タイラー・コーエン 「大飢饉の政治経済学 ~1932-33年にソ連邦を襲った大飢饉でウクライナ人の死亡率がとりわけ高かったのはなぜ?~」(2021年8月3日)

●Tyler Cowen, “The Political-Economic Causes of the Soviet Great Famine, 1932–33”(Marginal Revolution, August 3, 2021)


1932-33年にソ連邦を襲った大飢饉ではウクライナ人の死亡率がとりわけ高かったが、その原因はソビエト政府による政策に求められるのだろうか。本稿では、大規模なデータを新たに収集・作成してそのことを検証した。検証の結果わかったことの一部をまとめると、以下の通り。ウクライナ人の人口比率が高い州ほど、飢餓による死亡率も高い傾向にあること。同じ州の中でも同様の関係が見られる(ウクライナ人の人口比率が高い〔州内の〕地域ほど、飢餓による死亡率も高い傾向にある)こと。飢餓による死亡率の高さは、ウクライナ人であるかどうかとは関係があっても、ウクライナ国内に住んでいるかどうか(ウクライナ・ソビエト社会主義共和国内に住んでいるか、それともロシア・ソビエト連邦社会主義共和国内に住んでいるか)とは関係がないこと。本稿で得られた一連の結果は、1932-33年にソ連邦を襲った大飢饉でウクライナ人の死亡率がとりわけ高かった原因はソビエト政府による政策に求められることを裏付ける強力な証拠を提示しているばかりではなく、ソ連当局の側にウクライナ人を抑圧してやろうとの意図があった可能性を示唆している。大雑把な計算によると、ロシア・ウクライナ・ベラルーシの計三国で起きた餓死の77% [1] … Continue reading、ウクライナ一国で起きた餓死の92% [2] … Continue readingが、ソ連当局によるウクライナ人への敵意によって説明できる可能性があるのだ。

アンドレイ・マルケヴィッチ(Andrei Markevich)&(大学の同僚でもある)ナタリア・ナウメンコ(Natalya Naumenko)&ナンシー・チェン(Nancy Qian)の三人の共著論文(NBERワーキングペーパー)より。データの収集・作成の面だけとっても目を見張る仕事ぶりだが、民族差別が原因なのではないか――1932-33年にソ連邦を襲った大飢饉でウクライナ人の死亡率がとりわけ高かったのは、ソ連当局によるウクライナ人への敵意に原因があるのではないか――との仮説を強く支持する結果まで得られているようだ。

References

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1 訳注;論文では、1933年にロシア・ウクライナ・ベラルーシの三国において飢饉が原因で亡くなったと推定される227万人のうち、ソ連当局によるウクライナ人への敵意が原因で餓死に追いやられた可能性があるのは175万人、との計算結果が出ている。
2 訳注;論文では、1933年にウクライナ一国において飢饉が原因で亡くなったと推定される150万人のうち、ソ連当局によるウクライナ人への敵意が原因で餓死に追いやられた可能性があるのは138万人、との計算結果が出ている。
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