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タイラー・コーエン 「キッドランド&プレスコットの貢献 ~時間整合性問題の厳密な展開~」(2004年10月11日)

●Tyler Cowen, “Kydland and Prescott: New Nobel Laureates”(Marginal Revolution, October 11, 2004)


今年(2004年)のノーベル経済学賞はフィン・キッドランド(Finn Kydland)エドワード・プレスコット(Edward Prescott)の両名に授与される旨が発表された。彼らは1977年に「時間整合性」の問題に関する有名な論文(ジャーナル・オブ・ポリティカル・エコノミー誌に掲載)を共著で物している。医薬品に対する政府の政策(規制)は何でこんなにも問題だらけなのだろうかと不思議に思ったことがあるかもしれないが、その理由を知りたければキッドランドとプレスコット(による1977年の論文)にお伺いを立てればいい。新薬を開発した製薬会社には特許(その薬を独占販売できる権利)を与え、その薬を高値で売るに任せる。新薬が開発されるよりも前の段階ではそれが「最適な政策」だ1。しかしながら、ひとたび新薬が無事開発されるや政府は(新薬を開発した製薬会社が手にする)「独占レント」(超過利潤)を奪い去りたい誘惑に駆られることだろう。つまりは、新薬を開発した製薬会社には特許を与えるという取り決め(約束)を反故にして(その他の製薬会社にもその新薬を自由に製造・販売することを許すことによって)その薬が安くで手に入るように図るということになるわけだが、新薬が開発された後の段階ではそれが「最適な政策」だ。新たに開発された薬を誰もが安くで手に入れられるようにして何が悪い?、というわけだ。製薬会社の側もそのような危険性2があることは織り込み済みであり、それがために新薬の開発に二の足を踏む。そうなる可能性があるわけだ。タイミングがいいことにタバロックも数日前に同様の理屈を展開しているのでそちらもあわせて参照されたい。

(上の例におけるその時々の)「最適な政策」は「時間整合的な政策」ではない。いくらか堅苦しくて専門的な表現を使うとそういうように言えるわけだが、この方面におけるキッドランドとプレスコットの研究はそれ以前にトーマス・シェリング(Thomas Schelling)がゲーム理論の分野で練り上げていたアイデアをさらに発展させた(磨き上げた)ものとして位置付けることができる。相手の国が実際に核攻撃を仕掛けてきた場合に(事前の宣言通りに)核兵器を使って報復してやろうという気になれるかというと必ずしもそうとは限らない。そのため核抑止はうまくいかないかもしれない3。シェリングはそう指摘していたものだ。

時間整合性のロジックはかなり普遍性が高い。規制政策だけではなく、金融政策や租税政策、外交政策(サダム・フセインに脅しをかける・・・のはいいが、その脅しをどこまで本気で実行するつもりがあるだろうか?)といった(複数のプレイヤーの間で)戦略的な相互作用が繰り広げられる場面の数々でその顔をのぞかせることがあるのだ。

プレスコットについては少し前に(今年のノーベル経済学賞受賞者は誰になりそうかを予想した)こちらのエントリーでも話題にしたばかりだ。プレスコットの業績について時間整合性問題以外の方面も簡潔ながら話題にしているのであわせて参照してもらいたいが、プレスコットはノーベル経済学賞を2度受賞してもおかしくないだけの業績を残していると言っても言い過ぎではないだろう。プレスコットに比べるとキッドランドの知名度はいくらか劣るが、重要な学者であることは言うまでもない。「キッドランドはスカンジナビアの出身(ノルウェー人)だしなあ」なんていう横槍は放っておけばいいだろう4

キッドランドとプレスコットの二人はノーベル賞を受賞するにふさわしいと言えるだろうか? その答えは間違いなく「イエス」だ。

なぜ今年(2004年)はこの二人だったのだろうか? アメリカでは国を二分する大統領選挙が繰り広げられている最中ということもあってスウェーデン王立科学アカデミーとしてはポール・クルーグマンだとかロバート・バロー(ブッシュ寄り)だとかは選びたくなかったのかもしれない。クルーグマンやバローを選ぶと「政治的な思惑が絡んでいるのではないか?」と疑われる恐れがあるからだ。それだけではなく、ノーベル経済学賞は長らく批判にさらされてきているということもある。「経済学は『科学』と呼べるだけの資格があるのか?」と疑いの目が向けられているのだ。

(持ち金を賭けてノーベル賞の受賞者を予想する)賭け市場(予測市場)の予想は見事に的中したようだ。プレスコットは少し前まで(受賞者が発表される直前まで)かなりのリードを広げて一番人気だったのだ。

  1. 訳注;新薬の開発には莫大な費用を要するため(場合によっては多額の費用を投じたにもかかわらず新薬の開発に失敗する可能性もある)、新薬の販売を通じて少なくとも開発費用を回収するに十分なだけの利潤が得られそうでなければ製薬会社としても新薬の開発には乗り気になれない。新薬を開発した製薬会社に「特許」を与えれば「独占レント」を手にする機会が開かれることになり、製薬会社も新薬の開発に積極的になる可能性がある。 []
  2. 訳注;政府が「新薬が開発されたら特許を与える」との前言を翻す可能性 []
  3. 訳注;「そちらが核攻撃を仕掛けてきたらこちらも核兵器で報復するぞ」という脅しは相手から信用されない(信憑性に欠ける)可能性があり、脅しが信用されなければ相手国による先制的な核攻撃を抑止できない可能性がある、ということ。「こちらも核兵器で報復するぞ」という脅しに信憑性を持たせるには例えば相手が核攻撃を仕掛けてきたら自動的にこちらから相手の国に向けて核兵器が発射されるようにプログラムを組んでおく(そしてそのことを相手にも知らせておく)といった手段が考えられる。 []
  4. 訳注;「スウェーデン王立科学アカデミーが身内びいきでキッドランドを選出した面もあるのではないか?」との穿った見方は的外れ、という意味。 []

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