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タイラー・コーエン 「アメリカにおける所得格差の変遷は何を物語っているか? ~戦争と平和と所得格差と~」(2004年3月21日)

●Tyler Cowen, “Income inequality over time”(Marginal Revolution, March 21, 2004)


アメリカにおける所得上位10%の富裕層が手にする年収の総額が国民所得に占める割合(所得占有率)は一体どのくらいの大きさ(値)になるんだろうか? そしてその値は時とともにどのような変遷を辿っているんだろうか?

そのあたりのことについてベン・ミューズ(Ben Muse)が(トマ・ピケティ(Thomas Piketty)&エマニュエル・サエズ(Emmanuel Saez)の共著論文である “Income Inequality in the United States, 1913-1998”(pdf)に依拠しつつ)詳しく語っている。

1917年の時点では上位10%の「課税単位」が手にする年収の総額は国民所得のおよそ40%に達していた(所得占有率は40%)。上位10%の所得占有率は1929年頃まで上昇傾向を辿り、その後は安定期に入る。44~46%のあたりを行ったり来たりする状態が1940年まで続くわけだが、その後はガクッと大きく落ち込むことに。戦争(第二次世界大戦)の真っ只中に32%という最低の値を記録するとその後長らく低空飛行を続けることになるが、1972年を境に上昇局面に入る。上位10%の所得占有率は1972年以降にほぼ一本調子で上昇を続け、1998年には42%を記録するに至る。

上位10%の所得占有率の変遷を跡付けたグラフが以下だ。

上位10%に括られる富裕層を細かく区分けしてみるとどんな傾向が見えてくるかというと・・・

第90百分位数~第99百分位数の範囲に入る富裕層(上位10%のうちで上位1%を除いた層)1の所得占有率は1917年から1940年あたりにかけて緩やかな上昇傾向を辿るが、第二次世界大戦中にはガクッと落ち込むことになる。しかしながら、戦争が終わると(所得占有率は)再び向きを転じて1998年まで一貫して上昇傾向を辿ることになる。

その一方で、上位1%の超富裕層の所得占有率は変動が激しい。ピケティ&サエズの二人は上位1%の所得占有率のデータを1913年まで遡って入手している。1913年と言えば第一次世界大戦が勃発する前年にあたるが、上位1%の所得占有率はアメリカが第一次世界大戦に参戦するのに伴って急落し、戦後も不況が続く間は低空飛行を続ける。しかしながら、1920年代にアメリカ経済が繁栄に沸くのに伴って上位1%の所得占有率も上昇を続けることになり、その値は1929年に絶頂に達することになる。そして大恐慌が到来。それに伴って上位1%の所得占有率も急落。しばらくして第二次世界大戦が勃発すると再びそれに伴って上位1%の所得占有率も急落。上位1%の所得占有率は第二次世界大戦が終わって以降もしばらく低下傾向を辿り、1972年頃にどん底の値をつけてその後は向きを転じる。上位1%の所得占有率は1972年から1998年までの間に上昇傾向を辿ることになるわけだが、(レーガン政権下における)86年税制改革法の成立を受けて1987年と1988年にとりわけ大幅な上昇を見せることになる。

その他にどんなことが知れるだろうか? (ピケティ&サエズも指摘していることだが)戦争をはじめとした騒乱は労働所得(勤労所得)よりも(配当金や金利収入、家賃収入などといった)資本所得により大きな打撃を加えることになるようだ2。そうだとすると、健全で平和な社会では所得格差は拡大の一途を辿ることになってしまうかもしれない。別の言い方をすると、(戦争にも巻き込まれず大恐慌級の不況にも見舞われないという意味で)運に恵まれたとしてもそれに伴って所得格差は拡大する一方となるやもしれないということだ。

  1. 訳注;例えば、1000人を対象にして所得額の多い順にランキングをまとめるとすると、第1位から第100位までが上位10%ということになる。第90百分位数~第99百分位数の範囲に入る富裕層というのは上位10%のうちで上位1%を除いた層なので(今の例だと上位1%は第1位から第10位までということになるので)第11位から第100位までの計90人ということになる。 []
  2. 訳注;上位1%の超富裕層は他の層よりも資本所得を収入源とする傾向が強く、戦争をはじめとした騒乱に伴って資本所得が大きく上下動するために上位1%の超富裕層の所得占有率も(戦争をはじめとした騒乱に伴って)変動が激しくなる。 []

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