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サイモン・レン=ルイス「イギリスは本当に「破綻寸前」だったのか?」(2020年6月25日)

[Simon Wren-Lewis, “Did the UK really almost go bankrupt?” Mainly Macro, June 25, 2020]

訳者の註記:イングランド銀行総裁アンドリュー・ベイリーが Sky News のインタビューに答えて「もしも中央銀行が介入していなかったら政府は資金調達に苦しんだだろう」と発言して,そこから「イギリス政府は3月に破綻寸前だった」と報道されました.このブログは,その一件についての話です.


このブログの記事はいつも週の前半に投稿しているけれども,出すつもりでいた記事が諸事情で止まっている.投稿するまで,もう一日かかりそうだ.一方で,『ガーディアン』紙の寄稿をようやくすませたところだ.こちらの文章では,イングランド銀行総裁〔アンドリュー・ベイリー〕のインタビューをとりあげた.総裁の発言は,のちに「イギリスが破綻寸前」だというナンセンスな見出しをつけて報じられている.拙稿では,「破綻寸前」云々の件がナンセンスである理由を解説している.ただ,ここでひとつ註記を加えておいた方がよさそうだ.「破綻寸前」だといった類いの話は古典的なメディアのマクロ経済学で,「政府は家計みたいなもの」という考え方に訴えかける.

フランシス・コッポラが同じ論点を別の切り口で述べている.この3月に起きていたことは,短期的な流動性の問題だと記述できる.イギリス〔政府〕が支払い不能になるきざしはなかった.さらに,自国通貨をもつ国々に関して大事な点は,みずからお金をつくりだせるので流動性問題はけっして起こらない,ということだ.また,フランシスは次の点も述べている――〔「イギリスは破綻寸前」云々と見出しで伝えた〕記事のどれひとつとして,同じ時期に市中銀行が脆弱になっていた点を語っていなかった.グローバル金融危機を経た世の中で,これは大ニュースになりそうに思われるのではなかろうか.フランシスのブログから引用しよう:

「インタビューで,聞き手たちはひたすら政府の資金調達に関心を絞っていた.そのため,金融市場の操業を円滑にするイングランド銀行の重大責務に関する大事な問題に注意が向けられないままに終わった.金融市場が2008年当時のように崩壊したら,全世界が苦しむ.各国の中央銀行は,同じ状況が2020年3月に起きていたのを目の当たりにして,その阻止に動いた.中央銀行による対応は非常に効果的だった.ベイリー〔中銀総裁〕が本当に語りたかったのはこの話だったように私には思える.だが,インタビューの聞き手たちは,資金調達とイングランド銀行の独立性の問題に話をもっていこうとしていた.」

一部には,これは財政当局の優越 (fiscal dominance) の一例だと主張する向きもあるが,それはちがう.この点をはっきりさせるために,拙稿では財政当局の優越の例を挙げている.それは,拙策なのを承知しながらもイングランド銀行が〔政府の〕借り入れ金の供給を余儀なくされる場合だ.パンデミックのさなかに生じた市場の混乱に対処するのは,財政当局の優越に該当しない.ただ――こちらはもっと異論の余地が大きいのだが――財政当局の優越が起こるのを恐れて,中央銀行の総裁が財政政策を議論するさいに物事をあまり客観的に見られなくなる場合はあるかもしれない,とは思う.

では,どうしてメディアは市場で短期的に生じた混乱を〔「破綻寸前」などと〕見誤った話を流布したのだろうか? おそらくは,「目的がどうであろうと政府の財政赤字は悪いもの」というメディアのマクロ経済学にすべて帰着するのかもしれない.(ただし,ジャーナリストが誰も彼もメディアマクロ経済学の考え方をとるわけではない点は強調しておこう).パンデミックの結果,政府の赤字は巨額に膨らんでいる.メディアには,これを見て「予想通りの事態」とは記さずに恐ろしげに書き立てている人々がいる.それで,メディアは自説の裏付けをもとめて市場に目を向けているのかもしれない.ベイリー総裁のインタビューがどうしてああいう風に書かれることになったのか,その理由についてメディア人がどう考えているのか,私としては気になるところだ.


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