アレックス・タバロック 「宇宙旅行への道は険し」(2014年11月1日)

●Alex Tabarrok, “Space Tourism Still Not Ready for Flight”(Marginal Revolution, November 1, 2014)


「あと10年もしたら、10万人が宇宙旅行に出かけることになる」とバート・ルータン(Burt Rutan)が予測したのは10年前。その当時、私は「宇宙旅行はもうすぐそこに迫っているか?」(“Is Space Tourism Ready for Takeoff?”)と題した記事を書いて、かなりの反響を呼んだ。私の答えは「ノー」というものだったが、それは10年後の今も変わらない。

宇宙旅行をめぐるビジョン(構想)の数々にはワクワクさせられるが、宇宙旅行はビジネスとして成り立つまでにはまだ至っていないと言わざるを得ない。障害となっているのは、金銭(費用)面の問題ではなく――宇宙旅行のためならば、大枚をはたくことも厭わない大富豪は大勢いる――、安全面の問題だ。端的に言って、宇宙ロケットは、人類がこれまでに開発した移動手段の中でも一番危険な乗り物である。アメリカでは1980年以降に地球の軌道を回るロケット(スペースシャトルは除く)が計440機打ち上げられているが、そのうちのおよそ5%は完全な失敗に終わっている。途中で爆発したり、軌道から大きく外れて制御不能になっているのだ。それに比べると、スペースシャトルはいくらか好成績を残している。スペースシャトルの打ち上げはこれまでに計113回行われているが、そのうち事故が発生したのは2回。宇宙旅行ができるなら100~200万ドルくらい払っても構わないという大富豪は大勢いるだろうが、そのうちで事故死する確率が2~5%に上る乗り物に乗る覚悟を持っているのはどのくらいいるだろうか?

これまでにロケット産業は、「経験(実践)を通じた学習」(“learning by doing”)――あるいは、「爆発を通じた学習」?――を積んできていることも確かだ。1960年代には、ロケットの事故発生率は12%という驚くほどの高さだった。しかしながら、その他の産業においてと同様に、「経験を通じた学習」のおかげで、ロケットの事故発生率はその後の10年で劇的に低下した。だが、80年代以降になると、事故発生率の低下ペースは緩やかになってきている。1970年代には、ロケットの事故発生率は5.2%にまで低下することになったが、その後のおよそ30年間にわたって事故発生率は4~5%のあたりをウロチョロしているのだ。今後もゆっくりとしたペースではあるが、着実に改善が続く可能性は勿論ある。しかしながら、ロケット技術の世界で近い将来に飛躍的な進歩が生じるのを信ずべき理由は、ほとんどないのだ。

今週に入って、ロケット絡みの悲劇が2件発生した。そのうちの一つでは、人命が失われている。ロケットは、依然として安全面で問題を抱えており、宇宙への観光旅行が実現するのはまだ遠い話のようだ。昨日(10月31日)墜落したヴァージン・ギャラクティック社の宇宙船「スペースシップ2」は、23回目の動力飛行試験中だったらしいが、事故発生率5%という数字そのままの結果となっている。ヴァージン・ギャラクティック社は、過去(2007年)にもロケットエンジンのテスト中に事故を起こしており、その際には3名の命が失われている。

10年前の記事でも指摘したことだが、「お腹の出た金満家がカメラ片手に宇宙を旅する」観光旅行を実現するには、事故発生率が0.01%(1万分の1の確率)でも高過ぎるだろう。現状は、事故発生率0.01%からもまだまだ程遠い状況にあるのだ。

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