●Scott Sumner, “A weird omission”(TheMoneyIllusion, March 28, 2022)
フィナンシャル・タイムズ紙が加速する円安について取り上げている。記事の冒頭を引用しておこう。
各国の中央銀行が金融引き締めに動く中、日本銀行はその流れに抗して大規模な金融緩和策を継続する姿勢を鮮明にしている。それに伴い、円がドルに対しておよそ7年ぶりの安値をつける格好となっている。円安を是正するために、日銀が1998年以来の為替介入(円買い介入)に乗り出すのではないかとの憶測が市場関係者の間で広がっている。
月曜日の外国為替市場で対ドルの円相場が2%以上下落し、1ドル=125円の安値をつけた。市場関係者の間では、さらに円安が進むのではないかとも見込まれている。対ドルの円相場は、今月(2022年3月)に入って7%以上下落している。2016年以降だと、1カ月あたりで最大の下落率だ。
1998年に日銀が円安の「是正」策に乗り出した時には、どんないい結果が待ち受けていたんだろうね?
先に引用した文章を読みながら、次にどんな文章が続くんだろうってワクワクしていた。その時の私の脳内を再現すると以下の通り。「これから続く文章で、円安の弊害について語られるんだろうな。日銀が円安を『是正』しなくちゃいけないと考えているらしい理由について、記者なりの説明が加えられるんだろうな。そしたらこちらで論駁(ろんばく)してやって、ブログのネタにしてやろう。上出来な仕上がりのエントリーになりそうだ。どれどれ」。
残念ながら、私の期待は裏切られた。円安の弊害についても、日銀が円安を「是正」しなくちゃいけないと考えているらしい理由についても、ちっとも語られていないのだ。そのおかげで、このエントリーもつまらない仕上がりになってしまいそうだ。
フィナンシャル・タイムズ紙と言えば、超高級紙だ。高級紙には、半端(はんぱ)な内容の記事は載らないものだ。「政府は、Xを行うことを検討している」という文章の後には、政府がどうしてXを行う必要があると考えているのかを記者なりに説明する文章が続くものと決まっている。高級紙であればね。日銀が円安を「是正」しなくちゃいけないと考えているらしいことを仄(ほの)めかす文章を目にしたら、好奇心旺盛な読者であれば、「日銀が円安を懸念しているらしいのは、どうしてなんだろう?」って疑問に思うはずだ。高級紙の記者であれば、その疑問に答えねばならないのだ。
言うまでもないが、日銀が円安を懸念すべき理由なんて一切ない。とは言え、異論は認めないというわけじゃなく、日銀が円安を懸念していると思うんなら、記者なりにその理由を――どんなに筋悪であろうが――説明してもらいたかったのだ。そしたら徹底的に論駁できたのに。残念ながら、そんな好機はやってこず。
代わりにと言うべきか、記事の締め括りでは、円安が日本経済に好ましい影響を及ぼす理由について説明されている。
先週の金曜日に、日銀の黒田総裁は、円安は日本経済に「プラスに作用する」との見解を繰り返した。円安によって輸出が促進されることがその理由の一つだという。
円安が「是正」されないようであれば、日本から海外への輸出が伸びるだろうし、インフレ率が(日銀が目標として掲げる)2%近辺にまで押し上げられることにもなるだろう。フィナンシャル・タイムズ紙によると、そうならないようにしなくちゃいけないんだとさ。