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アセモグル et al. 「AIと雇用:合衆国における求人からの証拠」(2021年3月3日)

[Daron Acemoğlu, David Autor, Jonathon Hazell, Pascual Restrepo, “AI and jobs: Evidence from US vacancies,” VoxEU, March 3, 2021]

人工知能技術が急速に改善するにつれて,それが労働者たちにおよぼす影響に関心が高まっている.本コラムでは,2010年以降に投稿された求人広告でのスキル要件に関するデータを用いて,人工知能が合衆国の労働市場におよぼした影響を検討する.我々の推定からは次のことがうかがえる.すなわち,特定のタスクでこそ AI が労働者に置き換わりはじめているものの,いまのところ,労働市場全体では影響をおよぼしているようには見えない.


人工知能 (AI) とは,知的にふるまうアルゴリズムの一種をさす.すなわち,構造化されていないデータ(たとえば人のおしゃべりや画像のデータ)にパターンをつきとめ,その情報を用いて,通常なら人間の判断や専門知識を要するタスクを完遂するアルゴリズムをいう.この10年間に,新たな機械学習技術や利用しやすくなった大規模データセットにもとづく AI が急速に発展してきた.その変化のペースは,今後数年で加速すると見込まれている  (e.g. Neapolitan and Jiang 2018, Russell 2019).また,AI の応用事例はすでにさまざまな企業に影響をもたらしはじめている (e.g. Agarwal et al. 2019).

評論家たちのなかには,ここに雇用なき未来の兆しを見る者たちもいる (e.g. Ford 2015, West 2018 Susskind 2020).その一方で,来るべき AI 革命によって人間の生産性と労働経験が豊かになる可能性を見る人たちもいる (e.g. McKinsey Global Institute 2017).AI が労働市場におよぼす影響に関する証拠がかぎられていることを思えば,こうした好対照な未来像が長らく併存しているのも,驚くにあたらない.

これまでのところ,AI が労働市場におよぼす影響に関する研究はほんのわずかしかない.そればかりか,AI 採用が大幅に増えているかどうかに関する系統的な証拠も,比較的にわずかしかない――メディアで AI が広く取り上げられているのと対照的だ.さらに,AI 技術が人々の仕事を奪っている事例も人々の仕事を補完している事例も見つけられる.なぜなら,他でもなく,広範な技術プラットフォームとしての AI にはそのどちらもできるからだ.そのため,AI によって生じる雇用消失をどれくらいにするかは,社会や企業の選択の問題といえる部分もあるのだ.

新研究において  (Acemoglu et al. 2020),我々は合衆国における AI 採用とその帰結に関する証拠を提供する.我々の出発点となるのは,次の点だ――教師なし機械学習・自然言語処理・機械翻訳・画像認識といった AI に関連した活動を専門とする従業員を雇用するとき,AI を採用する組織・団体には「足跡」が残る.この着想を実践にうつすにあたって,我々は合衆国内でのオンライン求人投稿とその技能要件の詳細をほぼすべて網羅して AI 活動の組織レベルのデータセットを構築する.求人情報は Burning Glass Technologies から提供を受けた.求人情報の期間は 2007年と2010年から2018年までだ.AI 分野の技能を必要とするかどうかによって,団体の求人を1つ1つ分類した.

我々のデータからは,2010年以降に合衆国で AI 利用は増えており,いまや相対的に広まっていることがわかる.図 1 の左パネルには,合衆国において AI を必要とする求人全件がしめる割合をプロットしてある.期間は2007年と2010年以降だ.我々が用いている「広義」と「狭義」の数値は,それぞれ,求人の文章に基づいて AI を2とおりに分類している.AI 利用は時の経過とともに増えており,2016年に上向いている.

【図 1】

AI 利用は,経済全域に均等に普及しているとはおよそ言いがたい.図 1 の右パネルでは,広義の産業部門による AI 求人の割合をプロットしている.「情報技術および専門・企業向けサービス」部門は,とりわけ AI 求人の割合が大きい.こうした部門は,主に AI を経済の他の分野に供給している業者たちだ.だが,ここで重要なのは,金融や製造といった他の多くの部門でも AI が急速に広まっている点だ.そうした部門は,AI を生産に用いている見込みが大きい.

実証研究の指針となる,タスクにもとづく枠組み

まずは,タスク基準の視野からはじめよう.AI が採用されたとき,それにともなって組織のタスク構造にどのような影響が生じうるのかを検討する.この視野では,現行の AI 応用事例が特定タスクを遂行できていることを強調し,そうしたタスクに従事している企業がいずれ AI 技術を採用すると予測する (Acemoglu and Autor 2011, Acemoglu and Restrepo 2018, 2019a).AI についてとりうるアプローチは,これ以外にもある.たとえば,AI は特定のビジネスモデルを補完している(のであってそうしたモデル内で特定タスクを遂行しているわけではない)と考えたり,AI によって企業が新製品を生み出したり商業化したりできているのだと考えることもできる  (Agarwal et al. 2019, Bresnahan 2019).だが,タスク基準アプローチは,我々の実証的アプローチにとりわけ適しており,我々の実証的な発見から支持を受けている.この点は,のちほど解説しよう.

現行の AI にできることはさまざまだ.そうしたことと両立するタスクをつきとめるため,我々は3とおりのたがいに相補的な数値を用いる:すなわち,
Felten et al. (2018, 2019) の AI 職業インパクト数値,Brynjolfsson et al. (2018, 2019) の機械学習適合度 (SML) 指標,Webb’s (2020) の AI 接触スコア,この3つだ.こうした指標は,どれもさまざまな仮定にもとづいており,AI 技術にもっとも影響を受けると判定するタスク・職務もそれぞれに異なっている.我々は,3つの指標それぞれに照らして,その企業の基本的職務構造のベースライン (2010) から,各企業の AI 接触度合いを構築する.そして,分析全体で一貫してこれら3つすべてを AI 接触の代理変数に用いている.我々の目標は AI を用いる企業に AI がもたらす影響を研究することにあって,AI を産み出している企業の研究を目指してはいない.そのため,我々の実証分析では専門・企業向けサービス企業と情報技術部門の企業を除外している.これら2種の企業は,もっぱら AI サービスの供給業者だ.

AI が雇用におよぼす影響

こうして得られる分析結果を述べよう.第一に,AI 採用をすすめている企業は,そのタスク構造が現行の AI にできることと両立する企業だ.これは,タスク基準での AI 観と整合する.図 2 にこの発見をまとめてある.我々は,AI 〔の知識・技術〕を必要とする求人がしめる割合の変遷をプロットした.前述の数値を基準に AI 接触が多い企業と少ない企業をわけてプロットしてある:1つ目のパネルは,Felten et al. (2018, 2019) の数値によるもの,2つ目のパネルは SML 数値によるもの,そして3つ目は Webb (2020) の数値によるものだ.回帰分析にかけると,AI 接触とその後の AI 雇用が示す強い相関は頑健で,the Felten et al. (2018, 2019) と Webb (2020) の数値を用いた場合にはコントロールや仕様のチェックで変わらない.ただし,SML を用いた場合にはそこまで頑健ではない.

【図 2】

次に,求人投稿で求められる技能の内容と AI 接触が関連しているかどうかを我々は調査した.Felten et al. (2018, 2019) とd Webb (2020) の数値(および,度合いは下がるものの SML 数値)を用いたところ,それまで求人で求められていた技能の一部の顕著な減少と新しい技能の台頭の両方に AI 接触が関連していることが見出された.AI によって仕事のタスク構造が変わり,人間が遂行してきたタスクの一部が置き換えられる一方で,それと同時に,新しい技能の需要をともなう新しいタスクが創出されているという主張を,この証拠は支持している.

AI に適したタスクがある企業は AI 職位に従業員を雇用し特定タイプの技能の需要を変えるという発見からは,もちろん,そうしたタスクに従事してきた従業員を AI が置き換えているのか補完しているのかわからない.この問いについて知見を得るべく,我々は近年の AI の台頭によってさまざまな企業での労働需要にどのような影響が及んでいるのかを検討した.

原則として,AI がなんらかのタスクで従業員を直接に補完して彼らの生産性を高めるか,あるいは,なんらかのタスクで従業員を代替するものの(全要素)生産性が十分に高まって AI に無関係のタスク・職位で需要が高まる場合には,AI 接触を経た企業で(非 AI の)雇用が増えるかもしれない (Acemoglu & Restrepo 2019a).逆に,多くのタスクが AI で代替される一方で自動化されないタスクでの追加雇用が AI に後押しされて増えても代替された分を埋め合わせるに足りない場合には,AI 採用によって雇用は減少するかもしれない.

我々の研究結果は,AI 接触と企業での雇用に正の関係がないことを一貫して示している.むしろ,Felten et al. (2018, 2019) の数値を用いた仕様のほぼすべてと Webb (2020)  での仕様の大半において,雇用の減少と AI 接触の増加は関連しているという証拠が見出される.こうした〔雇用減少とAI接触増加〕の関係のタイミングは蓋然性がある.どちらも,AI 求人の投稿が急増した 2014年から2018年の期間に集中しているからだ.こうした研究結果が示すパターンに加え,AI との接点が多いタスクを多く抱える企業に AI 採用が集中しているのを示す我々の推計を考え合わせると,近年の AI の急増をうながす原動力となっている要因には,いままで人手で遂行されていたタスクの一部を AI が自動処理することによるタスク代替があるらしいことがうかがえる.こうした企業で人と AI の大きな補完関係があるという説や,AI が生産性に大きな影響をおよぼすがゆえに雇用が増えるという予想には,実証的な支持が見当たらない――とはいえ,もちろん,本研究でとらえられていない他の AI 応用事例がそうした影響をもたらす可能性は排除できない.

企業レベルのパターンと対照的に,産業や職業レベルでの AI 接触と全体的な雇用・賃金にはなんらの関係も検出されていない.AI への接触度合いがより大きいタスク構造をもつ産業での雇用になんら顕著な影響はなく,また,AI との接触がより大きい職業の雇用や賃金への影響も見られない.全体を総合したレベルで AI 技術の影響が見られるにはまだ時期が早すぎるというのが,いちばんありそうな理由だ.

まとめの考察

我々の研究結果は次の点を示している――AI 採用が顕著に進んできたにもかかわらず,合衆国の労働市場の規模に比べて AI の影響はあまりに小さく,AI 採用そのものをのぞいて,雇用パターンに大きな影響は生じていない.しかしながら,自社が従事するタスクの大きな割合が AI に適している企業で顕著に AI 採用が進んでいるのが見出されているのに加えて,企業レベルでの 非 AI 雇用との負の相関を示す証拠もある.これらを考え合わせると,現時点で,AI で仕事から追いやられる影響に比べて,AI による生産性向上や相補関係による効果は小さいと考えられる.

参照文献

  • Acemoglu, D and D Autor (2011), “Skills, Tasks and Technologies: Implications for Employment and Earnings”, Handbook of Labor Economics 4: 1043–1171.
  • Acemoglu, D, D Autor, J Hazell and P Restrepo (2020), “AI and Jobs: Evidence from Online Vacancies”, NBER working paper No w28257.
  • Acemoglu, D and P Restrepo (2018), “The Race between Man and Machine: Implications of Technology for Growth, Factor Shares, and Employment”, American Economic Review 108(6): 1488-1542.
  • Acemoglu, D and P Restrepo (2019a), “Automation and New Tasks: How Technology Displaces and Reinstates Labor”, Journal of Economic Perspectives 33(2): 3-30.
  • Acemoglu, D and P Restrepo (2019b), “The Wrong Kind of AI? Artificial Intelligence and the Future of Labour Demand”, Cambridge Journal of Regions, Economy and Society 13(1): 25-35.
  • Agarwal, A, J S Gans and A Goldfarb (2018), Prediction Machines: The Simple Economics of Artificial Intelligence, Cambridge: Harvard Business Review Press.
  • Bresnahan, T (2019), “Artificial Intelligence Technologies and Aggregate Growth Prospects”, Unpublished manuscript, Stanford.
  • Brynjolfsson, E, T Mitchell and D Rock (2018), “What can Machines Learn, and What Does it Mean for Occupations and the Economy?”, AEA Papers and Proceedings 108.
  • Brynjolfsson, E, T Mitchell and D Rock (2019), “Machine Learning and Occupational Change”, Unpublished manuscript, MIT.
  • Felten, E, M Raj and R Seamans (2018), “A Method to Link Advances in Artificial Intelligence to Occupational Abilities”, AEA Papers and Proceedings 108.
  • Felten, E, M Raj and R Seamans (2019), “The Effect of Artificial Intelligence on Human Labor: An Ability-based Approach.”, Academy of Management Proceedings 1.
  • Ford, M (2015), The Rise of the Robots, New York: Basic Books.
  • McKinsey Global Institute (2017), “Artificial Intelligence: The Next Digital Frontier?”, Discussion Paper.
  • Neapolitan, R E and X Jiang (2018), Artificial Intelligence: With an Introduction to Machine Learning, London: Chapman and Hall/CRC, Second Edition.
  • Russell, S (2019), Human Compatible: Artificial Intelligence and the Problem of Control, London: Penguin.
  • Susskind, D (2020), A World Without Work: Technology, Automation and how We Should Respond, London: Penguin.
  • Webb, M (2020), “The Impact of Artificial Intelligence on the Labor Market”, Unpublished manuscript, Stanford.
  • West, D M (2018), The Future of Work: Robots, AI, and Automation, Washington, DC: Brookings Institution Press.

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