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アレックス・タバロック「猿の子育て実験からわかること」(2020年9月2日)

[Alex Tabarrok, “Monkey Parenting Matters,” Marginal Revolution, September 2, 2020]

ジェイムズ・ヘクマンを含む経済学者グループが NBER で新しい論文を出した.複数世代を重ねる猿の子育て実験から得られたデータを分析して児童の発達を研究する流れに,これで経済学者も合流したわけだ.1950年代にハーロウがやった一連の実験で,母親なしで育てられた猿は子育てがあまりうまくないのはよく知られている.(またハーロウの実験は,「肌と肌での母子の接触」という例のマントラの由来でもある.) 今回の論文が独特なのは,母親に育てられる猿と保育所に育てられる猿を無作為に割り振り,これを2世代繰り返したところだ.というか,この新論文に出てくる猿の子供たちには,同じくヘクマンを含む著者たちの以前の論文に登場した子供たちが含まれているんじゃないかと思う.複数世代を重ねる実験を行うことで,不利・短所が後続世代に継承されるのか,不利・短所が緩和されるのかを研究者たちは検証できる.

同論文の分析によれば,第一に,保育所で育てられた場合に比べて,母親に育てられた子供たちの方が健康状態がすぐれ,社会的地位も高くなっている(社会的地位の計測には,チェスで使われるのと似た ELO スコアと,争いで誰が勝利したかを用いている).第二に,母親に育てられた猿が母親になった場合の方が,保育所で育てられた猿が母親になった場合に比べてすぐれていた.この第二点からは,不利・短所が後続世代に継承されることが示される.それどころか,保育所で育てられた猿が母親になった場合の子育ては,保育所での子育てと同じくらい悪かった.つまり,不利・短所を1世代で改善するのは難しいということだ.

標本数は少ない(第1世代の猿がおよそ100頭,第2世代の猿が60頭).だが,それでも無作為な割り振りが有用となる余地はある.

著者たちは,この研究からヒトについて教訓が得られるのではないかと述べている:

我々の発見は,ヒトで行われた社会実験の結果と一致している.Heckman & Karapakula (2019) の研究では,ペリー未就学児プロジェクトの世代間効果を記録している.同プロジェクトは1960年代の無作為化社会実験で,この実験からは社会的に不利な子供たちに高品質の幼児教育経験を提供している.処置集団だった子供たちがのちに親となってさずかった子供たちは,対照集団の子供たちに比べて健康状態にすぐれ,より高等な教育を修了し,より雇用されやすかった.アカゲザルで,幼児期に母親がいることによる有利は子供たちの健康の改善とより高い社会的地位につながったのと同様に,ヒトでも,幼児期に高品質の幼児教育による有利は子供たちのよりよい健康状態と社会的な結果につながった.

ただ,ここでいう「処置」の意味が微妙にズレている点に注意しよう.猿の実験では母親に育てられることの方がよくて保育所は悪いのに対して,ヒトの実験では保育所の方がよい.ヒトの実験でもさまざまな時と場所にまたがって〔仮説が広く成り立つ〕外的妥当性を正当化するのは難しいのに,種をまたいで外的妥当性を正当化するのはいっそう危うい飛躍になってしまう.


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