John H. Cochrane “Intellectual property and China” The Grumpy Economist, August 13, 2018
中国にもっと技術を移転しよう,とスコット・サムナーは書いており,ドン・ブドローが賛成のコメントを付けている。彼らは全くもって正しく,左にも右にもいる保護主義者たち共通の防衛ラインを貫かんとしている。
焦点となっているのは,中国がアメリカの技術を買うことができるか,あるいはアメリカ企業が中国に進出する条件として中国のパートナーに技術移転を行うことを要求できるかという点だ。スコットとドンの回答は私のそれと意を同じくしつつも,より洗練されている。すなわち,中国へのアクセスにそれに見合うだけの価値がないなら取引してはならないということだ。
技術や知的財産を盗むことは悪いことで止めなきゃならない,というのは正論だ。関税を課すのがそのための優れた方法であるかどうかはまた別のところでろんじよう。しかし,経済学的な観点からは,そうした正論すら疑問視されるのだ。
大事な点は,技術を売るということは車を売るのとは違うということだ。車を売ったらその車を使うことはできなくなる。誰かが車を盗んだらその車を使うことはできなくなる。しかし知識は全員が使うことができる。
スコットは次のように書いている。
情報の美点は,ひとりが使用することがほかの人の使用を妨げないということだ。
ほかの人の半分の時間で車のワックスがけをする方法を私が知っていて,誰か
我が家にこそこそと忍び込んでその秘訣を盗んだ場合,その誰かも半分の時間で自分の車をワックスがけできる。そして私も同じことができる。
そうであれば知識を盗むことの何が悪いのだろうか。ふむ,私がワックス事業を営んでいるならば,私のワックス技術の秘訣は利益を生んでくれる。ようするに私はワックス技術を独占しているということだ。
でも独占は悪いこととされているんではなかっただろうか。そう,そしてそれこそが技術移転はそんなに悪いものではないという理由の核心だ。そして技術を盗むこともまたそんなに悪いものではないのだ。
知的財産の盗用に反対する経済学的な主張もある・・・アメリカ企業の独占利益を守るというだけではないよ,もちろん。一定期間の独占利益は人々が新しいアイデアを発見するために必要なインセンティブだ。特許の保護にはそうした役割がある。人々に新しいアイデアを発見するインセンティブを与えるため,古いアイデアで独占利益を得る限られた時間をあげているのだ。
これは知的財産の販売に反対する主張ではないし,中国市場へのアクセスの見返りに知的財産を自発的に共有することに反対するものでもない。これはまた,ディズニーが未だにミッキーマウスを所有することができるよう著作権を無限に延長するというような多くの知的財産保護を擁護するものでもない。一部の知的財産保護は発明を誘発するよううまく作られている。おおくの知的財産保護はちょうどタクシー業の独占的保護,エピペン,その他多くのささいな独占と同じで,発明ではなくロビーイングのインセンティブを与えている。
おまけに新しいアイデアのためのインセンティブというのは,知的財産保護を擁護する唯一の根拠だ。中国が技術移転を求めていることにカンカンになっている人たちは,それがアメリカで新しい技術を生み出すインセンティブを損なっているという根拠を示す必要がある。
ドンとスコットはそれとは反対のことを示している。何かを発明できるなら,会社を始めてそれを中国人に売る,あるいはしばらくの間中国で荒稼ぎをすれば,それは発明のための大きなインセンティブになるだろう。
ドンは次のように言っている。
中国市場のような大きな市場へのアクセスの展望がアメリカ企業にとって十分に価値のあるもので,そのアクセスを確保するための費用的に見合った手段が中国政府に知的財産を移転することであるとアメリカ企業が考えるならば,アメリカ企業は知的財産として保護される新しいアイデアを生み出す方向に強いインセンティブを持つことだろう。
次はスコット。
…アメリカは自分が一番得意なこと,すなわち新しいアイデアを生み出し,そうしたアイデアを中国に売って利益を稼ぐことに集中できる。中国は自分が一番得意なこと,すなわちバッテリーのような財を製造することに集中し,その収入を使ってアメリカから更に新しいアイデアを買える。
最後に(といってもこの記事は簡単なまとめでしかないので,元の記事も読んでほしい),豊かな中国はアメリカの国益にとっても重要だ。この点は貿易戦争の擁護論において多く見過ごされているように思う。
中国は依然としてとてつもなく未開発な国だ。中国の1人あたりGDPは8,000ドル,アメリカは57,000ドルだ。貿易を減らすことは最善の場合でもネガティブサムゲームだ。私たちの得は彼らの損になる。関税が私たち全員の得になるという証拠は全くない。中国はアメリカから暴利を貪っているなどと泣き言を言うのは,超絶リア充でアメフトのキャプテンでもある高校三年生が,自分の昼飯代が小学生に盗まれたと文句を言っているようなものだ。
スコットは次のように言っている。
14億人の人々を中所得から高所得に引き上げることは,厚生としては莫大なプラスとなる。…なんで中国人の厚生を気にしなきゃならないんだと言う人もいるかもしれない。そういう場合にはなぜ友人や家族以外の人の厚生を気にしなければならないのかまず考えて欲しい。答えは簡単だ。それが良いことだからだ。
でもより豊かな中国は私たちの助けにもなる。
アメリカ企業がどこで一番利益を稼いでいるか見てみると,それが高所得国に大きく偏重しているのが分かる。だからオランダははるかに人口の多いタンザニアよりもアメリカ製品にとって大きな市場になっているのだ。Apple,ディズニー,GM,コカコーラのような会社の製品にとって,1人あたり所得は市場規模を決定する大きな要因となる。
14億人の裕福な中国人という市場は,アメリカ企業にとって(知的財産を)売りこむための途方もなく豊かな活動場所になるだろう。私たちは豊かな中国を歓迎すべきだ。例え私たちが14億人の同胞たる人類の厚生など気にかけない悪人だったとしてもそれは変わらない。
次の点も重要だ。
豊かな中国はより平和的な中国でもある可能性が高い。
スコットの原文を読んでほしい。ここでは国家安全保障の議論には立ち入らないことにするので。
貿易の議論では矛盾(偽善の丁寧な言い方)に溢れている。ある国の開発を手助けしようとする際にアメリカとNGOが最初に行うことは…技術移転だ。技術移転は受取手にとって良いことだとされているし,移転元の私たちにとっても良いことだとされている。さらに私たちは今トルコ,北朝鮮,イランを痛めつけるため…鉄鋼などの財の輸入を阻止している。
貿易について,なぜアメリカは鉄鋼素材に輸入税を課して鉄鋼製品に課さないのか未だに分からない。ある読者がコメントしたように,2つの鋼管を溶接してそれを製品と呼ぶのにどれだけの時間がかかるというのか。あるいは橋桁みたいに製品に分類されるものを輸入してそれを溶かしたら?これについて法律的な理由について知っている人がいたら是非教えてほしい。