クルーグマン 金のサイバー足枷

Paul Krugman, “Golden Cyberfetters“, The New York Times, September 7, 2011

Gavin Andresen, developer of Bitcoin

ここ数ヶ月、ビットコインというある種の私的なサイバー貨幣を創造する試みついて、たくさんの人が私に感想を求めてきた。そして今度は、ブルームバーグ・ニュースのアレクサンダー・コワルスキが、ジェームズ・スロウィッキーのビットコインに関する論文について知らせてくれた。非常に面白い論文だ。

ビットコインに対する私の最初の反応は、「それって何が新しいの?」って感じだった。電子的に支払を行う方法なんていくらでもあるし、実際、従来の貨幣制度のかなりの部分はすでに仮想化していて、ドル紙幣のような緑の紙切れじゃなくて、デジタルな会計処理に頼ってる。でも、違いがあることもわかった。ビットコインは、仮想通貨の価値を緑の紙切れとの換算で固定する代わりに、サイバー通貨の総量を一定にして、ドル換算の価値はフロート制にしてる。ビットコインは実質的に、独自の私的金本位制の世界を創り出していて、その中では、貨幣供給量が決まっていて印刷機で増やされることはない。

で、どうなったか。このサイバー通貨のドル価値は激しく変動したけど、総体的には上昇してきた。だからビットコインを買うことは、少なくとも今のところは、よい投資となっている。

でも、だからってこの実験が成功かと言ったら、違うだろうね。私たちが貨幣制度に求めるものは、お金をため込んでる人を金持ちにすることじゃない。取引を便利にして、経済全体を豊かにすることだ。これはビットコインで起きていることとはまるで違う。

ドルの価値は過去数年比較的安定していたことを思い出そう。確かに、2008~2009年にはややデフレだったし、その後商品価格が反発したときはややインフレだったが、全体的な消費者物価は3年前よりほんのちょっと高いだけだ。つまり、物価をビットコインに換算すれば、急落してることになる。ビットコイン経済では、実質的に途方もないデフレが起こっているのだ。

そしてだからこそ、仮想通貨を使わずにため込むインセンティブがあった。ビットコインで行われた実際の取引の価値は、上がるどころか下がっているのだ。「ビットコイン内総生産」は実質的に急激に下落してきた。

だから、この実験が通貨体制について何か教えてくれるとすれば、新金本位制的なものに対して不利な材料が増えたということだろう。というのも、この実験は、このような本位制が、貨幣の保有、デフレ、不況にいかに弱いかということを示しているからだ。

© The New York Times News Service

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