スコット・サムナー「アイデンティティ派 vs. リベラル派」(2020年7月8日)

[Scott Sumner, “Identitarians vs. liberals,” TheMoneyIllusion, July 8, 2020]

[これよりずっといい記事を Econlog の方に書いてる.話題は貨幣経済学だ.]

多くの知識人は,政治というと「左派 vs. 右派」の切り口で考える.今日,左右よりももっと大きな分断が,アイデンティティ政治に取り憑かれている人々と,そうでない人々のあいだにある.つまり,アイデンティティ問題にとりつかれている左派イデオローグは,主流のリベラル派(進歩派と古典的リベラルの両方)よりも白人ナショナリストに近い.

マット・イグレシアスが冴えたツイートでこの概念を図解してる:

アイデンティティが他のなによりも重大だと考える点で,極左と極右は共通しているように,ぼくには思える.そして,その結果として,極左も極右も,「ジョージ・ワシントンとロバート・リーは同等にキャンセルされる(されない)に値する」という点で同意している.これと対照的に,左派でも右派でも,主流のリベラル派は,「アイデンティティ問題が重要な場合もあるが,大事な問題は他にもたくさんある」と信じている.

白人ナショナリストたちは,白人の権利を擁護するのに傾注するあまりに,しごくもっともらしい主張(「ワシントンの偉業は彼の欠点よりも重要だ」)にとどまらずに,もっと疑わしい主張にまで踏み込んでいる(「〔南北戦争での〕南部連合の指導者たちは尊敬されてしかるべきである」).

極左の人々は,こう信じている――「アイデンティティはとにかく重要なので,ワシントンはリーとだいたい同程度に汚らわしい.」

〔差別に抗議して国歌斉唱を拒否したアメフト選手の〕コリン・キャパニックのような,本心から抗議している黒人たちを追放すべきだと白人ナショナリストたちは信じているのに対して,スティーブン・ピンカーのような高名な科学者たちを追放しなくてはならないと極左は信じている.

この文章の末尾に,言論の自由を掲げる請願書に署名した人々のリストを掲載している.そこに並ぶ人名には,イデオロギー上のスペクトラムで左に位置する人たちも右に位置する人たちも含まれているのに注目しよう.(あと,どっかのお馬鹿さんにも注目.カノジョは,自分以外でどんな人たちが署名しているのか見たあとに署名を撤回した.) おそらく,新しいイデオロギー上のスペクトラムがあるんだろう.そして,ぼくらはまだそのスペクトラムを知らずにいる.

目下,ぼくは白人ナショナリストの方をより強く懸念している.彼らこそ,いまワシントンDC で権力の座についている人々だからだ.でも,「あと10~20年後には,最大の脅威は左派の「覚醒」(“woke”) 系の人々だろうよ」と主張する人がいても,ぼくとしては必ずしも異論はない.ぼくら(リベラル派)は,二正面作戦を戦っている.大事なことは,自分たちの原則を貫くこと,そして,愚かな「敵の敵はなんとか」式の議論にもとづいて左右どちらの極端にも引き寄せられないでいることだ.

左派の「覚醒」系の人たちは,穏健派を右派に追いやることでドナルド・トランプを利しているとよく言われる.たぶん,彼らは,白人ナショナリストと自分たちがリングに残ったなら,自分たちが勝利できると思っているんだろう.でも,そうだろうか? かつてドイツの共産党員たちは,ひとたび街角に混沌をもたらして穏健派の存在感をなくしてしまえば自分たちがファシストたちとの戦いに勝てるだろうと信じていたんじゃなかったっけ?

[類比の行き過ぎでぼくを責めないでほしい――ゴドウィンの法則ってやつだ.]

ひとつの解決法は,教育だ.と言っても,言論の自由を支持すべきだと学生たちに言い聞かせようってことじゃない――そんなことをやってもうまくいかないだろう.学生たちにあれこれ示して,言論の自由を信じるべきだと彼らに自分で考えさせる必要がある.戦間期にヨーロッパで右派イデオローグたちがやっていたことをあらゆる高校生に数週間にわたって見せるべきだ.それが終わったら,今度は数週間にわたって中国の紅衛兵やクメール・ルージュのような左翼・マオイストの各種運動を見せるべきだ.極右や極左が権力を掌握したときにどんなことが起こるか,彼らは理解する必要がある.あと,拷問がどんなものだったか鮮烈に細かく描写すること.学生は鍛えられる必要がある.世界は暴虐な場所なんだ.

追記その1.左派で思想統制をやってる人たちをどう考えるべきか,自分の考えは定まっていない.彼らはいろんなことを言うけれど,そのなかには,おかしくってあっさりとやっつけられる言い分もある.『オニオン』誌のユーモア記事から拾ってきたような言い分だ.ぼく個人にはそういう言い分は(いまのところ)響かないおかげで,なんだかすごい冗談みたいに思える.でも,かつて1990年代にぼくの知り合いで尊敬してた人たちが PCイズムにひどく(不公正に)痛手を負わされたのも思い出す.

追記その2.ベビーブーマー世代が要職に就いている企業の面接をいま受けているミレニアル世代の人たちって,キツイことを言われても平気で自虐ネタを好んで言うタフで不遜な人物を演じるインセンティブはないのかな? そうした方が,ベビーブーマー世代が人を雇うときにもっと安心できるんじゃないだろうか? それとも,「こんなヤツを雇ったら同僚たちといさかいを起こしかねない」って心配するかな? つまり,もう手遅れかな?〔すぐに「傷つけられた」とか言い出す若手ばかりになってるかなってこと〕 ぼくより雇用市場に近く接してる人たちの見解に興味がある.

追記その3.最近の NASCAR の「首つり縄」作り話は,世相を完璧に凝縮している.ありもしない人種差別がいたるところに見えてしまう人たちがいる一方で,白人がやらかした失敗のスケープゴートに黒人を差し出したがる人たちもいる.


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