タイラー・コーエン 「エミ・ナカムラ ~2019年度のジョン・ベイツ・クラーク賞受賞者~」(2019年5月1日、2020年2月12日)

●Tyler Cowen, “Emi Nakamura of Berkeley wins the John Bates Clark award”(Marginal Revolution, May 1, 2019)


エミ・ナカムラに2019年度のジョン・ベイツ・クラーク賞が授与された。アメリカ経済学会による発表文はこちらだ。冒頭部分を引用しておこう。

エミ・ナカムラは、企業による価格設定だったり、金融政策および財政政策の効果だったりについての理解を一段と深める上で大きな貢献を果たしてきた実証マクロ経済学者である。エミの特色は、マクロ経済学の分野で長らく解かれずにいる疑問に切り込むのに格好のデータを新たにどこからか引っ張り出してくる創造性にある。マクロ経済学の実証研究の分野で従来扱われてきた時系列データの多くは、戦後のデータに限られていたり、四半期ごとに入手できるデータだったり、集計化されたマクロデータだったりした。しかしながら、エミは、長いスパンにわたるデータだったり、高頻度データ(四半期よりも短い間隔で入手できるデータ)だったり、ミクロデータだったりを使って、マクロ経済学の分野で長らく解かれずにいる疑問に切り込んだのである。そのためには、これまで誰も手をつけてこなかったデータを引っ張り出してこなくてはならず、その分析には一方ならぬ苦労を要したが、エミはその難業を忍耐強くやり遂げたのである。それだけでなく、エミは、マクロ経済学の分野で競合する数理モデル(理論)の内容にも通じていて、そのおかげでどのモデル(理論)がデータと合致するかを見極めることができたのである。

おめでとう! アメリカ経済学会による発表文では、ナカムラの業績に絡めて興味深い論点がたんまり取り上げられている。ナカムラについては、過去に本ブログでも何度か取り上げているので、あわせて参照されたい。

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●Tyler Cowen, “Emi Nakamura, 2019 John Bates Clark award winner”(Marginal Revolution, February 12, 2020)


ジャニス・エバリー(Janice Eberly)&マイケル・ウッドフォード(Michael Woodford)の二人が、ジャーナル・オブ・エコノミック・パースペクティブ(JEP)誌に寄せた論文(pdf)で、2019年度のジョン・ベイツ・クラーク賞受賞者であるエミ・ナカムラの業績を概観している。その一部を引用しておこう。

エミの経済学との出会いは早かった。彼女の祖父は、著名な計量経済学者であるガイ・オーカット(Guy Orcutt)であり、父のマサオ・ナカムラ(中村正夫)も、母のアリス・ナカムラも、どちらも経済学者だ。母親のアリス・オーカット・ナカムラは、カナダ経済学会の会長を務めた経験もある。エミ本人が回顧しているところによると、経済学に早い段階で触れ合うことができたのも、「理論を実証的に検証することを重視する精神」(pdf)が心の奥底まで植え付けられたのも、両親のおかげだという。まだ幼い時に、母親と一緒に学会に出席したこともあるそうだ。高校生になると、ブリテッシュコロンビア大学まで通って、経済学の講義に顔を出すようにもなったという。その時に受けた講義の一つが、アーウィン・ディワート(Erwin Diewert)が担当していた修士向けの講義で、経済変数の測定や指数理論がテーマだったという。その講義に出たおかげで、経済変数の測定を疎(おろそ)かにしてはならないとの思いに目覚めたらしい。その件で言うと、DNAの構造が解き明かされるまでの経緯を描いたテレビドラマの『The Race for the Double Helix』(『二重らせんの発見レース』)も一役買っている。そのドラマを一緒に観ていた両親が、実証家のロザリンド・フランクリン(Rosalind Franklin)の役割を強調し、「間違った事実ほど悪いことはない」と念押ししたというのだ。

才能をフルに発揮させられる環境を早いうちから用意しておくことは大事だよっていう教訓が導かれるかもしれないね。エミ・ナカムラについては、過去に本ブログでも何度か取り上げているので、あわせて参照されたい。

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