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サイモン・レン=ルイス「パンデミックの経済的影響」(2020年3月2日)

[Simon Wren-Lewis, “The economic effects of a pandemic,” Mainly Macro, March 2, 2020]

10年少し前,医療の専門家たちから連絡をもらった.なんらかのインフルエンザ・パンデミックが発生した場合の経済的な影響を知りたいのだという.彼らが必要としていたのは,一般均衡での影響を見るためのマクロ経済モデルだった.1990年代に,私は小さなチームを率いて,COMPACT というモデルを構築していた.連絡をくれた専門家たちと私で論文を1本書き,のちに Health Economics に掲載された.論文では,それまでになされていた他の研究も参照している.

目下のコロナウイルス感染拡大は,私たちが研究したパンデミックとは特徴が異なっているだろうし,そもそもパンデミックにならないならそれにこしたことはない.(死亡率で見ると,私たちが検討した「基礎事例」と「重大事例」の中間にありそうだ.) それでも,いざ今回のコロナウイルスが世界規模のパンデミックになったとき,私たちがやった検討から得られる一般的な教訓が意義をもつだろうと思う.ひとつ但し書きをつけておくと,パンデミックに関して私たちはひとつ重要な仮定を置いている.それは,パンデミックが主に3ヶ月間の事態だという仮定だ.当然ながら,これから述べることは,パンデミックが短期間で終熄するかどうかに左右される.

最初に,私にとって基本中の基本となることを述べておくのがいいだろう.高い死亡率をもつどんなパンデミックであれ(今回のコロナウイルスはいまのところそのようだが),健康への影響の方が経済問題よりも重要だ.経済問題そのものは重要ではあるし,死者数に影響しない劇的な方策を避ける警告としても重要だ.しかし,半年を超えない期間に GDP が数パーセント減少することと死者の発生を防止することとの間に,意味のあるトレードオフはない.

まずは,経済学的な観点から見て重要度がいちばん低い事項からはじめよう.その事項とは,病気による就労者の欠勤が増えることによる生産の減少だ.なぜいちばん重要度が低いかと言えば,ひとつには,欠勤を埋め合わせるさまざまな方法を企業はもちあわせているからだ.四半期にわたって病気が広まっているときには,なおさらそうだ.たとえば,病気で休んでいた人たちが復帰したら,勤務時間を増やすことができる.その場合,コストは増えるし,一時的にいくらかインフレにもなるかもしれないが,中央銀行はこれを無視した方がいい.

パンデミックのこの「直接的な」影響は,その四半期の GDP をほんの数パーセントポイント減らすだろう.正確な数字がどうなるかを左右する要因としては,,病気になった人たちの人口比,イギリスでの死亡率が実際にどうなるか,そして病気にならないように欠勤する人たちの人数が挙げられる.パンデミック後の1年間に GDP に生じる影響はもっと少なく,だいたい 1% から 2% になる.そうなる理由を1つ挙げると,パンデミックが起きた四半期のあと,減少した在庫を企業が補充しそれまで遅れていた需要に追いつくことで,産出は増加するからだ.

この予測では,パンデミックが本格発生したときに学校が休校にならないと仮定している.休校にともなって,労働者たちのなかに子供たちの世話をする時間をとらざるをえなくなる人たちが出てくると,労働供給の減少はさらに大きくなる.私たちが置いた仮定のもとで考えると,4週間ほど休校になった場合,GDP への影響は最大で3倍まで増大しうる.四半期ずっと休校になった場合には,さらにその2倍になる.「それはずいぶん大きい」と思う人は,思い出してほしい.全国的な休校は,感染した人だけでなく子供をもつすべての人たちに影響するのだ.

ただ,すべての学校が3ヶ月間休校になって,病気でなくても大勢の人たちが仕事を避けるようになった場合にも,1年間に生じる GDP の減少は最大でも 5% を超えないだろう.これはつまり,四半期にわたってかなり深刻な景気後退が起こるということだが,ひとたびパンデミックが終熄したあとに経済が完全な稼働状態にまで復帰できない理由はひとつもない.通常の景気後退とちがって,産出減少の原因に関する情報は明確で,したがって産出減少がいつ終わるのかも明確だ.

いまの話では,まだ感染していない消費者たちが行動を変えないと仮定している.徐々に拡大するパンデミックでは,これは当てはまりそうにない.この研究をやってみて私が学んだ最重要の教訓は,「パンデミックは必ずしも供給側へのショックにとどまらない」ということだった.パンデミックは需要側へのショックにもなりうる.消費者の行動しだいでどこか特定の部門がとくに強く打撃を受けるショックだ.なぜそうなるかと言うと,今日の消費は,その多くがいわば社交的なものとなっているからだ.つまり,消費の多くは,他人とのふれあいをもたらすことをする消費となっている.パブに出かけたりレストランに出かけたりフットボールの試合を観戦したり旅行したりといった消費がこれに当たる.対人的な接触をともない,しかも延期しやすい消費サービス(e.g. 散髪)を提供する他の部門も,打撃を受けるかもしれない.

感染を心配してこの社交的な消費を切り詰める人たちがある程度以上に多くなると,これまで論じてきた数字よりも経済的影響はいっそう深刻になるだろう.深刻になる理由のひとつには,永続的な損失となる部分があるということが挙げられる.ひとたびパンデミックが終熄したら,それまで自宅にこもって控えていた外食の回数を少しばかり増やすかもしれない.それでも,年間をとおして見ると,外食の消費は純減になるだろう.この分析をやってみたときに気づいたのは,私たちの消費のいかに多くが社交的なものか,という点だった.

だからこそ,感染しないようにと人々が社交的な消費を減らしたとき,GDP への影響はもっとも大きくなる.ただ,社交的な消費の減少はあらゆるシナリオで一律に増大するわけではない.理由は単純で,供給と需要は相補的だからだ.学校が休校になって仕事を休む時間を人々が増やして供給側へのショックが増大した場合にも,需要側へのショックが打撃を与える範囲はそれよりも小さい.さまざまな事態を検討しても,年間の GDP の減少は最大で 6% だった.

伝統的な金融・財政政策で,社交的な消費の減少を相殺できるだろうか? 部分的にしか相殺はできない.なぜなら,消費の減少は特定部門に集中するからだ.さらに重要なのは――これは以前の研究で検討しなかったのだが――需要が突然に減少した事態に対応しなくてはいけなくなった企業への融資を銀行が提供できなかったときに起こる事態だ.すでに負債を抱えてる企業のなかには,追加的な短期融資に対処できないかもしれないと銀行に判断されるところが出てくるかもしれない.そうなると,パンデミックのさなかに企業の閉業が生じることになる.

世界の株式市場の暴落は,この観点で見るべきだ.マクロ経済の観点で見れば,これは1回きりのショックだ.その点で,最近の株式市場の反応が度を過ぎているように見えるという Martin Sandbu の意見は正しい.ただ,社交的な消費の一時的減少によって多くの企業が財務的なリスクを抱えると,株式リスクプレミアムの増大がいっそう強まる.これは,これまでに生じている株式市場の急落を説明する一助になる.(なぜ「一助になる」(‘helps’) とわざわざ入れているかというと,主要な株式指数に出てこない中小の企業が多大な影響を受けるからだ.)

もしも私が中央銀行や政府を運営していたなら,パンデミックのさなかに企業を倒産に追いやらないようにする方法について銀行と話し合いをすでに始めていることだろう.

だが,経済問題は健康にも影響しうる.たんに国民医療サービス (NHS) のリソースの観点で影響が生じるだけにとどまらない.少ない割合ながら,自営業者には疾病手当がないだろうし,金銭的なクッションがない人たちは厳しい状況になるだろう.パンデミックの拡大に関して懸念される事柄の1つに,感染してしまったときにも労働者たちが自らを他人から隔離するだけのお金が出せない事態がある.もしも私が政府の人間なら,コロナウイルスの症状が出たときにそうした労働者たちが受けられる病欠手当のようなものを設けるのを検討しているところだ.

また,公共サービスや公共施設の従業員が病気にかかりだしたときにもサービスや施設の運営を継続することも,政府は考える必要がある.それどころか,パンデミックに備えてすでに政府がやっていてしかるべき事柄はたくさんある.政府が先手を打って考え行動する必要があるのは,まさにこういうときだ.イギリスアメリカに暮らす我々市民は,必要なことを政府がやると確信できるだろうか? コロナウイルスから得られる教訓のひとつは,「日頃から専門家を無視する政治家たちを政権にけっして就けないこと」かもしれない.


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