●Tyler Cowen, “The decay of gratitude”(Marginal Revolution, June 17, 2008)
フランシス・フリン(Francis Flynn)によると、好意がやり取りされた直後に関しては好意の受け手は(好意の)送り手よりもその好意(恩)を高く評価する傾向にあるという。しかしながら、しばらく時が経つと受け手は(相手から受けた)好意(恩)を低く評価するようになり、その一方で送り手の側は(相手に与えた)好意を高く評価するようになるという。そのようになる理由はいくつか考えられるが、時が経つにつれて好意のやり取りに関する記憶に歪みが生じるというのが原因の一つだろう。人は自らのことをできるだけ優れた存在として見なそうとする傾向がある。そのような傾向があるために、好意の受け手は「別にあの時助けてもらう必要なんてなかったんだ」と当時のことを振り返る一方で、好意の送り手は「わざわざ骨を折って助けの手を差し伸べてやったんだ」と当時のことを思い起こすことになるのかもしれない。
以上の文章はロバート・チャルディーニ(Robert Cialdini)らが執筆している『Yes! 50 Scientifically Proven Ways to be Persuasive』(邦訳 『影響力の武器 実践編-「イエス!」を引き出す50の秘訣』)からの引用である。チャルディーニの前作である『Influence』(邦訳 『影響力の武器』)は社会科学の分野の本で今でも個人的にお気に入りの一冊だ。上の文章の中で紹介されているフリンの研究についてはこちらを参照のこと。
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●Tyler Cowen, “The power of “because”” (Marginal Revolution, June 25, 2008)
心理学者のエレン・ランガー(Ellen Langer)を中心とした研究者チームは“because”という言葉1がどれだけの説得力を備えているかを検証しようと思い立ち、次のような実験を行った。ある人物にコピー機の順番待ちをしている列に近付いてもらい、その列の中の一人(初めて顔を合わせた相手)に次のように声をかけてもらったのである。「すいません。5ページだけ印刷したいのですが、先にコピーさせていただけませんか?」 列に並ばずに優先的にコピーさせてくれという申し出なわけだが、声をかけられた人のうち60%はこのような申し出を受け入れて先にコピーさせてくれたのであった。一方で、このような申し出に理由が一言添えられると(「急いでいるので、先にコピーさせていただけませんか?(“May I use the Xerox machine, because I’m in a rush?”)」、ほぼすべての人(94%の人)が申し出を受け入れたのである。
・・・しかし、この実験が本当に面白くなるのはここからだ。・・・“because”という言葉を使ってコピーを優先してくれるよう申し出る点は先ほどと同じだが、例えば次のように“because”の後にまったく内容のない文章(理由になっていない理由)を口にしてもらったのである。「コピーをとらなければならないので、先にコピーさせていただけませんか?(“May I use the Xerox machine, because I have to make copies?”)」
その結果はというと、93%の人が申し出を受け入れたということだ2。
以上の文章はロバート・チャルディーニ(Robert Cialdini)らが執筆している『Yes! 50 Scientifically Proven Ways to be Persuasive』(邦訳 『影響力の武器 実践編-「イエス!」を引き出す50の秘訣』)からの引用である。
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