Boxell et al. (近刊).

最近の論文で私は共著者らとともにインターネットと政治分極化の関係を調査している。そのさい 「全米選挙研究 (American National Election Studies)」 のサーベイデータを用いることで、オンライン情報へのアクセスで異なる人口学的諸集団をとおしてみた分極化動向の比較をおこなった (Boxell et al. 近刊)。研究における発見が個々の政治分極化基準によって左右される程度を減らすため、我々はこれまで関連文献で用いられてきた8つの基準をもとにあらたに1つの標準化指標を作成した。なおこれまでの尺度とは、Abramowitz and Saunders (2008) のイデオロギー整合性の尺度、Mason (2015) の党派的ソーティングの尺度などをさす。図2には、我々の指標の1972年から2016年にかけての動向を示した (1996年に値が1となるように標準化した)。本期間をとおし分極化には安定した上向きの動きがみられる反面、インターネットの勃興に対応する変節点を示す兆候はまったく確認できない。1996年以前の動向だけみても、政治的分極化の説明においてインターネットが果たし得る役割は限られていそうだ。

くわえて図3が示すように、分極化は1996年から2016年にかけて高齢者 (65+および75+の年齢層) のほうが青年 (18-39の年齢層) よりも急激に進行した。さらに、予測インターネットアクセスを計る尺度として人種や教育といったその他の人口学的変数を取り入れたより包摂的なものを用いた場合、1996年においてインターネットアクセスを享受していた可能性が最も低い人口学的諸集団のほうが、1996年においてインターネットアクセスを享受していた可能性が最も高い人口学的諸集団よりも、大きな分極化の変化を被っていたことが確認できた。

図3 さまざまな年齢層の政治分極化 (1996-2016)

出典: Boxell et al. (近刊).

インターネットないしソーシャルメディアへの直接的なアクセスが政治分極化の主要要因であるとすれば、予想される動向はこれと正反対になるはずだ。高齢者 (65+) が選挙キャンペーンにかんする2016年のニュースをオンラインで視聴していた可能性は、青年 (18-39) のおよそ半分であり、ソーシャルメディアを利用していた可能性はさらに少ない。それにもかかわらず、最大の政治分極化を被ったのはこの相対的年長者の層なのだ。これら事実を念頭におけば、諸年齢層にわたるインターネットアクセスへの反応の大きな不均一性、あるいは諸年齢層にわたる相当な波及効果を考慮しないまま、インターネットないしソーシャルメディアが現在みられる政治分極化の主要要因であるとする物語を作り上げることはできなさそうだ。

以上の発見は、インターネットないしソーシャルメディアが政治分極化に及ぼす影響を否定し去るものではない。事実、インターネットが僅かながら影響をもつ可能性を示す実証データも存在する。Lelkes et al. (2017) は恐らくは外生的だと思われる管路敷設権立法 (right-of-way legistlation) の変化を援用しつつ、ブロードバンドの普及が対象カウンティにおける感情的分極化 (affective polarisation) を一定程度強めたとの主張をしている。ただ同著者らは 「我々は、ブロードバンドが党派的反感の強まりを引き起こした唯一の原因などと主張するものではない。あるいは主要な原因ですらないかもしれない … 感情的分極化は少なくともインターネット利用が始まる二十年前には強まり始めていた」 と述べ、自らの発見を穏当なものにとどめている。またこれら研究結果は、諸年齢層にわたる感情的分極化の違いを説明するものでもない。

ところで、2016年の選挙結果をインターネットおよびソーシャルメディアの責めに帰すよく似た物語がある。選挙後、ヒラリー・クリントン氏は、自身の敗北の一因はフェイクニュースとFacebookだったと仄めかした。我々の論文では、人口学的諸集団にわたり投票率を比較することで、2016年の選挙にインターネットが及ぼした影響についても調査している。ドナルド・トランプ氏がインターネット利用性向の相対的に高い人口学的諸集団から獲得した票の比率が、以前の大統領達よりも大きかった旨を示す実証データはまったく確認されなかった。じっさいのところ、我々の点推定値はそれと正反対の構図を示唆している – トランプ氏はインターネット利用性向の高い人や実際のインターネット利用者のあいだでは比較的振るわなかったようなのだ。トランプ氏の支持者に占めるソーシャルメディア利用者の割合、および人口学的諸集団をとおしてみた投票率の違いを調べたHampton and Hargittai (2016) も同様の結論に至っている。

今日の合衆国には諸政治集団のあいだに相当な断裂がさまざま存在し、しかもこれら断裂が埋まってゆく気配もみえない。政治分極化やポピュリスト的な大統領候補の席巻を理解しようと試みるさい、インターネットやソーシャルメディアをやり玉に挙げたくなる気持ちも分からなくはない。しかしながら、人口学的諸集団にわたる基本動向は、どちらの現象を説明するにしてもインターネットが大きな役割を与えるような物語を支持するものとはなっていない。メディア消費は従来型メディアを離れこうした新たなプラットフォームに向かうシフトを続けており、我々もまたこれらプラットフォームの利用形態およびその政治領域への影響を注視し続けてゆく必要がある。だが、前述の結論を覆す新たな実証データが現れるまでは、FacebookフィードやGoogle検索に代わる何かがあれば我々の直面している政治問題が解決されるなどと考えるべきではない。

参考文献

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Endnotes脚注

[1] See https://trends.google.com/trends/explore?date=all&geo=US&q=%2Fm%2F02shm1 を参照

ポール・クルーグマン「政策担当者は正しいことをしたか」(2017年9月22日)

Paul Krugman, Did policymakers get it right? (Video VOX, 22 September 2017)

政策担当者はどの部分で正しい政策を取ったか?この動画では、ポール・クルーグマンが中央銀行は正しい政策を取ったが、間違ったタイミングで緊縮政策が行われたと説明。この動画は2017年9月22日に開催された「金融危機から10年」と題されたカンファレンスで録画されたものです。1    [Read more…]

  1. 訳注:本訳はクルーグマンが実際に話しているものをもとにしており、動画の英語字幕とは必ずしも一致しません。 []

欧州におけるポピュリズムと信頼

From VoxEU  2017年8月23日

Christian Dustmann、University College London (UCL) 経済学教授

Barry Eichengreen、カリフォルニア大学バークレイ校経済学・政治学教授

Sebastian Otten、UCL シニアリサーチオフィサー

André Sapir、ブリュッセル自由大学教授

Guido Tabellini、ボッコーニ大学経済学教授

Gylfi Zoega、アイスランド大学経済学教授

概要: 近年、既成の政治制度や政党への信頼の低下とポピュリスト運動やその政策への支持の増加が見られるようになった。それも欧州連合への懐疑や、一部でのあからさまな敵意が見られる欧州だけに限られたものではない。このコラムはCEPRのMonitoring International Integration series (国際統合の観測シリーズ)の最初のレポートである。これは各国内と欧州全体の政治制度両方における信頼の低下の根源を分析し、その展開の結果としてEUが危機にあるのかを問うものである。

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消えた成長の謎:あるいは如何に帰属と創造的破壊がTFPに影響するか

訳者: 帰属計算というと、普通はGDPの計算で市場取引されていない財・サービスの価値の計算方法のことかと思いますが(よく例として出されるのが、持ち家の住居サービスの価値の計算)、このコラムでは名目値を実質値とインフレ率に変換する際の、新製品の影響の計算方法の事を指しています。

 

消えた成長:帰属と創造的破壊がいかにTFPの計測に影響を与えるか

From VoxEU

2017年8月16日

Philippe Aghion, ハーヴァード大学経済学教授、CEPRリサーチフェロー

Antonin Bergeaud, パリ経済学校博士課程学生、フランス銀行

Timo Boppart, ストックホルム大学IIES助教授

Peter Klenow, スタンフォード大学経済政策教授

Huiyu Li、サンフランシスコ連邦準備銀行

概要:全要素生産性の成長率が低下していることから、世界はイノベーションのアイデアに枯渇しつつあるのだと主張する人達がいます。このコラムは算出が計測される方法がこれを判断する上での核心であると主張し、産出計測バイアスにおける帰属の役割を定量化します。「新しい」ものと既存の製品を区別することで、合衆国経済の消えた成長を見つけ出すことが出来ました。この消えていた成長を考慮することで、統計当局はその手法を向上し、新しいアイデアの登場をより容易に認識することが出来ますし、またこれは最適成長とインフレターゲット政策についての含意を持ちます。

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グローバライゼーションと合衆国の労働市場

グローバライゼーションと合衆国の労働市場 From VoxEU

Mine Senses、ジョンズ・ホプキンズ大学国際経済学准教授

2017年8月6日

 

概要: グローバライゼーションによってもっとも被害を被ったコミュニティは近年の合衆国の選挙において中道の候補からよりイデオロギー的に過激な候補へと支持をシフトさせたという証拠などが出てきている。Vox eBookから抜粋されたこのコラムでは、グローバライゼーションの波を反転させる事を約束して当選した政治家の政策がどういうものになるかと、そういった政策の成功の見通しについて考えてみる。

編集者注: このコラムは最初、Vox eBook、Economics and policy in the Age of Trump、の中の1章として書かれた。この本はここからダウンロード可能である。

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