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タイラー・コーエン 「アルバート・ハーシュマンの経済学」(2006年8月15日)

●Tyler Cowen, “Albert Hirschman”(Marginal Revolution, August 15, 2006)


HenryがCrooked Timberブログで問うている

リバタリアンの面々は、ハーシュマンの議論についてどう思ってるんだろうか? そもそも、ハーシュマンを読んだことあるんだろうか? ハーシュマンについて、いくらか練られた意見を持ってたりするんだろうか?

アルバート・ハーシュマンは、ノーベル経済学賞を受賞するにふさわしい人物だ。不均衡発展に関する初期の研究(邦訳『経済発展の戦略』)は、経済発展論(開発経済学)の分野における先駆的な業績だし、 『The Rhetoric of Reaction』(邦訳『反動のレトリック』)は、知識人による自己欺瞞(self-deception)に関する優れた研究だ。さらには、思想史の研究者としても優れた業績を残している。例えば、商業活動が世俗の道徳をいかにして形作ったかを跡付けた研究(邦訳『情念の政治経済学』)がそれだ。

しかしながら、もし仮にノーベル経済学賞がハーシュマンに授与されるようなことがあるとすれば、その理由は、経済学者や政治学者の注目をボイスという現象(邦訳『離脱・発言・忠誠』)に振り向けさせた点に求められることだろう。ボイス(抗議)とは何かというと、消費者や有権者が不満の声をあげることで、企業や政府が提供する財やサービスの質の改善を促すことを指している。ハーシュマンは、ボイスのメカニズム1 についてシステマティックに考え抜いた最初の学者、現代の社会科学界のパイオニアなのだ。

イグジット(退出)を行使できる機会が限られていると、ボイスが積極的に利用されるようになるし、ボイスの効果も高まる。どうやら、ハーシュマンは当初のうちはそのように考えていたようだ。その場から立ち去れるのなら、その場にとどまってわざわざ不満を述べるまでもない、というわけだ。そのことを理解していたのがカストロ(Fidel Castro)。(不満を抱える)キューバ市民が大量に国外に脱出する(イグジットする)のを見逃したのだ。当然ながら言うべきか、亡命したキューバ人は、到着先のフロリダなんかで不満の声をあげたわけだけれどね。教育バウチャー制度が導入される(イグジットの機会が生まれる)と、父母会議に参加する親が減る、なんていう声も聞かれる。父母会議で怒鳴り散らすくらいなら、我が子を別の学校に移せばいいってわけだ。

しかし、実際のところは、ボイスがその効果を最も発揮するのは、競争圧力が強い(イグジットに容易に訴えることができる) 時というケースが多い。東ドイツの政府当局よりもHBO(エイチビーオー;アメリカのケーブルテレビ放送局)の方が不満の声に敏感だし、ウェグマンズ(アメリカにあるスーパーマーケットチェーン)に不満の声をぶつけようものなら、何なら本ブログのコメント欄で不満をつぶやいても、すぐにも聞き入れられることだろう2。つまり、競争(イグジット)とボイスは、代替的というよりも、補完的である可能性が高いのだ。後になってハーシュマンもこのことを認めるに至り、このことをあちこちで強調するようになった(邦訳『方法としての自己破壊』)のであった。

私の知る範囲だと、ボイスが効力を持つのはどんな時かを、理論的にきっちりと解明した例はまだないようだ。ハーシュマンの(イグジット&ボイスに関する)議論をモデル化しようと試みている最近の例としては、こちらの論文がある。肝心な問題は、人がボイスという手段に訴える動機がよくわかっていないということだ。

経済発展論の分野におけるハーシュマンの貢献については、ポール・クルーグマン(Paul Krugman)のこちらの論説を参照されたい。こちらの論文では、「進化」についてのハーシュマンの考えが検討されている。

(追記)タバロックが、こちらのブログエントリー〔拙訳はこちら〕で、ボイスについて私見を述べている。この件でタバロックとひと揉めしたかったところだが、残念ながらそうはいかなそうだ。

  1. 訳注;ボイスを通じた規律付け効果 []
  2. 訳注;HBOにしても、ウェグマンズにしても、ブログにしても、代わりとなる選択肢(競合相手)が多いため(競争が活発なため)、顧客や読者の声に敏感にならざるを得ない、ということ。顧客や読者の不満の声に鈍感だと、すぐにでもイグジットされてしまう(他のライバルにお客をとられてしまう)可能性があり、そのことが脅しとなってボイスの効果が高められることになる。 []

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