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サイモン・レン=ルイス「政府予算と医療」(2017年2月28日)

[Simon Wren-Lewis, “The Budget and Health Care,” Mainly Macro, February 28, 2017]

国民医療制度 (NHS) と社会的ケアへの現在の支出を大幅に増やすべき理由は明白だ.いくつかデータを示そう.1つ目は,イギリスの医療支出が GDP に占める割合が長期間にどう変わってきたのかを示す OECD のデータだ(出典).

これを見てもらうと,〔医療支出を抑えて〕「NHS を守る」といった話が意図的に無視しようとしている重要な事実が明らかになる:医療支出が総 GDP に占める割合はこれまでずっと増加してきたという事実だ.このグラフには,さらに2つ注目すべき点がある.1つは,労働党政権のもとで医療支出が増加したこと,もう1つは〔保守党・自由民主党の〕連立政権のもとで支出がわずかながら減少したことだ.

近年とくに打撃を受けている医療分野は,地域の当局による社会的ケアへの支出だ(出典).

[Figure 5.12. イングランドの地域当局による社会的ケア支出の実質値(2016-2017年の物価で調整),および国民所得比の推移(1977-78年から2015-16年)]

TV ジャーナリズムで私がなんともいらだちを覚えているのが,こうした分野だ.NHS と医療で生じている現在の危機の原因に関する無数の報道やインタビューをこれまでに見てきたけれども,こういうグラフを目にした記憶がない.国民はグラフを読めないという暗黙の理解でも TV ネットワークにはあるのだろうか?

今後5年の医療支出総額は,GDP 比でいっそう減少すると見込まれている(出典).

[Figure 3: イングランドおよび UK での対 GDP 比でみた医療支出]

グラフの赤い縦棒は GDP 成長率の予想値を示し,青い縦棒は医療支出の予想成長率を示す.なにか手が打たれないかぎり,社会的ケアと NHS の現在の危機はますます悪化していくことだろう.

医療支出の増加は永続的であるべきで,その財源は恒久的な増税でまかなうべきだ.そうした限定的な増税による医療支出増加が国民に支持されるなら,そのやり方でやるのが妥当なように思える.NHS の現在の危機を考えると,予算でこれがなされなかったならば,いまの政権担当者たちの道義の評価をさらに引き下げるか,あるいは彼ら政権担当者たちには NHS を地に落ちさせる隠れた動機でもあるのだと想定せざるをえない.

そうした政策変更がマクロ経済におよぼす影響はどのようなものになるだろうか? 恒久的な増税を財源とする支出増加はなんら影響をもたらさないと予想する読者もいるかもしれない.「政府支出が増加する分だけ税もひとしく増加するのであり,この増加が恒久的だと知っている消費者は増税される分だけみずからの支出を減らすだろう.したがって,民間支出の減少は公共支出の追加で相殺される」――このように考えるわけだ.

それでは話が終わらないと考えるべき理由が2つある.第一に,当初,消費者たちは税の変化に合わせてみずからの消費を完全には調整しないらしい.税の変化が恒久的だと受け止めている場合にすらそうなのだ.消費者たちが予備的な貯蓄をしていて,課税後所得の一定割合をそうした貯蓄に回したいと望んでいる場合には,この行動はかなり合理的だ.結果として,増税を財源とする支出増加により短期的に経済活動のブーストが生じるかもしれない.増税が1~2年延期されれば,もちろんこのブーストはいっそう強化される.金利がいまなお下限にある状況では,そうした経済活動のブーストは歓迎すべきものとなるだろう.

第二に,医療支出は,それが取って代わる民間消費支出ほど輸入に依存していない見込みが大きい.そのため,GDP を恒久的にブーストしつつ現在の経常赤字は恒久的に減少させることとなるだろう.この2つの効果はそれを相殺する為替レート上昇につながるかもしれない.だが,その結果生じるだろうインフレ率の低下と,為替レート上昇が招く実質所得のブーストは,EU 離脱の影響を考えると好ましくなさそうだ.

最後に,以下の論点3つはおそらく明白だろうと思う.第一に,こうしたマクロ経済への有益な影響は,医療支出増加の正当化に必須ではないという意味で二次的なものだ.増税によってまかなう医療支出増加を支持する論拠は,それだけで圧倒的だ.第二に,政府借り入れによる公共投資の大幅増加はいますぐなされてしかるべきであり,医療支出増加はそれに追加されるものだ.10月に発表された予算案のこの方向への変化はケタが1つ足りなかった.第三に,予算不足に次いで NHS を脅かしている大きな要因は人員不足だ.人員の重要な供給源は EU なわけで,どうやら政府は事態をいっそう困難にすべくできうるかぎり全力を尽くしているらしい.


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