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パメラ・カンパ, ミシェル・サルフィネーリ「女性・仕事・社会主義」(2018年6月22日)

Pamela Campa, Michel Serafinelli, “Women, work, and socialism” (VOX, 22 June 2018)


仕事とジェンダーにたいする態度は、所与の時と場所における慣習・実態・政策を形成するとともに、同時にそれらによって形成される。本稿では、ジェンダーロールと労働にたいする態度に政治経済体制が及ぼす影響の在り方を調査するため、「鉄のカーテン」 の設立と倒壊に着目する。調査結果が示すところ、国家社会主義政権における女性は、仕事および労働参加にたいし、より否定的でない見解またより伝統主義的でない見解をもつ傾向があった。

仕事にたいする女性の態度、また一般人口におけるジェンダーロールにたいする態度は、時と場所により相当に異なる。例えば、Giavazzi et al. (2013) では、1980-2000年期のヨーロッパ地域およびOECD諸国におけるこれら態度の変容が観察された。またこれら態度は労働市場アウトカムにたいしても有意な効果をもたらすことが示されている。Fortin (2008) は、〈仕事にたいする態度のジェンダー差は、ジェンダー賃金格差を説明するうえで相当な役割を果たす〉旨を示すエビデンスを提示している。さらにFernández et al. (2004) は、ジェンダーロールが女性の労働参加に及ぼす実体的な効果を明らかにする。

ところでこうした態度は、政治経済体制や政府政策から、どの程度影響されているのだろうか? 政治経済体制は態度に影響を及ぼすのか。この問題への回答は、〈体制の決定は無作為に行われるものではない〉 事実のために、一筋縄ではいかないものとなっている。

国家社会主義の擬似実験

そんななか我々の最近の論文では、中央・東ヨーロッパ全体にわたる国家社会主義体制の創設、またこれら体制が、手段的な理由とイデオロギー上の理由の双方から、女性の経済的包摂を促進するために行った活動に着目している (Campa and Serafinelli 2018)。1940年代後半の権力掌握から1960年代後半に至るまでの時期、該当地域全体に存在していた諸般の国家社会主義政権は、女性の経済的包摂の促進をめざす活動に尽力した – これら体制による急速な工業化、そして (高度の労働活用を基礎とした) 経済成長の一般計画は、そうした包摂の如何にかかっていたのである。またなにより、女性の経済的独立は女性の平等に不可欠な前提条件と見做されていた。これら政権はこの原理にコミットしていたとさえいえよう。もっとも、女性労働力の必要のほうが遥かに重要だったのだと主張する学者も多い。いずれにせよ、同一労働同一条件の原則 (principle of equal work under equal conditions)[訳註1]・新しい家族法・教育訓練政策の採用などの法的変化が、この目標の推進をめざして取り入れられた1。そして女性の雇用はこの時期、該当地域全体で増加した。以上の歴史的文脈のなかで、我々は態度への働きかけに政治体制が果たした役割を実証的に調査することにした。

仕事にたいする女性の態度、東・西ドイツのジェンダーロールにたいする態度

本分析の主要部では、1945年以降の東・西ドイツ分断事件を利用している。1945年以前、東・西ドイツの政治経済体制は同一だった。しかし1945年以降になると、同国はふたつに分かたれ、東・西ドイツの女性は極めて異なる制度と政策に曝されるようになる。東ドイツが (とりわけ1960年代に) 女性の資格者雇用を優遇する政策にフォーカスするかたわら、西ドイツでは、女性は 〈子供を授かったあとは家庭に留まる、または長期休職ののちはパートタイム雇用に差し向ける〉 というシステムが奨励されたのである (Trappe 1996, Shaffer 1981)。そこで我々は、サンプル中の女性・男性で、再統一以前に東ドイツで生活していた者と西ドイツで生活していた者につき、その仕事にたいする態度の比較を行うことにした。具体的には、「ドイツ社会経済パネル (GSOEP: German Socioeconomic Panel)」 および回答者の居住地に関する利用制限の課された情報への独自アクセスを活用している。本パネルはドイツ居住世帯にたいする長期的サーベイ調査である。

仕事にたいする態度の測定には、回答者にとってのキャリアサクセスの重要性を尋ねる質問を用いた – この質問は1990年、再統一プロセス完了前の段階でおこなわれたものである。この質問時期は重要だ。これにより、国家社会主義国における生活の効果を、ポスト-社会主義国における生活の効果から引き離すことが可能になるからだ。考え得る問題点としては、東ドイツで生活していた個人の平均的態度を西ドイツのそれと単純に比較すると、分断以前にこれらふたつの地域にあった差異によるバイアスが生ずるかもしれないことが挙げられる。こうした差異が本文脈において関連性を有することを示唆するエビデンスは、幾つか存在する。そこでこの考え得る問題に対処するため、我々はいわゆる空間的回帰不連続フレームワーク (spatial regression discontinuity framework) を用いて、再統一にさきだつ時期に東西国境の近くで生活していた個人のみを対象として比較を行うことにした。

なお以上の背景には、〈東西国境に十分近いエリアのあいだに分断以前からあった差異で、個人の態度に影響を及ぼすようなものはいずれも、国境地点において滑らかに推移していた〉 との仮定がある2。さて結果だが、東ドイツ女性のサンプルでは仕事にたいする態度がより肯定的であったことが判明した。OLS推定値に従うと、1990年の時点で東ドイツの体制に曝されていた女性は、自分にとって仕事での成功は重要であると考える傾向が14%ポイント高かった。空間的回帰不連続分析の結果も同様である。一般的にいえば、東ドイツでは女性も男性も仕事にたいしより多くの重要性を認めていたようだ。しかし東西男性間の差が有意なのはOLSモデル仕様においてのみであり、しかもそれは女性のあいだに観察される差の半分をすら常に下回る程度なのである。

図 1 職業的成功は重要 (回帰不連続グラフ)

: 図は、GSOEPにふくまれる女性と男性について、目盛毎の平均値と線形回帰を示したもの。線分は 職業的成功は重要 (Job Success Important) 〔変数〕 を距離に回帰した当てはめ値であり、国境の両側について推定している。目盛のサイズは5kmをわずかに上回る程度だが、これは国境の両側に30個の目盛を設定できるように選ばれたもの。左側が西ドイツ。職業的成功は重要 変数の値は、自分にとって仕事での成功は重要だと該当個人が報告したばあいに1、それ以外は0を取る。

推定値は、異なる体制への露出が女性の雇用に及ぼす効果も示唆している3。これは重要な点だが、女性の態度と雇用ステータスに見られる東西の差は、再統一以後にも存続しているようである。より具体的にいえば、研究対象となった各年度、本情報の利用が可能な最後の年度 (2012) に至るまでずっと、ドイツ女性が報告する仕事にたいする態度は男性ほど肯定的でなく、また雇用状態にある傾向も男性より少ない; ところが、こうしたジェンダーギャップも1989年に東ドイツで生活していた個人についてみると、同時期に西ドイツで生活していた個人のあいだのそれとくらべ、有意に小さくなっているのである。さらに我々は、〈女性の雇用に大きな成長が見られたエリアほど、仕事にたいする女性の態度の変化も大きかった〉旨を示唆するエビデンスも示している。他方、プロパガンダが態度に及ぼした効果は確認されなかった。

最後に、東ドイツで生活している個人のジェンダーロールにたいする態度は、女性・男性ともに、西ドイツで生活している個人のそれよりも、「伝統主義的 (traditional)」 でないことを示した (図2参照)。

図 2 ドイツにおけるジェンダーロールに対する態度 (回帰不連続グラフ)

: 図は、図1と同じように構築されたもので、次に挙げる言明への同意度に基づく (左から右、上から下パネルの順): 仕事を持つ母親も仕事を持たない母親と変わらぬくらい愛情と信頼に満ちた関係を自らの子供と築きうる; 当然のことながら、母親が就労すれば赤ん坊は被害をこうむる; 母親が家庭の仕事に専念するばかりでなく就労するのは、子供にとって望ましいことだとさえいえる; 女性にとっては自分のキャリアを積み上げるよりも夫のキャリアを支えることのほうが大事だ; 夫は仕事、妻は家庭に残って家庭と子供の世話をするほうが、皆にとって望ましい; 既婚女性は、働き口の数が限られていて、しかも夫に家族の生計を立てる能力があるようなときは、働き口があっても辞退すべきだ。対応する従属変数の値が1ならば、より伝統主義的でない見解、0ならばより伝統主義的な見解を表わす。

東・西ヨーロッパにおけるジェンダーロールにたいする態度

つづいて、差分の差分ストラテジーを用いて、中央・東ヨーロッパ諸国 (CEECs) および西ヨーロッパ諸国において形成された態度を、CEECsに国家社会主義が創設された時期の前後で比較した。この目的のためには、態度を計る時間-変化的尺度を調達する必要がある。しかしこれは問題含みだ。というのも、1945年以前のジェンダーロールにたいする態度を計った測定値に、妥当なものがないのである。我々はこの難問に、合衆国移民およびその子孫の態度に関するデータを活用し、かれらの出自国における態度の時間変化的尺度を構築することで、対処した。この試みは、移民と移民出身国居住者の行動のあいだにある関係を指摘し、これを利用している最近の一連の研究、そして 〈親のジェンダーロール態度は子供の態度を予測するうえで有用である〉 との旨を示すエビデンスに触発されたものだ。

合衆国移民はさまざまな時期に移入している。そこで我々は、かれらの出身国 (およびその子孫に継承された態度) を活用することで、出身国のジェンダーロールにたいする態度につき、その継時的変化の把捉を試みた。例えば、フランス・ポーランド出身で、1945年から1990年にかけて移住してきた合衆国居住者と、その子孫を対照することで、フランス・ポーランドにおいてこの時期に形成されたジェンダーロールにたいする態度の差を特定した 〔ポーランドは本稿における国家社会主義国に属す〕。つづいて同じ手順を、合衆国居住者 (およびその子孫) であって、1900年から1945年にかけて移入してきた者について行い、1945年以前のフランス・ポーランド間の差異を計る尺度を確保した。ここで依拠したのは 「総合的社会調査 (General Social Survey)」 のデータである。これは同時代の合衆国居住者がもつジェンダーロールにたいする態度についてサーベイ調査を行ったもので、かれらやその祖先の大よその移民流入時期が推察できる情報も提供してくれる。以上のアプローチにより、1945年以前・以後におけるジェンダーロール態度の変化が、ヨーロッパ19ヶ国について追跡できるようになる。この19ヶ国のうち、中央・東ヨーロッパの国は5ヶ国、西ヨーロッパの国は14ヶ国である。

ジェンダーロールにたいする態度は次の質問により測定されている: 「次の言明にたいし、あなたは強く賛成、賛成、反対、強く反対のいずれであるか教えてください。男性が家庭の外で何事かを達成し、女性が家庭と家族の世話をすることは、全ての関係者にとってずっと望ましい」。我々は 「男性は仕事、女性は家庭を守る、そうしたほうが望ましい (Better for Man to Work, Woman Tend Home)」 指標を構築した – この指標の値が大きいほど、女性が仕事をすることにたいする伝統主義的な態度が小さくなる。

ジェンダーロールにたいする態度を計るこの尺度と、異時間点の差異そして差分の差分デザインを併用することで、政治経済体制の変化、およびジェンダーロールにたいする女性・男性の態度を推定した。図3はこの推定値を描き出している。ここに現われている係数は、1945年コホートとの対比における、CEECsおよび西ヨーロッパ諸国の平均的態度を表わす。図が示すところ、1945年以前は、CEECsにおける態度も西ヨーロッパ諸国の態度と同様の推移を遂げている。図はまた、1945年以後、国家社会主義体制下のCEECsで形成されたジェンダーロールにたいする態度が、西ヨーロッパ諸国と比較して伝統主義的でなくなっていることも示唆する。

図 3  ジェンダーロールにたいする態度 (1945年コホートとの対比)

全体的に見れば、我々は識別問題とデータ制約をある程度克服するとともに、仕事にたいする態度およびジェンダーロールにたいする態度が政治経済体制から甚大な影響を受けることを確認できた。

参考文献

Alesina, A and N Fuchs-Schundeln (2007), “Good-bye Lenin (or not?): The effect of communism on people’s preferences”, American Economic Review 97(4).

Bauernschuster, S and H Rainer (2011), “Political regimes and the family: How sex-role attitudes continue to differ in reunified Germany”, Journal of Population Economics 25(1): 5–27.

Beblo, M and L Goerges (2015), “Breaking down the wall between nature and nurture: An exploration of gendered work preferences in East and West Germany”, Universitaet Hamburg, WiSo-HH Working Paper Series.

Campa, P and M Serafinelli (2018), “Politico-economic regimes and attitudes: Female workers under state-socialism”, Review of Economics and Statistics, forthcoming.

David, H P (2013), Reproductive behavior: Central and Eastern European experience, Springer.

Giavazzi, F, F Schiantarelli and M Serafinelli (2013), “Attitudes, policies, and work”, Journal of the European Economic Association 11(6): 1256–1289.

Fernández, R, A Fogli and C Olivetti (2004), “Mothers and sons: Preference formation and female labor force dynamics”, Quarterly Journal of Economics 119(4): 1249–1299.

Fortin, N M (2008), “The gender wage gap among young adults in the United States: The importance of money versus people”, Journal of Human Resources 43(4): 884–918.

Lippmann, Q, A Georgieff and C Senik (2016), “Undoing gender with institutions: Lessons from the German Division and Reunification”, PSE, working paper.

Shaffer, H (1981), “Women in the two Germanies: A comparison of a socialist and a non-socialist society.”

Trappe, H (1996), “Work and family in women’s lives in the German Democratic Republic”, Work and Occupations 23(4): 354–377.

原註

[1] 中絶の利用が容易だったことも女性の労働参加を助けた (David 2013)。

[2] 本研究はBauernschuster and Rainer (2011)、Beblo and Goerges (2015) およびLippmann et al. (2016) による最近の研究と関連している。ひとつ目の論文はALLBUSを利用し、1991-2008年の期間をカバーしている。ALLBUSは合衆国の 「総合的社会調査」 のドイツ版に相当するもの。同著者は、東ドイツ出身であることが、男性・女性の役割の住み分けは適切であると考える傾向の低さと結び付いていることを示す。ふたつ目の論文はみっつのALLBUS調査波 (1991・1998/2000・2010/2012) を用いつつ、仕事にたいする選好のジェンダーギャップが東ドイツでは西ドイツよりも小さい旨を示しているが、これは「育ち (nurture)」 が選好形成に影響を及ぼすことと整合的である。みっつ目の論文は1991-2012年期間を対象にGSOEPを用いつつ、東ドイツでは女性が (より多くの時間を家事に充てるなど) 女性的な役割を過剰に担う必要も、結婚生活をリスクに晒すこともなく、自分の伴侶よりも多くの収入を得られたことを示している。より一般的にいえば、我々の論文はAlesina and Fuchs-Schundeln (2007) の嚆矢的研究とも関連がある。同論文は1997年・2002年におけるドイツの再分配選好を分析したもので、東ドイツが西ドイツよりも国家指向的であることを確認している。なお、我々はこれら研究で使用された実証アプローチを幾つかの点で拡張しており、その詳細については論文のなかで解説している。

[3] 1950-90年の期間中、フォーマルな労働市場への女性の参加率は東ドイツのほうが西ドイツよりも高く、また就労女性の仕事時間も東ドイツのほうが長かった。この側面における変化は、東ドイツ体制が成し遂げた極めて数少ないポジティブな業績のひとつといえよう。


訳註1. 元論文 (本稿執筆者のホームページで閲覧できる版) によると、同原則は1949年東ドイツ憲法にもとづくものである。この点もふくめ、参考のため、同憲法の関連個所と思われる条文の日本語訳を引用する。なお、引用文はもともと縦書きである。

東ドイツ憲法 (1949) 第十八条

(一)  共和国は、勤労者の適切な共同決定のもとに、統一的労働法、統一的労働裁判権および統一的労働保護を創設する。

(二)  労働条件は、勤労者の健康、文化的要求および家族生活が確保されるようなものでなければならない。

(三)  労働の対価は、給付に相応し、かつ、労働者とその扶養をうける権利のある家族 (Angehörige) に、人たるに価する生活を保障しなければならない。

(四)  男子と女子、成人と少年は、同一の労働について、同一の賃金をうける権利を有する。

(五)  女子は、労働関係において特別の保護をうける。共和国法律によって、女子が市民および生産者としての任務を、その妻および母としての義務と合致させ得ることを保証する施設がつくられる。

(六)  少年は、搾取に対して保護され、かつ、道徳的、肉体的および精神的に放置されないように、まもられる。児童労働は禁止される。

高木八尺・末延三次・宮沢俊義 編 (1957)、『人権宣言集』、岩波書店 (岩波文庫)、pp. 231-247より引用

 


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