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サイモン・レン=ルイス「ネオリベラリズム,企業,富の格差」(2021年9月21日)

[Simon Wren-Lewis, “Neoliberalism, Corporations and Wealth Inequality,” Mainly Macro, September 21, 2021]

ここで述べる考えは,James Meadway がネオリベラリズムについて書いたすばらしい論考と Terry Hathaway の「企業の力としてのネオリベラリズム」に触発されたものだ.どちらも,強くおすすめする.言うまでもなく,ここで私が述べることにどちらの著者も強く反対するかもしれない.ここで述べることは,例によって「洗練されていない」内容だ.

ネオリベラリズムと企業

ネオリベラリズムの概念に懐疑的な人々にひとつ証拠を提示しなくてはいけないとしたら,私なら,「投資家対国家の紛争解決」(ISDS) に目を向ける.これらは,貿易や投資の取り引きの一環として設けられた条項で,ようするに,政府が企業の不利になることをした場合に企業が政府を訴えられるようにするものだ.政府に対して企業が起こした訴訟の具体例は,ここで参照できる.こうした対応は,より小さな国家に対してとられてきた.だが,企業に訴えられた政府には,ドイツ(原子力発電をやめたことをめぐって)やカナダ(危険な化学物質を禁止したことをめぐって)もある.

企業がこうした協定をつくる動機は単純で,ようするに投資のリスク軽減をねらっている.一方,政府が協定に署名する動機は,おそらく,投資や貿易を円滑にすることにある.だが,政府が危険な物質を禁止したからといって,その物質を用いている企業に政府が訴えられうるというのは,実に奇妙なことに思える.他の事情がどうであれ,これにより,その政府と企業のそれぞれに誤った誘因(インセンティブ)が生じる.

なぜ ISDS の例を選んだかといえば,企業が政府に対して法的な力をもつ事例になっているからだ.この企業の力の強化こそ,実際に行われているネオリベラリズムを理解するうえでの核心にあたると私は思う.これには,法律を用いて政府を訴えることも関わっているかもしれないし,あるいは,政府を利用して企業の力を強化することが関わっているかもしれない.

いま述べたことと私の事例の選択は,多くの人にとって意外かもしれない.「ネオリベラリズムの眼目とはひとえに市場を優先することにある」とよく言われているからだ.たしかに,Mirowski が「ネオリベラルの思想共同体」(Neoliberal Thought Collective) と呼ぶ人々の多くや,ネオリベラリズムについて論評している人々の多くは,ネオリベラリズムをそう見ている.ここで大事なのは,理論としてのネオリベラリズムと実践されているネオリベラリズムとの区別だというのが,私の主張だ.もちろん,双方が互いに影響しあってはいる.だが,両者は別物だ.実践版ネオリベラリズムのあらゆる事例とは言わないまでも,多くの事例では,ネオリベラリズムは会社・大企業の力を強化してきた.

なにより明快な事例は,労働組合主義だと私は見ている.アメリカ・イギリスにおいて,ネオリベラリズム到来の中核をなしていたのは労組運動への攻撃だった点について,誰もが同意するだろう.これは市場とどんな関わりがあるだろう? 標準的な回答は,「自由市場の稼働を労組が阻害する」というものだ.だが,経済学者に言わせれば,独占も同様だし,企業どうしの不完全競争のあらゆる形態に当てはまる.この点について,実践版ネオリベラリズムは沈黙しているように思える.

この問題に取り組むべく,市場ネオリベラルと企業ネオリベラルについて Colin Crouch が語っている.だが,これではとても解決されない.1930年代から1980年代にかけて,競争の長所と独占打破の必要に関するさまざまな考えがシカゴ大学内部でどう変化したかを検討した  Will Davies のすぐれた論文を参照すると,企業有利にこの矛盾が解消されたのがわかる.(この件や問題の他の諸相については,ここで述べた.) これは,利害が思想に影響した好例と言える.ここで述べたように,ネオリベラル政府が大企業の利害を優先して市場を無視する姿勢をとっていたのは,これだけではないと思う.

これを脇に置いても,市場における自社の立場がゆるがされないかぎり市場優位の思想を企業が好む理由は,実にはっきりしている.なにより,市場で企業はお金を稼いでいる.市場の規制などのようにこれを邪魔するものはなんであれ避けたがるのは,当然だ.同じく,いままで政府が手がけてきた分野にまで市場の射程を広げたがる企業も一部に現れる.

同論文の p.22 で,Mirowski はネオリベラル思想に関連した考えを11項目列挙している.11項目のどれをとってみても,企業利害に相反するものはないと私は思う.それどころか, 9番目の項目にはこうある――「企業は間違わない――定義により」! 企業の利益と力を保護し強化するイデオロギーとしてネオリベラリズムを考えることと,このことは少なくとも両立はする.もちろん,だからと言って,企業利益を強化することだけがネオリベラリズムの眼目だということにはならないし,イデオロギーとしてのネオリベラリズムが企業の利害に相反する行動をうっかりとってしまうことがありえないわけでもない(後述).

ネオリベラリズムが到来するまで,企業が政治的に有力になったためしがなかったかといえば,もちろんそんなことはない.19世紀に企業が出現するとともに,企業の力と労働者や民主的な力とがポランニー流の闘争を始めている.アメリカの「金ぴか時代」や軍産複合体は「ネオリベラル時代」以前に強力な企業の力が見られた事例に当たるかもしれない.これと対照的に,第二次大戦後の企業は相対的に弱かった.このことがネオリベラル・イデオロギーを触発する一助になったのは疑いない.

ネオリベラリズム,富の格差,危機

ネオリベラル政府の先駆者となったのはサッチャー政権とレーガン政権だった.両者がとった重要な行動のひとつは,高所得層への減税だった.高所得層減税によって CEO たちがいっそう厳しく交渉するのが促され,CEO の収入がよりいっそう高くなるのにつながった件については,他の場所で語ったことがある.だが,高所得層への税率を下げると,それとは別の効果も生じる.企業がお金を配当に回す誘因が働くようになるのが,それだ.当然,そうした配当金は,企業の所有者である株主たちの手に渡る.アメリカでは,配当所得が GDP に占める割合は下記のようになっている:

1985年に所得税の最高税率は 90% から 50% にまで切り下げられると,80年代の終わりにかけて,アメリカで国民所得に占める配当金の割合が増加しはじめた.(GDP に占める割合は低いものの,当然ながら企業利益の割合はこれよりも大きい.) この割合増加は今日まで続いている.もちろん,集団としての株主たちは配当の水準を決めるわけではない.だが,CEO に報酬を与える手段のひとつにストックオプションを用いる傾向が同時期にはじまり,これにより,配当の水準を選ぶ人物に配当を引き上げることへの誘因が生じることになった.

配当の割合が長期的に高いままになると,株式からの利益が上がる.すると,それが株価上昇につながる.Daniel L. Greenwald, Martin Lettau & Sydney C. Ludvigson による最近の研究は,この点に関してとりわけ興味を引く.彼らの研究では,1952年から1988年の期間に株式市場の成長が産出の伸びですべて説明できたことを示している.これと対照的に,1989年から2017年の期間では,34兆ドルの巨額にのぼる不動産資産(2017年代4四半期のドル換算)がアメリカの企業部門で創出されており,この伸びの 44% は株主への報酬の再配分によるものとなっている.そして,株式市場の値上がりによって,〔最富裕層〕1%の富が占める割合が増加した.

事態はさらに悪い.この研究の推定によれば,この再配分の大半は,労働報酬を犠牲にしてなされている.配当が増加したために株式市場が好況を呈しただけでなく,その結果として労働者たちの賃金が下がったのだ.1952年~88年の期間と対照的に,株式市場の値上がりのうち,産出の伸びで説明される割合は 25% にすぎない.(株式市場の値上がりでもっと小さな役割を果たした要因として,リスク価格の低下(18% の寄与)と長期停滞にともなう金利低下 (14%) が挙げられる.)

企業の力を強化したイデオロギーにより,企業所有者たちの所得と富の増加につながったのも,おそらく,驚くに当たらないだろう.だが,前にも述べたように,少なくとも,ネオリベラリズムの影響力がもっとも強い2つの国では,これがネオリベラリズムの危機にもつながっている.

イギリスでは,企業の力にもっとも強烈な打撃を加えたのは,左派政権でも労組でもなく,他でもなくネオリベラリズムによって創り出された各種の要因だった.高所得と富により,金融投資の革新的な形態への需要が生まれる.金融規制緩和により,そうした新しい金融投資は増殖できるようになった.資金提供により EU 離脱を支援した人物や,ある事例では国民投票での離脱案勝利に直接に寄与した人物は誰だったかといえば,2人の非常に裕福なヘッジファンド・マネージャーたちだ(ロバート・マーサーポール・マーシャル).EU 離脱賛成票を投じるよう人々を誘導したのは,非常に裕福な新聞社オーナーたちだった.保守党への献金額上位の「リーダーズ・グループ」(首相・閣僚と定期的に会う人々)の4割以上は,その富を投資会社から得ている――金融・ヘッジファンド・民間銀行・未公開株式の組み合わせによって,富を得ている.

この意味で,EU 離脱とは,ごく一握りの人々の個人的金融資産というある種の資本が,イギリスにおける多数の企業という別のかたちの資本の利益の足を引っ張った事例だった.それまで企業の利益全般を支持し続けていた保守党がポピュリスト金権制に転じたのだ.アメリカのドナルド・トランプは,自由貿易を阻害し移民流入を制限することで,ネオリベラリズムの戦略から離れた.いずれも,企業全体の利益にならない行動だ [1].これがネオリベラリズムの行軍でたまたま生じた一時的障害なのか,それとも根本的な挑戦なのか――それは,これから明らかになるだろう.

原註

[1] 労働党政権の初期から,保守党は移民流入の削減について口先では語っていた.だが,ひとたび政権をとると,EU 離脱以前の保守党の連合とその政権は移民を実際に減らす施策をとるのに非常に及び腰だった.これが変わったのは,EU 離脱と EU 域内の移動の自由が終わったときだった.


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