経済学101は主に皆様の寄付によって賄われています。温かい支援をお待ちしています

エミリア・シメオノワ, ランドール・アキー, ジョン・ホルバイン, ウィリアム・E・コープランド, E・ジェーン・コステロ「投票率が低いとな? 家計所得を増やせば宜しかろう」(2018年7月15日)

Emilia Simeonova, Randall Akee, John Holbein, William E. Copeland, E. Jane Costello, “Low voter turnout? Increasing household income may help“, (VOX, 15 July 2018)


少なくとも合衆国について、すでに政治学者は結論的に示している。すなわち、金持ちほど投票する、と。しかしこれは厄介なインプリケーションをはらんでいる。ある政府現金給付プログラムのデータを活用した本稿では、所得分布の下半分に位置する家計のうち、追加的所得を受領していたところで育った子供は、かれらの対応者に当たるこうした給付を受領しなかった者とくらべ、成人になってから投票を行う傾向が高かったことを示してゆく。この結果が示唆するのは、所得格差の縮減をめざす活動が市民参加ギャップの縮減という思わぬ副次効果をもつ可能性である。

投票は、あらゆる民主国における市民の基本的な権利であり、責任である。だが合衆国における投票率は中間選挙についてみわたすと40%ほど、大統領選挙については60%ほどとなっている。つまり、投票資格をもつ者10人のうち、少なくとも4人、多くて6人が、投票を棄権していることになる。これは合衆国に固有な現象ではない – 経済的に発展した民主主義国のうち、最近の選挙への参加率が70%を下回るものには、フランス・カナダ・アイルランド・スペイン・英国も含まれる (Pew Research 2018)。

政治学者はすでに結論的に示しているが、少なくとも合衆国では、投票参加は所得と強く相関している (例: Verba et al. 1995)。金持ちほど投票するのである。このような形の社会格差は色々なレベルで厄介である。実際的観点からいえば、こうした傾向性は代議制統治に歪を生み出すような下流効果 (downstream effects) をもつようだ – つまり公共政策に富裕層寄りのバイアスをかける傾向性を、強化してしまうのだ (Schlozman et al. 2012, Griffin and Newman 2005, Gilens 2012, Bartels 2009)。じっさいこの点を論じた最も説得力のある研究では、誰が選挙に参加するかは、誰が当選するか、当選した人がどんな政策を施行するかに影響することが示される傾向がある (Fowler 2013, Griffin and Newman 2005, Leighley and Nagler 2013, Madestam et al. 2013)。

投票率にみられるこの所得勾配は、財政的なリソースと市民参加のあいだの因果関係に由来するのだろうか? それとも所得はなにか別の、たとえば家計がもつ政治への関心といった特性と相関していて、これが観察される相関の背後にひそむ真の駆動因となっているのだろうか? とはいえ家計がもつ他の選好には作用しないような無作為ショックは見当たらないから、これら二説を分離するのは難しい。

そんななか我々の最近の論文はつぎのことを明らかにしている。すなわち、ある擬似実験的な政府現金給付のために非稼得所得にたいするプラスの外的ショックを経験した家計で育った子供は、成人になってから投票する傾向がより高く、しかもこのことは親が投票をしていなかったばあいにもあてはまるのである (Akee et al. 2018)。所得が増加するにつれ追加的所得が市民参加に及ぼす効果は逓減してゆく旨を予測する理論とも整合的だが、この発見が妥当するのは、同無条件給付開始前の時点で所得分布の下半分に位置していた家計の子供のみである。

本所得給付は、あるアメリカンインディアン居留地で新たに開設されたゲーミング事業から発生したもので、初期段階所得のいかんを問わず、部族として登録されている全ての 〔成人〕 構成員に分配された。我々は、部族として登録されている構成員とその子供、および周辺カウンティに居住するアメリカンインディアン以外の人 (本給付の影響を受けていない) を対象とした、二十年以上にわたるパネルデータを活用しつつ、これを投票権者登録名簿と関連付けた。なお、子供が未成年 (minors) であるあいだに受領された有資格家計あたりの平均給付額は、一年あたり$4,700ほど。給付以前の段階で本サンプル中の家計が得ていた平均年間所得は、$27,000ほどである。

同一家計における親と子供の投票パターンを検討した結果、これら二者のあいだの強い相関を示すエビデンスが得られた。貧しい親ほど投票する傾向が低く、その子供についても同じことがいえるのである。しかし驚くべき発見があった。すなわち、子供の青年期 (adolescent years) に家計所得が増加すると、親と子供の投票行動のあいだにあるこの関係に乱れが生ずるのである。

家計所得が成人した子供の投票参加に及ぼすプラスの影響は、初期段階でより貧しかった世帯の子供に牽引されている

我々は、初期段階の所得分布の下半分に出自をもつ子供は、かれらの対応者に当たる 〈青年期に増加した所得を受領していなかった者〉 とくらべ、成人になってから投票する確率が10から20%ポイント高いことを突き止めた。図1に、初期段階でメディアン所得を上回っていた家計と下回っていた家計、それぞれを出自とする子供の投票行動にたいし、所得給付がどのように影響するのかを示す。

図 1 成人期に入った子供の投票確率

: 推定値はすべて2002年選挙との比較

以上と関連した分析では、ひとたび追加家計所得を考慮に入れると、親と子供の投票確率のあいだにみられる関係の強さが減退することを示した。ひとつのきわめて有力な解釈は、〈家計所得の増加が投票行動の間世代的伝播を乱している、少なくとも初期段階で投票する見込みが最も薄かった者についてはそうなっている〉というものだ。

大人の投票行動は変化しない

また、親は自分の投票行動を家計所得の増加に反応して変化させるのか、この点も検証している。しかしその種の効果は確認されなかった。図2には、観測値を前述の所得増加経験の有無に従い区別したばあいの、親の投票確率の差を、給付が始まる前の期間 (1996年にさきだつ時期) とその後の時期についてプロットしている。図が明らかにするように、これらふたつのグループ間に親の投票行為への画一的な影響はみられない。

ここから我々は結論する。すなわち、青年期の家計所得は、子供の後年の投票確率に作用するが、大人にはなんら影響をもたないのである。これは、投票性向が人生の比較的早い時期に決まってしまう可能性を示唆する。したがって、情報キャンペーンや追加所得など、成人期の介入には多々あるが、これらには投票率に直結する影響は殆どないのかもしれない。

図 2 家計所得増加を経験した親の投票行為 (1992-2014)

: 推定値はすべて1996年との比較

追加所得はどのような仕組みで子供の将来の投票参加を改善させるのか?

これら問題にたいする現代的な実証研究は比較的少なく、我々が記述した効果をもたらすメカニズムはよく解っていない。とはいえ我々は、前述の発見を説明できる可能性のある幾つかの仮説を提起している。一、無条件給付を受領した世帯は転居する傾向がより低かった。追加所得は、子供が有意義な社会コネクションを形成し維持しうるだけの長い期間、世帯がひとつの場所にとどまる見込みを引き上げることで、子供の社会資本を向上させる可能性がある。そうしたことから、子供は自らが気に掛けるコミュニティにおける市民参加にたいし、より大きな潜在的便益を見い出すようになる可能性がある。二、我々は、初期段階でより貧しく、そして所得給付を受領した家計を出自とする子供ほど、より多くの教育を修了している傾向が高いことも突き止めた。これら両経路は – 社会資本の増加と人的資本の増加 – ともに投票確率の増加に結実するのではないか。

合衆国では、不利な立場にある社会経済的ステータスの低い世帯の投票参加を増加させようと、数多くの活動がおこなわれてきた。さまざまな特別プログラムが、市民にたいし、種々の情報を提供し、社会的ナッジを施してきた。残念ながら、こうした介入の殆どは、不利な立場にある人口層にたいし見るべき効果をもたらしていないばかりか、あるいはかえって裏目に出て参加ギャップを悪化させてしまったことさえある。そんななか今回の研究結果は、所得格差の縮減をめざす活動が、これ自体近年の民主主義国にとって大きなしかもなお大きくなり続けている負担であるものの、市民参加ギャップの縮減に思わぬ副次効果をもたらす可能性を示唆する。興味深いではないか。将来の所得格差を縮めてくれるだろう政策を後押しする一つの方法は、どうやら今ここで子供を貧困から掬い出すことであるらしいのだ。

参考文献

Akee, R, W Copeland, E J Costello, J B Holbein and E Simeonova (2018), “Family Income and the Intergenerational Transmission of Voting Behavior: Evidence from an Income Intervention”, NBER Working Paper No. 24770.

Bartels, L M (2009), Unequal democracy: The political economy of the new gilded age, Princeton University Press.

Desilver, D (2018) “U.S. trails most developed countries in voter turnout”, Pew Research Center, 21 May.

Fowler, A (2013), “Electoral and Policy Consequences of Voter Turnout: Evidence from Compulsory Voting in Australia”, Quarterly Journal of Political Science 8(2): 159-182.

Gilens, M (2012), Affluence and influence: Economic inequality and political power in America. Princeton University Press.

Griffin, J D and B Newman (2005), “Are voters better represented?”, The Journal of Politics 67(4): 1206-1227.

Leighley, J E and J Nagler (2013), Who votes now?: Demographics, issues, inequality, and turnout in the United States, Princeton University Press.

Madestam, A, D Shoag, S Veuger, and D Yanagizawa-Drott (2013), “Do Political Protests Matter? Evidence from the Tea Party Movement”, The Quarterly Journal of Economics 128(4): 1633-1685.

Schlozman, K L, S Verba, and H E Brady (2012), The Unheavenly chorus: Unequal Political Voice and the Broken Promise of American Democracy, Princeton University Press.

Verba, S, K L Schlozman, and H E Brady (1995), Voice and equality: Civic voluntarism in American politics, Harvard University Press.

Verba, S, and N H Nie (1987), Participation in America: Political democracy and social equality, University of Chicago Press.

 

 

 

 


コメントを残す