日本がこれまで「流動性の罠」にはまったことがなくいまもはまっていないわけを示す具体例が,昨日,またひとつ出てきた.Bloomberg 記事から引用:
日銀総裁の黒田東彦は,10年物国債利回りの上限を2倍に引き上げて市場を驚かせた.これをきっかけに円高が急伸し,国債価格は低下.これにより,新総裁のもとでありうる政策正常化への下地づくりがすすむ.
これによって,日銀は10年物日本国債の利回り上限をそれまでの 0.25%上限から引き上げて,約 0.5% まで許容する..他方で,火曜の政策発表によれば,短期金利も長期金利も変更されず据え置きとなるという.
この動きによって,円高が急激に進んだ,明らかに,その効果がきわめて縮小的だったことの証しだ:
今回の日銀の行動によって,日本が次の10年間も2%インフレ目標未達を続ける見込みがいっそう大きくなった.これが政策の失敗なのは明白だ.しかも,他から強制されたのではないエラーだ.
ただ,これはべつに新しいことでもない:
- 2000年に,デフレが何年も続いたなかで日銀は利上げを実施して,デフレ継続を確定させた.
- 2006年に,それまで数年デフレが続いたなかで日銀は金利を引き上げ,マネタリーベースを急激に減らした(量的緩和の逆である量的引き締め).これにより,デフレ継続が確実になった.
今回の場合,日銀を非難するのは誤解のもとになる.おそらく黒田はこの動きに反対したのだろう.少なくとも,舞台裏では.だが,2023年前半に,黒田にかわってよりタカ派的な日銀総裁の就任が予定されている.そして,その国債価格目標プログラムは放棄される見込みが大きい.皮肉にも,長い目で見て日銀の新総裁は黒田よりもさらに低い名目金利をもたらすことだろう.
日本政府はこう主張するかもしれない――「政府としては 2% インフレ達成を願っているが,それはできないのです.」 彼らの行動によって,実は 2% インフレ率は実際の目標ではなく,ゼロ近傍のインフレ率で彼らが満足していることがかなりはっきりしてしまっている.それにもかかわらず,アメリカのマクロ経済学者たちの大半は,相変わらず,日本が流動性の罠に「はまって」いてインフレ〔目標〕が達成できないという迷信を信じ続けることだろう.
「ここは西部なんだよ.伝説と事実があるなら,伝説を事実にするんだ.」〔映画『リバティ・バランスを射った男』のセリフ〕